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ウクライナのニュースでよく聞く「テレグラム」どんなSNS? 利用者は世界に7億人

World Now 更新日: 公開日:
スマホに表示されたSNS「テレグラム」の画面
スマホに表示されたSNS「テレグラム」の画面

ウクライナのゼレンスキー大統領が動画を投稿したかと思えば、ロシアの外務省がプーチン大統領の発言を発表し、ウクライナの市民が戦場の被害の実態を訴える──。ロシア国内からは多くのSNSへのアクセスが政府によって遮断される中、テレグラムは変わらず、双方の主張に触れることができる場として多くの人のコミュニケーションを支えている。投稿された記事や動画を世界中のメディアが引用して報道し、侵攻を境に注目を集めるようになった。

テレグラムは誰でも無料でパソコンやスマホから利用できる。公式サイトは通信が速く安全性に優れているとうたう。同社によると、月間の利用者は世界で約7億人。「世界で最もダウンロードされた五つのアプリの一つ」としている。

テレグラムとはどんな会社なのか。

サービス開始は2013年。ロシア人の実業家パーヴェル・ドゥーロフ氏とその兄が立ち上げた。開発者の多くはロシアのサンクトペテルブルク出身で、当初は国内に拠点があったが、規制を受け現在はUAEのドバイに拠点があるとしている。会社にはウクライナ国籍の技術者もいるという。

ドゥーロフ氏のテレグラムへの投稿によると、母親の家系は1917年のロシア革命の際にキーウ(キエフ)からシベリアに追放されたという。今も多くの親戚がウクライナにおり、「この悲劇的な紛争は私とテレグラムの双方にとって自分事だ」と書いている。

テレグラムのパーヴェル・ドゥーロフCEO
テレグラムのパーヴェル・ドゥーロフCEO=ロイター

ロシアのウクライナ侵攻後、このアプリに脚光が当たったのは、ロシア政府が遮断している国外のサイトへのアクセスができるからだ。インターネットを迂回するような特別な知識がなくても、高度な通信の暗号化機能で、ロシア国内にいながら安全に欧米のサイトなどにもアクセスできる。ロシアの大手通信事業者の調査では、侵攻後にロシア国内で最も利用されるメッセージアプリになったという。ロシア国内の月間利用者数は3500万人を超える。

これに注目したのが欧米メディアだ。ウクライナとロシア双方の利用者がアクセスできることから、侵攻後、米ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど、欧米メディアのチャンネルが相次いで開設された。ニューヨーク・タイムズは「ロシアとウクライナの戦争について、偏りのない独立したニュースへのアクセスは不可欠だ。読者が世界のどこからでもアクセスできるよう、テレグラムにチャンネルを開設した」としている。

ロシア当局は2018年、テレグラムに対し暗号化されている利用者同士の通信内容を当局側が解読することができるよう求めた。ところがテレグラム側はこれを拒否したため、ロシア当局はテレグラムへとつながる国外の通信先を遮断する強硬手段に出た。テレグラム側の対抗手段で完全な遮断には至らなかったが、このあおりを受けてグーグルやアマゾンのサーバーにアクセスできなくなる「二次被害」が起きた。

こうした混乱はやがてモスクワでの大規模な抗議集会に発展した。7500人以上が集まり、テレグラムのロゴに用いられている紙飛行機を飛ばすなどして抗議した。当局は謝罪し、措置を撤回せざるを得なくなった。

抗議集会を組織した反ロシア政府の活動家は、ロシアを逃れ、中米のパナマにいた。テレグラム創業者や反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイとも親交があり、ユーチューブのチャンネルに25万人以上の登録者がいるミハイル・スヴェトフさん(37)だ。

オンラインで取材に応じるミハイル・スヴェトフさん
オンラインで取材に応じるミハイル・スヴェトフさん

「言論の自由は私にとって最も重要なものだ。それはインターネット上の言論の自由も同じ。(テレグラム遮断に対して)政府に声をあげることは自然なことだった」

集会を組織した当時をそう振り返るスヴェトフさん。これ以外にも、インターネットの自由を守ることを訴える集会など、ロシア国内で様々な抗議集会を組織。過去5年の間に5回当局に拘束され、投獄されたという。

スヴェトフさんはソ連崩壊前、医学生だった両親の元に生まれた。家計が厳しく、学校には通わずに家庭で教育を受けた。初めてインターネットを使ったのは13歳。当時のロシアではまだ珍しかったが、どんどんのめり込んだ。多様な考えに触れられる自由なインターネットによって育てられたと言い、自身の価値観を次第に定めていった。

大学卒業後は日本に住んだこともある。約4年半、東京を拠点に全国各地を訪れたといい、「とても魅力的な国で、大好きだ」と言う。

帰国して反政府運動に参加するようになり、反体制派指導者で後に暗殺されかけたナワリヌイとも知り合った。だが、ロシア政府の締め付けが強まり、仲間たちは拘束されたり、周辺国に逃げのびたりしていった。自身がモスクワを離れたのは約1年前。自宅の捜索を受けたことなどから出国を決意した。

2018年、モスクワでの抗議集会で飛ばされた紙飛行機。紙飛行機はテレグラムのロゴに用いられている
2018年、モスクワでの抗議集会で飛ばされた紙飛行機。紙飛行機はテレグラムのロゴに用いられている=ロイター

テレグラム創業者のパーヴェル・ドゥーロフ氏とは何度も会ったと言う。

「彼はテレグラムの前に立ち上げた(ロシア版フェイスブックとも呼ばれる)SNSの会社を政府に奪われてしまった。だから同種のビジネスを再び立ち上げる際に、ロシア国内で始めることは危険だと判断したんだ。物理的に国内にいたら、政府からの要求にあらがえないと考えたのだろう」

そして、「彼は市場や政府の介入を嫌う。もちろんその背景には、ロシア政府とのかつての経験があってのことだと思う」と明かした。

そのテレグラム上で、スヴェトフさんはいま、政府に批判的なニュースなどをロシア語で報じるチャンネルを運営している。立ち上げたウェブサイトは、すぐにロシア政府に遮断されてしまい、アクセスすることができなくなってしまった。そこで、誰でもアクセスできるテレグラムの中に自身のチャンネルを立ち上げ、ロシアからもアクセスすることができるようにした。テレグラムは、ロシアにいる読者や視聴者との空白を埋める役割を果たしている。

チャンネルの登録者数は約4万人で、ほとんどがロシア国内からのアクセスとみられるという。

スヴェトフさんは「テレグラムは、ロシアと世界をつなぐ最後の電子通信手段になっている。おそらくロシア政府も、もはや失いたくはないのでは」とみる。

ツイッターやフェイスブックなどがロシアのプロパガンダを抑制する一方、テレグラムではロシア当局や政治家などが様々な主張をし続けている。スヴェトフさんはこうした自由な言論空間こそが、あるべきインターネットの姿だと考えている。

「ロシアからの一方的な情報を排除する米企業のSNSと異なり、テレグラムは政治的な動きにくみしない。偽情報もあるかもしれないが、そこには言論の自由がある」