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OSINT(オシント)を支えるのはネットの集合知だ 限界を自覚しつつも可能性に期待

World Now
英国の非営利組織「情報レジリエンスセンター」(CIR)が中心となって作製する「ロシア・ウクライナ監視マップ」
英国の非営利組織「情報レジリエンスセンター」(CIR)が中心となって作製する「ロシア・ウクライナ監視マップ」。ロシア軍の動きやその攻撃による被害を映し出した動画や画像から、その撮影場所と時期をネット上のコミュニティーとともに検証し、地図にまとめている=MapHubより

「OSINT(オシント)」という言葉を初めて聞いたのは、数年前、今回の特集にも書いた調査集団「ベリングキャット」が出てくる記事を読んだことがきっかけだったように思う。

ネット上でつながった市民たちが国家のウソを次々に暴いていく。専門家や記者でもない「ふつう」の市民が、いかにしてそんなことをやってのけるのか。そして、この動きは社会をどう変えるのか――。

その答えを求め、今回ツイッターなどでオシントに取り組む市民ら十数人に連絡を取り、直接会いに行ったり、メールなどでやりとりしたりした。

今年、台湾の大学を卒業したという男性は、ネット上の公開情報を元に中国の軍事施設がある場所をその名前とともに地図にまとめ、公開していた。アメリカからメキシコの麻薬戦争を追う男性もいた。

国も言語も違う人たちがネット上でつながり、地道な作業を重ね、専門家でもなし得なかった調査や発見をしていく。そんなオシントの仕組みの根底にあるのが、集合知の力だ。

「専門知識や経験、知恵は社会に広く散らばっていて、誰もが何かしらの専門知識を持っている。博士号を持っているかどうかは関係ない」

そう話すのは、集合知を社会で生かす方法を研究している米ノースイースタン大学教授のベス・ノベック氏だ。「テクノロジーを使って、そうした知恵を利用することで、より良い意思決定や問題解決ができるようになる」

ノースイースタン大学のベス・ノベック教授
ノースイースタン大学のベス・ノベック教授=本人提供

多様な人たちが持ち寄る知識を適切に機能させるためには、その仕組み作りが重要だ。ノベック氏も「うまく機能すれば、多くの人を巻き込んだ集団的な行動へと変化させることができる」と語る。逆に良い仕組みがなければ、集団で誤った方向に進んでしまう恐れがある。

だが、まだ確立された方法は見えていない。そもそもオシントは、中央集権的な情報の集約がないところに特徴がある。ピラミッド形の階層構造ではなく、複数の同心円がフラットに広がるイメージだ。情報の流れがスムーズになる一方、それを機能させるためには集まった情報を精査する人が必要となる。その仕組み作りは簡単ではないだろう。

さらに、ロシアや中国など、情報公開に積極的とは言えない国々では、市民による十分な調査はできるのか、という疑問も残る。調査は、公開され自由に使えるデータがあるからこそ成り立つものだからだ。

それに対してノベック氏は、市民が独自にデータを集め、調べることが最善である場合があるとする。そしてそれは欧米以外の国に限ったことではないという。

「政府はデータの透明性が高すぎることを嫌う。つまり、市民だからこそ取り組めることがあり、それが社会に変化をもたらすことがあるのです」

ネット上の情報が制限されたり、検閲されたりするような国や地域では、ベリングキャットのような第三者が国外から調査をする意義も大きいだろう。

取材をしたオシントに取り組む人たちは、一様にしてオシントの価値に対して謙虚だった。そこには限界があり、間違えることもある、と口をそろえた。

ベリングキャットの創設者エリオット・ヒギンズ氏でさえ、その調査が「全体像でないことは理解しています。捜査に取って代わるのではなく、他の人たちの仕事を補完することを意図しているのです」と語っていた。

ひとりひとりの役割は小さい。だが、それが集まったとき、隠されているものを明るみに出す力を持ちうるのも確かだ。多くの可能性を秘めた「ネット探偵」。その動きを追い続けたい。