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【フラー渋谷修太】高専に行かなかったら、僕は起業していなかった

World Now 更新日: 公開日:
IT企業「フラー」の創業者兼会長、渋谷修太さん=同社提供
IT企業「フラー」の創業者兼会長、渋谷修太さん=同社提供

――どうして、進学先に高専を選んだのですか。

小さいころからゲームが好きで、ゲームプログラマーになりたいと思い、中学生のときからプログラミングの専門書を読んでいました。おばさんに高専という学校がある、と教えてもらい、専門的な勉強ができると考え、決めました。

高専では機械や電子回路、コンピューターに関する知識を結びつけて活用する電子制御工学科に在籍していました。ロボットの制御などハードウェア的なことも学び、機械の溶接とかもやりました。プログラミングも学びました。

4年生、5年生では、選択科目として情報処理や画像処理の授業もありました。高専では、『なぜこの機械はこう動くのか』という小難しい話から始めるので、すごくよかった。

――高専在学中に、スタートアップ企業を起こすと決めたそうですね。

能力はもちろん、興味のレベルが全然、自分とは違って高い同級生たちに出会ったからです。彼らは、『1年生のときから自分でプログラミングをやっていた』『プログラミングの言語やOSをつくっている』と言う。衝撃を受けて、ゲームプログラマーになる気持ちはなくなっていました。

私もプログラミングは好きでしたが、そんな『天才』たちに会い、気づきました。自分は、人前でしゃべったり、人との交流を深めたり、組織をマネジメントしたりするのが向いている、モノづくりの人たちやプログラマー、デザイナーらと一緒に会社をつくるほうが力を発揮できる、と。天才の同級生たちはいま、一緒に働いています。

創業間もないころの渋谷修太さん(右手前端)、茨城県つくば市の一軒家で仲間と寝食を共にしていた=2012年初頭、本人提供
創業間もないころの渋谷修太さん(右手前端)、茨城県つくば市の一軒家で仲間と寝食を共にしていた=2012年初頭、本人提供

――そのとき、悔しくはなかったですか?

逆です。17歳のときに『エンジニアじゃないな』とあきらめたことは本当によかった。高校から大学の情報学部に進んでいたとしたら、そのことに気づくのは21歳か22歳だったでしょう。

ただ、私はそのなかではそこそこ優秀なエンジニアになっていたでしょうから、エンジニアとして生きていたとは思います。高専に行かなかったら、起業しなかったでしょう。

(起業を決意して)経営を勉強しておく必要があると思い、高専を卒業後、理工学系の学部のなかに経営学部がある筑波大に編入しました。経営工学を専攻し、経営理論やマーケティングを学びました。

――「高専卒の大学編入者は、普通高校から大学に入った学生より優秀」との声があります。

当たり前です。高専では、1年生からハード、ソフトの両面のスキルを基礎からたたき込まれます。一方、高校から大学の工学部に進んだ学生が工学教育を本格的に始めるのは20歳前後になります。

また、大学では、システム系の情報学部とロボット系の応用理工学部が分かれていたりします。机を並べた時点で、エンジニア歴で大きく差がついているのです。頭の良さといった話ではありません。

IT企業「フラー」の新潟本社の「畳ワークスペース」では、社員がこたつに入って仕事をしたり、昼食をとったりしている=同社提供
IT企業「フラー」の新潟本社の「畳ワークスペース」では、社員がこたつに入って仕事をしたり、昼食をとったりしている=同社提供

――高専生は起業家に向いていますか?

高専生は幅広い技術力を持っています。社会や顧客の課題に取り組み、創りだしたモノを市場の動向にあわせて手直ししていく、という動作・思考も身についています。そして、いろんな専門知識を持っている同級生、先輩、後輩がいるので、チームを組みやすい。起業家に、とても向いていると思います。

フラーは、私が高専出身の3人に連絡して創業しました。1人は長岡高専時代の同級生。いま副社長でデザイン部門の最高責任者です。彼も、エンジニアとして超優秀な同級生を見て、『自分はプログラミングではない』とデザインを選んだのです。あとの2人は苫小牧高専卒で、内部監査責任者と技術顧問です。いま、社員111人のうち2割強が高専出身です。

IT企業「フラー」の新潟本社があるオフィスビルの共有スペースで歓談するフラー社員=同社提供
IT企業「フラー」の新潟本社があるオフィスビルの共有スペースで歓談するフラー社員=同社提供

――高専生はいま社会で正当に評価されていると思いますか?

ある程度、正当に評価されていると思いますが、『もったいない』というのが結論です。

高専生はまじめで、どこの現場でも真摯(しんし)に能力を発揮します。一方で、昇進意欲がなかったり、ある意味、人に評価されても別にうれしくないという感覚があります。それを『使い勝手の良い人材』として扱っている会社は多いのではないでしょうか。本当は社会の課題を解決し、イノベーションを起こすことができる人材なので、起業や新規事業の立ち上げなどで活躍してほしいと思います。

戦後、日本は車や家電などモノを大量生産し、経済も発展してきました。そうした成功モデルでは、高専生を次から次に大企業に送り込むことは戦略的に正しかったのでしょう。

でも、モノがあふれすぎている時代に、同じことを繰り返すのは社会の損失です。2025年にIT人材が40万人不足すると言われるなかで、年間1万人生まれている高専生をどう活用するかは国家戦略レベルの話だと思います。