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ピカピカの経歴ないけど起業した22歳の僕 後に続く大学生に、これを伝えたい

令和の時代 日本の社長 更新日: 公開日:
鶴岡裕太氏
BASEのCEOを務める鶴岡裕太氏=畑中徹撮影

――鶴岡さんが起業したのは、22歳のころでした。起業に至る経緯を教えてください。

大学生のころ、クラウドファンディングの「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)に、インターンとして出入りしていました。そこで、エンジニアリングやプログラミングを教えてもらい、「自分でもサービスをつくれるようになりたい」と思いました。

そのころ、実家の大分県に住む母親が、「ネットショップをつくりたいけど、難しくてよく分からない」と言っていました。母親でも気軽に使えるサービスができないかと考えて、BASEというサービスをつくりました。ローンチしたのは、2012年11月のことでした。

――お母さんの言葉がきっかけだったのですか?

そうです。学生時代、もともと決済サービスに関心があり、僕もいろいろなサービスをつくってみたのですが、「これってエンジニアじゃないと使えないな」と思っていました。

そんなときに、大分の実家で洋品店を営んでいる母親から、「ネットショップをつくりたいけど、どうしたらいいの?」と相談されました。インターネットでビジネスをするのは、僕は簡単なことだと思っていたのですが、ネットに詳しくない方や、エンジニアじゃない人からすると、すごく難しいことなのだと改めて分かりました。

ネットショップ関連ではすでにいろいろなサービスが存在していたのですが、それらを試した母親は「やっぱり難しいし、お金もかかりそうだった」と話していました。そのとき、「なるほど、そうなのか」と思いました。母親の言葉は大きなきっかけになりました。

――もともと「起業をめざしていた」というわけではなかったのですね。

はい。サービスを始めた時点では起業していませんでしたが、スタートしたところ、周りの投資家さんたちから「資金提供するから、起業したらどうか?」と言われました。そこで、12年12月に「BASE株式会社」を設立したのです。まずはサービスを始めて、そのあとに起業したという順番です。

最初からプロダクトに手応えがあったわけではなかったのですが、周りの人からすると、「若者が面白いことをやっているな」「ちゃんとサービスもつくって、すごいじゃないか」ということで、応援の意味も込めて起業の背中を押してくれたのだと思います。

――起業して経営者としてスタートしました。ご自身の経営力をどう見ていたのでしょうか?

経営する能力なんて、まったくなかったと思います。資金調達が必要だとなったら、「そもそも資金調達って、何だろう?」ということから学びました。それこそ、最初のころは財務諸表も読めませんでしたので、「PL(損益計算書)って何だ?」「BS(貸借対照表)って何だ?」ということに始まり、経営の知識を一つひとつ勉強していきました。経営がやりたくてスタートしたわけではなかったので、日々学んでいきました。

BASE社が提供するショップデザイン画面
BASE社が提供するショップデザイン画面(同社提供)

――鶴岡さんは、ご自身をどんな経営者だと分析していますか?

「代表取締役CEO」という肩書は持っていますが、僕がこの会社をつくっているんだという感覚はないです。みんなの中の1人といいますか、チームプレーをやっている認識です。

むかしは「超強い」リーダーの人がいて、その人がやりたいことを、周りのみんなが支えていくという感じだったと思うのです。でも、いまはBASEという会社を見てもそうですが、エンジニアさんにいっぱい入ってもらわないといけない時代なので、1人で突っ走れるタイプの経営者が強い時代かというと、たぶんそうではなく、いまは「いいチーム」をつくれる人が強いのだろうと思います。

――部下の人たちから見た、鶴岡CEOはどんな人だと思いますか?

「ちょっと助けてあげよう」というノリかもしれません。むかしは、「俺についてこい」「俺がお前らの人生をよくしてやる」といった経営者や起業家が多かったと思いますが、僕の場合は、みんなに人生をよくしてもらっている感じがしています。もっと、みんなを引っ張った方がいいのかもしれませんが。

でも、いまは、自分が「こういう世の中にしたい」と思ったら、「引っ張るタイプ」じゃなくても、理想とする世の中をつくれる時代が来ていると思っています。

経営者や起業家に、すごい人間的な魅力とか、ほとばしる熱さがなくても、正しいことを思っていたり、言ったりしていれば、多くの人たちが一緒に手伝ってくれるというのが、いまのITスタートアップ時代のよさかなと思うのです。そういう時代の流れに、乗らせてもらっている感覚があります。

――鶴岡さんが、起業家、経営者になって約10年が経ちました。学生起業でしたが、いまの大学生のなかにも「起業したいけれど、自分に起業家としての才能があるのだろうか?」と迷っている人がいるかもしれません。そういう人たちに起業家の先輩として助言するとしたら、どんな言葉をかけますか?

「才能」ということでいえば、僕には才能はなかったと思います。経歴とか見てもピカピカの起業家の人たちがいらっしゃいますが、僕は全然そういう人ではありません。

人生に影響を及ぼすもので「才能」「行動」という2つがあるとすれば、僕個人の見方では「行動」がもたらす影響の方が大きいなと思います。才能って生まれ持ったものがありますし、そう簡単に変えられるものではありません。

それより、「きょう何をするか」という「行動」の方が、自分がどんな才能を持っているかよりも大きな要素を占めていると思います。それは、自分の未来をつくるうえで、全然レベルが違うものと考えています。「何かをやりたかったら、まずは行動を起こすのがいいよね」というのは、これまでの自分自身の学びとしてあります。

起業してみて分かったのですが、周りには自分より優秀な人だらけです。でも、「優秀さ=仕事の結果」でもないなという気がします。つまり、経営者自身がパーフェクトである必要はなく、自分の周りに優秀な人がいればそれでいいわけです。そして誰よりもいちばん早く行動を起こせる人が強いのではないか。そう思っています。差分って、結局そこだけじゃないかと感じます。

鶴岡裕太氏
鶴岡裕太氏(BASE社提供)

――鶴岡さんは、「1億円の売り上げがある1社様と、ではなく、10万円の売り上げがある10万ショップの皆様とお付き合いしたい」と語っています。その意味を教えてください。

BASEの企業ミッションは、「Payment to the People, Power to the People」です。個人やスモールチームを、決済を通じてエンパワーメントすることにフォーカスして事業展開しています。

利益だけを考えれば、売り上げの多いショップに使ってもらった方がよいはずだと言われることもありますが、「10万円の売り上げがある10万ショップの皆様」とお付き合いがしたいと考え、長期的な視点で事業を進めています。

個人やスモールチームは、資本や人材でみると、大きな企業より弱い存在ですが、ネットテクノロジーによって個人が強くなることで、大企業と同じような価値を生み出せると思うのです。

――個人や小さなチームをエンパワーメントするわけですね。

僕が考えるインターネットのよさは、個人など「小さな人たち」が強くなったり、エンパワーメントされたり、特権や利権を持つ人たちだけが使うことができた「何か」を民主化していく、という部分です。

僕が自分の時間を費やすとすれば、インターネットを活用して「個を強くする」ことです。そこに納得感がありますし、いまの事業はその延長線上にあります。大企業など「大きな人たち」をエンパワーメントする仕事は、BASEができる前から手がけている会社がたくさんありました。

「これからのインターネットは、『小さな人たち』が強くなることに意味があるよね」と考えていましたので、そこが出発点であり、BASEの存在意義そのものだと思っています。BASEという社名も、ネットでお店を持ちたい、チャレンジしたいという人びとのネット上の拠点、ベースになればとの思いから自分で考えました。

1年や2年で大もうけしたいというのであれば、どんなビジネスでも構わないと思います。でも、自分の人生でそういう振る舞いに自分が満たされるタイプではないので、長くチャレンジして、会社を育て、社会のためになるというのが、いちばんうれしいことです。

鶴岡裕太氏
鶴岡裕太氏(BASE社提供)

――一方、経営者としては会社を大きく成長させる必要もあります。

「Payment to the People, Power to the People」という企業ミッションには、徹底的にコミットしたい、こだわっていきたいと強く思います。

それを前提にしたうえで、企業としての付加価値を高めるために、会社の規模も個人的には意識するようになってきました。世の中を支えたい、価値観を変えたい、生き方を変えたいと言っても、会社がこぢんまりとしていては難しいところもあって、社会に影響を与えるためにも、もっとできるはずだという気持ちを持っています。

――会社の規模を大きくしようとすると、どこかの時点で企業ミッションとの齟齬(そご)が出てくる可能性はあるかもしれません。

油断すると、そういうことが起きてもおかしくないと思います。会社が大きくなり、メンバーが増えていくと、いろいろなKPI(企業などの組織において、個人や部門の業績評価を定量的に評価するための重要な指標)が出てきて、「企業ミッションと売り上げのどっちが大事なんだっけ?」というタイミングも増えてきそうです。いまの1ミリの誤差が、10年後にとてつもない誤差になることもあるのだろうと思います。

ただ、その部分は経営者がしっかり意識していれば何とかなるとも思っています。経営者が長いタームで見て、自分たちがやるべきことは何だろうと常に考え続け、意思決定していく。経営者である僕自身は、会社のなかの誰よりも長いタームで、会社のことを見ていかなくてはなりません。

――社会のためになるというお言葉がありましたが、鶴岡さんは、ご自身のことを「社会起業家」と表現することはありますか?

自分自身で「社会起業家です」と名乗るほどの自信はありません。ただ、事業をやっていくうえで、「もうかりましたけど、世の中が幸せになったかどうかは分かりません」という経営者や会社を応援するような社会では、もはやないと考えています。

社会に「いいこと」をしていないと、社会に役立つような観点を持っていないと、そもそも「参加権」をもらえないというか、自分の夢を追う資格すら与えられない時代なのかな、と思います。

逆に言うと、「この人、世の中をよくしようと思っているのな」と思ってもらえたら、むかしより確実に評価される時代になっています。実際、いまは、いいミッションを掲げ、しっかりしたビジョンがあるベンチャー企業には事業資金が集まります。

「社会をよくする起業家」にとっては、以前に比べたら、格段に生きやすい時代になってきたことを感じます。

タレントの香取慎吾さんを起用したテレビコマーシャル
BASE社は、タレントの香取慎吾さんを起用したテレビコマーシャルでも知られている(同社提供)

――大学の方は、途中で退学されたのですね。

BASEをつくったときには休学していて、サービスを始めてから、約1年後に退学すると決めました。大学に通っているうちは、「卒業はしておこう」と考えていました。BASE設立後、大学をやめて参加してくれるメンバーもいましたので、さすがに自分だけ「保険」を残しておくわけにはいかないと思いまして、退学することにしました。

――2012年にサービスを始めてからは、順調に拡大したのでしょうか?

いまの規模からすると小さいものでしたが、テック系メディアがとりあげてくれるなどして、少しずつ知名度が上がっているという実感がありました。サービスは淡々と成長していったので、「ここに需要があるな」という感覚は持っていました。

――資金調達などは、専門的な分野かと思います。起業当初、どのように勉強されたのでしょうか?

周りの人たちに教えてもらいました。投資家さん、起業家の先輩たちに、「どうしたらいいですか?」と聞いたのです。その点、僕は、投資家コミュニティー、起業家コミュニティーに恵まれました。自分自身で何かをやったというより、周りのコミュニティーに助けてもらったという感覚があります。

――きっと鶴岡さんに魅力があったのですね。

僕は、良くも悪くも経営のことを詳しく知っているわけではなかった。だからこそ、逆に周りの方々からすると接しやすかったのかも、と思います。

あとは「若さ」です。僕がいまの年齢で起業したり、40代、50代だったりしたら、起業した当時ほどナチュラルに先輩起業家や投資家の方に、「これって、どうしたらいいんですか?」とは、なかなか聞けないだろうと思います。「年齢のチカラ」があったのだと思います。

鶴岡裕太氏

――順調に見えた16年ごろ、困難もあったそうですね。

創業メンバーを中心に、多くの人が会社を去っていきました。それまではずっと、スタートアップ的なノリで、僕自身もやりたいことだけをやっていたのですが、やはり経営をするわけですから、単純によいサービスをつくればよいというだけでなく、組織をつくるとか、制度をつくるということが大事になってきました。

僕の場合、学生起業で、もともとプロダクトをつくるのが好きでやってきました。チームをつくるということに関しては経験がありませんでした。そこに気が回らず、「気持ちよく働ける環境づくり」には考えが及んでいなかったのです。その結果、多くの人たちが会社を去っていきました。

新しく入ってきたメンバーも増え、創業時からいるメンバーと僕の距離感も、気付いたら遠くなっていました。僕の方は創業メンバーと「遠くなっている」ことを感じとっていなくて、自分が考えていることを正しく伝える努力もしていなかったように思います。創業時からいるメンバーが去って、精神的にもきつかったですね。

――サイバーエージェントの藤田晋社長からもアドバイスを受けていらっしゃるそうですね。

投資をしていただき、株主として、起業家の先輩としても、大きな影響を受けています。ミーティングしたり、ご飯に連れて行ってもらったりするなかで、圧倒的な目標感、成し遂げようとしている視座の高さを感じます。自分との圧倒的な差があります。

それを差と表現するのもおこがましいのですが、経営者としての器の大きさ、壮大さがまったく違うなと感じます。話し方ひとつとっても、「すごいなあ」と思います。「超尊敬」しています。