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北海道の陸上自衛隊トップに聞く、「北の守り」の存在意義

揺れる世界 日本の針路
陸自第7師団の記念式典で観閲行進する戦車連隊=2019年5月26日、北海道陸上自衛隊東千歳駐屯地、志田修二撮影

――最近、陸上自衛隊では北海道に兵力を集中する「北転」ではなく、南西方面に展開する「南転」という言葉がよく聞かれます。

現在、陸自は防衛態勢を整えるため、石垣、宮古、与那国などの南西諸島への配置を進めている。力の空白を作らないためだ。

ただ、日本にとってのロシア、朝鮮半島、中国という戦略3正面の脅威は変わっていないことから、地政学上、これら戦略3正面に対する防衛を常に考えておく必要がある。

自衛隊はこれまで、日本が力の空白になって侵略を招かないよう、必要最小限の防衛力を保持するとした基盤的防衛力構想(51大綱)や、統合機動防衛力構想(25大綱)、多次元統合防衛力構想(30大綱)などに基づき防衛力を整備してきた。

一貫しているのは、日本を防衛する態勢、いわゆる抑止と対処の態勢をしっかりと構築するという考え方だ。つまり、平素は力の空白を作らず抑止するが、いったん有事となれば、当該地域に戦闘力を集中して敵を排除するという態勢である。そのような考え方から、現在、部隊が配置されていない南西諸島に対して駐屯地を整備している。

沖縄・与那国島の自衛隊レーダーサイト

機動訓練については、全国に展開できるように、昔は「北転」訓練を実施していたが、現在は「南転」訓練についても実施している。対応力を高めるために、海上輸送力の整備や高速滑空弾の研究などについても推進している。

■「ノウハウ途切れたら戦えない」

――かつては、北海道に駐屯する自衛隊を減らすべきだ、という声もありましたが。

16大綱策定時には「北海道の部隊は少し重すぎないか」という指摘があり、陸自12万人体制が新聞報道されたこともあった(現在は約15万9千人)。その際には「必要になったら戦車や砲を買えば良い」という意見もあった。

しかし、隊員のノウハウが途切れてしまっては戦えなくなってしまう。装備品がいくらあっても操作できる隊員がいなくては意味がない。例えば、砲手は砲のたわみなどの装備品個々の特性を把握したうえで照準をするなどの技術が求められる。そのノウハウは先輩から後輩に実装備品を使って伝承されている。装備品を作っている防衛産業の技術者にも同じことが言えるだろう。

1989年、北海道演習場で行われた日米共同演習「ノーザン・ウォリアー(北の戦士)89」=八重樫信之撮影

実際に、2001年9月11日の米同時多発テロの後、陸自ではゲリラ・コマンドウ対処(特殊部隊などによるゲリラ攻撃への対応)訓練が集中的に実施された。重要施設の防護においては銃の保持要領や射撃要領が異なるが、その結果、戦車や大砲などと連携して戦うノウハウが薄れてしまった時期があった。

現在は、基準に基づいた教育訓練を実施している。北部方面隊でも十数年前から、練度向上やノウハウの伝承、戦い方の創造などのために、北部方面隊総合戦闘力演習(北演)を実施している。

また防衛力整備で重要なことは、科学技術の進歩への対応だ。北方には第2師団(旭川)が道北に配置されているが、デジタル化師団としてC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察機能の総称)能力が高く、デジタル化への検証が期待されている。

北部方面隊の作戦基本部隊(師団・旅団)は戦車と火砲を固有編成で保持している部隊なので、新たな領域(宇宙、サイバー、電磁波)における戦い方を検証することに適している。検証のために必要な演習場も全国の50%弱が北部方面隊にあるので、新たな戦い方を検証すべき位置づけにあると考えている。

また、駐屯地は即応態勢の確保のためにバランスよく配置され、災害派遣などに即応するなど、地域の安心安全にも寄与している。こうして、北海道の部隊の重要性を発信していきたい。

沖邑佳彦北部方面総監=北部方面総監部広報室提供

■極東ロシアの動き、どうみる

――最近のロシアの動きをどうみていますか。

かつて、冷戦時代にはソ連軍の爆撃機が房総半島沖まで飛来することがあったが、冷戦終結後は急減した。最近、国力の復活とともに極東地域における訓練も活発化し、中国軍との共同訓練や共同パトロールも行われている。

こうしたなか、現在、気候温暖化の影響から北極海の氷が解け、北極海航路が開通する時期と地域的な広さが拡大している。各国は、欧州方面への航海時間短縮や海洋資源に強い関心を示している。

一方、ロシアは北極海に隣接する国の海洋資源調査権に基づき、各国の通航を制限している。軍の創設や基地の復活などの動きも見られる。将来、資源の発見などによって利害が交錯する地域になる可能性がある。これまで以上に、ロシアにとってオホーツク海の重要性は高まり、千島列島への対艦・対空ミサイルなどの部隊配置にみられるように、聖域化の動きが加速していくかもしれない。

このような観点からも、引き続き、戦略3正面の一つである北の防衛は必要だといえる。そのうえで、限られた防衛力整備に係る資源配分をどうするかということを考えなければならない。

――冷戦時代、戦略的要衝と言われた音威子府の価値は失われたのでしょうか。

世界から戦車や砲がなくなって地上戦がなくなるなど、戦い方が変化すれば、戦略的要衝の意義も変化するだろう。でも、世界の軍隊の編成には依然、戦車や砲が存在しており、歩兵が領地を占領する訓練も実施している。科学技術の進展で戦い方は変わっても、何らかの力で他国を制圧できない限り、最終的にどの軍隊も「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」を考えることから、現時点においては戦略的要衝の意義は変わってはいないと思われる。

一方で、各国は新たな領域(宇宙、サイバー、電磁波)による攻撃手段も発展させてきていることから、どのようにして侵攻してくるかを想定することが重要となってきている。