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トランプ大統領が日本に突きつける軍事的要求、駐留経費増にとどまらない

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:
北京での軍事パレードに登場した中国のDF-10巡航ミサイル(2015年撮影)=ロイター

■同盟国から最大限の協力を引き出したいアメリカ

アメリカとイランは当面は抑制的な対応を見せているが、本格的軍事衝突が始まるかどうかは予断を許さない。他方でアメリカはイラン、シリア、ISそしてアフガニスタンといった中東情勢に加え、中国による南シナ海をはじめとする積極的海洋進出、さらにはロシアによる大陸間極超音速グライダーや大陸間原子力魚雷の開発など、2020年には対処しなければならない軍事的脅威が山積している。しかも、どれも難易度の高い脅威である。

世界最大の軍事国家アメリカといえども、同盟国や友好国から、できるだけ強力な軍事的協力を引き出す(強要する)必要性に迫られている。すでにNATO諸国には、国防費をGDP比2%に引き上げるよう圧力をかけ続けている。韓国にも米軍駐留費用の5倍増を迫ったが、韓国はそのような無理難題をはねつけた。そしてトランプ大統領が次に圧力をかけるのは、日本であろう。

NATO諸国や韓国よりも遙かに莫大な米軍駐留経費を支出している日本にも、一応は駐留経費の倍増や3倍増を要求するであろう。だが、それ以上にトランプ政権が手に入れたいのは、アメリカの軍事戦略(対中国、対ロシア、対北朝鮮)遂行のために、日本の領域と自衛隊をより一層自由自在に使える状態を実現させることである。

すなわち、防衛費のGDP比2%レベルへの増額や米軍駐留経費の3倍増などといった金銭的要求に関して妥協する代わりにアメリカは、たとえば米軍地上ミサイル部隊の日本国内配備や、日本による弾道ミサイル防衛システムのさらなる調達、海自ヘリコプター空母を改装した軽空母の日米共同運用などの要求を、日本政府に突きつけてくるであろう。

そして、このような要求はトランプ大統領の要望を積極的に受け入れてくれる安倍政権が存続している間に日本側に押しつけ、将来に向けてのレールを敷いておく必要がある、とアメリカ政府は考えるだろう。

■INF条約で中国に劣勢となったアメリカ

米陸軍は長射程ミサイルの装備化を進めている(写真=米陸軍)

これら予想され得る要求のうち、今回は米軍地上ミサイル部隊の日本国内配備について見てみたい。

米軍地上ミサイル部隊とは、中国領域や朝鮮半島それにロシア極東地域への攻撃を可能とする射程距離500~2500km程度の地上発射型ミサイルを運用する米海兵隊部隊、あるいは米陸軍部隊である。それらのミサイルには長距離巡航ミサイルと弾道ミサイルの双方が含まれる。

この種のミサイルは、米ロ間の「INF条約」で、アメリカとロシアで禁止されていたものである。トランプ政権が中国とロシアに対抗するためにINF条約を廃棄したことに関してはすでに本コラム(2019年2月18日、2月28日、3月17日)で触れたため繰り返さないが、INF条約と無関係の中国は、INFで禁止されていた各種ミサイルを大量に開発配備し、東シナ海や南シナ海そして西太平洋に侵攻してくるアメリカ海洋戦力を迎え撃つ態勢を固めている。

【合わせて読む】

INF条約、米ロがくり返してきた「条約違反」の応酬(2019年2月18日)

INF条約の陰で進んだ中国ミサイル開発の全容(2019年2月28日)

アメリカのINF条約離脱、真の理由は中国抑止にある(2019年3月17日)

そのような中国の接近阻止戦略には、これまでアメリカ軍が誇ってきた空母打撃群や戦略爆撃機では対抗できない。なぜならば、有事に際してアメリカ軍が空母や駆逐艦、爆撃機などを東シナ海や南シナ海に送り込むやいなや、中国軍の接近阻止戦略用各種ミサイルの餌食となる可能性が極めて高いからである。

かといって、いきなり核搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)や核搭載潜水艦発射型ミサイル(SLBM)を用いて中国と核戦争を始めるわけにもいかない。アメリカが中国の接近阻止戦略用ミサイル網を打ち破るには、どうしてもINF条約で禁止されていたミサイル(地上発射型の、射程距離が500~5500kmただし中国に対しては500~2500kmの、非核弾頭を搭載した弾道ミサイルあるいは巡航ミサイル)を手にしなければならないのである。

そして、これらのミサイルはTELと呼ばれる地上移動式発射装置から発射される。大型トレーラー程度の大きさで、地上を移動することができるTELは、敵に捕捉発見される可能性が極めて小さいため、中国軍の接近阻止戦力によって撃破される恐れも小さいのだ。

■日本だけが配備候補地に

ただし、アメリカ軍にとって最大の問題は、中国を攻撃できる陸上にどうやって多数のTELを展開させるかである。米軍ミサイル部隊にとって理想的な展開場所は、中国軍が第一列島線と呼ぶ防衛線上に位置するフィリピン、台湾、そして日本の領域内である。

しかしながら、台湾にそのような米軍部隊を配備することは米中戦争開始を意味することになり不可能だ。また、いくら米比相互防衛条約があるといっても、フィリピンに対する中国の各種影響力の強大さを考えると、フィリピンに米軍地上ミサイル部隊を展開させることも至難の業である。

たとえば、フィリピンの電力供給の首根っこを中国が押さえている ということがある。フィリピンの電力供給を担っているNational Grid Corporation of the Philippines(NGCP)への最大の出資者は、中国国有企業の国家電網公司である。そしてNGCP送電システムの主要箇所には中国人技術者しかアクセスできなくなっている。そのため、中国政府の指令によってフィリピン国内の送電システムが遮断されることが可能な状態だ。すなわち、軍施設を含めたフィリピンのほぼ全域の電力供給の首根っこを、中国が押さえていると言っても過言ではない。

このように考えてくると、TELを多数展開させることが可能な陸地は、日本国内だけということになるであろう。日米間には日米安全保障条約を補強する日米地位協定がある。日米間以外にも現存しているこの種の軍事協定の中でもこの日米地位協定は、日本の主権を最も制限しているため、アメリカ政府は韓国やフィリピン以上に日本に対してアメリカの軍事的要求を押しつけることが可能なのだ。

CNS作成

上の地図は、射程距離が2500km程度の弾道ミサイルならびに最大飛翔距離が2500km以上の長距離巡航ミサイルを沖縄に配備した場合の、攻撃可能圏を示している。

沖縄は、南沙諸島や海南島を含む中国南東地方から、大連を始めとする中国東北地方まで幅広く射程圏にとらえることができる絶好の地上発射型ミサイルの配備先となる。沖縄の米軍施設敷地内(嘉手納飛行場、普天間飛行場、北部訓練場、キャンプシュワブ、キャンプハンセン、伊江島補助飛行場)ならびに自衛隊施設敷地内(空自那覇高射教育訓練場、空自知念高射教育訓練場、陸自知念高射教育訓練場、空自恩納高射教育訓練場、陸自白川高射教育訓練場、陸自勝連高射教育訓練場、陸自沖縄訓練場)ならば、日本本土各地に米軍(海兵隊・陸軍)ミサイル部隊の配備を進めるよりははるかに容易に配備が可能になる。

もっとも、海兵隊普天間移設問題に代表されるように、アメリカ側が日米地位協定を振りかざすまでもなく、日本政府は日本国内の世論の動向よりもアメリカ政府の意向を最大限に尊重し、万難を排して米軍の都合を優先させることを、アメリカ側は十分承知している。

結局、日本政府が確固たる自主防衛戦略を打ち出して真の独立国家への途を希求し始めない限り、現在猛スピードでアメリカが開発配備を進める中国牽制用の地上発射型各種ミサイルを装備した米軍ミサイル部隊が、沖縄を中心として日本各地に展開する態勢が整うことになるであろう。