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パレスチナの食が危ない イスラエルの占領政策で文化が消えていく

中東を丸かじり 更新日: 公開日:
自宅で作ったクッベ・ナーイエ

食や料理は、社会や歴史を映す鏡である――。イスラエルの占領下にあるパレスチナでは、グローバル化やイスラエルの占領政策の影響でファストフードや冷凍食品、大量生産された野菜が入り、豊かな食文化が危機にさらされている。一方、そんな食文化を守り、発展させていこうという取り組みが進んでいる。はるか離れたパレスチナの話だが、実は日本も同じような課題に直面しているのではないか。

アイデンティティーの喪失に危機感

2000年代にテロや軍事作戦が激化した第2次インティファーダ(対イスラエル対抗闘争)が収まった今、ヨルダン川西岸では、イスラエルが治安上の名目で建設した分離壁の中で、食文化をめぐる闘争が展開されている。分離壁は、パレスチナ人の移動に多大な困難を強いている反面、軍事衝突を減らした効果もある。あるパレスチナ人は「力による争いではなく、文化による闘争の局面に入っている」と話す。

パレスチナでは派手な戦闘は減った一方、イスラエルが占領政策によって、パレスチナ人のアイデンティティーをじわじわと奪う文化の剽窃や侵略が行われているという危機感を抱いている。食もその一つだ。

パレスチナのズッキーニ

ヨルダン川西岸では、ユダヤ人入植地が拡大を続け、パレスチナ人の農地は減るばかり。パレスチナの伝統野菜やハーブは減少し、市場には、イスラエルで大量生産された農産物が大量に入り込んでいる。分離壁やイスラエル軍検問所によってパレスチナ人の移動は支障を来し、地元産の農産物の物流の移動も阻害されている。

イスラエル側は、パレスチナ人を「アラブ」として表現し、パレスチナ人の若者たちも、ハンバーガーやフランイドチキンなどをファッショナブルとして躊躇なく取り入れる。先祖代々伝えられてきた味の記憶が失われてしまうのではないか。そんな懸念を持つパレスチナ人たちが立ち上がっている。

パレスチナの飲食店で調理される鶏の丸焼きヨルダン川西岸ベツレヘム

大量生産やイスラエル産品に抵抗

パレスチナ人シェフのイゼルディン・ブハリ氏もその一人だ。「セイクレッド・クイジン」という会社を立ち上げ、カフェやレストランで料理イベントを開いたり、パレスチナのマーケットを巡るツアーを企画したりしている。

「先祖から伝えられてきた味の記憶を守っていかなければならない。食は土地と結びていており、パレスチナ人としてのアイデンティティーを形成する重要な要素である」「パレスチナ料理はラムや鶏肉といった肉料理の印象が強いが、普段の食は野菜中心のシンプルなもの。キリスト教徒が40日間、肉や乳製品を慎む宗教的な慣習もあり、ベジタリアンやビーガン(乳製品も含めて動物性食品を排除する完全なベジタリアン)のレシピが多くある」と訴える。パレスチナのキリスト教徒の中には、復活祭前の40日間の大四旬節の断食を行っており、この間は肉や乳製品を食べない。イエス・キリストが荒れ野で40日間断食したのに倣った宗教儀礼である。

ブハリ氏は「新たな要素を加えることで伝統的な料理の世界も発展していく」と、パレスチナ伝統料理を土台に、ベジタリアン・メニューを中心としたレシピ開発に余念がない。重視するのは、素材選びである。パレスチナの市場を巡り、「バラディー」(地物)と呼ばれる伝統野菜やパレスチナ産の穀物をなるべく購入する。大量生産された野菜や食品、イスラエルの産品がパレスチナでも市場を席巻しており、料理の素材探しは容易でない。有機野菜を育てるパレスチナの農家や生産者を直接訪ねることもある。「食品メーカーなど大企業のスポンサーには頼らず、市場主義や利益に惑わされないことも重要だ。食で重要視しているのは、いかに倫理的であるべきかということだ」と強調する。

インタビューに応じるイゼルディン・ブハリ氏

一見すると豊かな食文化が展開されている日本だが、パレスチナと同じような問題を抱えているのではないだろうか。筆者は、美味しくて安全な野菜を自分の手で育てたくて三重の山間部に移住した。神奈川県に住んでいた時は、なかなか入手の難しかった、みずみずしくて安全かつ美味しい野菜が、今は家の前の畑にたくさん植わっている。

日本も他人事ではない

筆者と同じような想いを抱いている人が結構いるのではないだろうか。ある知人は「スーパーマーケットに行っても買うものがほとんどない」と嘆息した。農薬や化学肥料を使い、大量生産に適するように改良した種子から育った画一的な野菜や、食品添加物が多く含まれた食品がスーパーの棚には多く並んでいる。もちろん、オーガニックショップに行って、ある程度のお金を支払えば買えるものの、普段使いのスーパーで気軽に買えないのは辛い。

自宅に菜園を持つ利点の一つが、市場にはあまり出回らない野菜がいつでも手に入ることだろう。菜園には一足早く春が訪れており、夏から秋にタネを蒔いた野菜たちは、菜の花を咲かせつつある。カブなんかは食べごろが過ぎてしまった。そのまま花を咲かせ続けてタネを採取しよう。ちょうどビーツが手頃な大きさに育ってきた。うかうかしていると、食べごろを逸してしまう。

トマトのサラダ

ビーツは、和食中心の普段の料理ではなかなか使いにくい。が、中東ではよく食べられている野菜の一つ。サラダにしたり、漬物の色付けに使ったりと、派手な色合いを生かした調理に向いている。

ブハリ氏も料理イベントでビーツをメインにした創作料理を出していた。レバノンなど歴史的大シリアのレバント地方では、牛肉や羊肉をパセリなどの香菜やスパイスとともにすりつぶし、オリーブオイルをかけて生のまま食べるクッベ・ナーイエという料理がある。ベジタリン、ビーガン料理を手掛けるブハリ氏は、この料理をビーツやクルミ、小麦の実を加熱、乾燥させて粗挽きしたブルグル(挽き割り小麦)、スパイスを使って模していた。日本では、ブルグルは手に入りにくい。似たような形や味のアワなどの雑穀を使って、ブハリ氏から習ったレシピでビーガン・バージョンのクッベ・ナーイエを作ってみた。

【動画】ビーツと雑穀を使った「クッベ・ナーイエ」の作り方