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ポーランド料理はパッチワーク 手の込んだ伝統の味もインスタントで楽々

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
国民食「ピエロギ」は、隣国ウクライナの精進餃子「ヴァレーニキ」によく似ている(撮影=竹内章雄)。

以前、ワルシャワに研究員として赴任されていた方の紹介で、ポーランド人の学者さんのお宅にお世話になったことがあります。

ポーランドは、ドイツ、チェコ、スロバキア、ウクライナ、ベラルーシ、リトアニアの6カ国に周囲を囲まれています。じゃがいもやライ麦、小麦、大麦、甜菜などの農作物が多く収穫される一方、もともとは騎馬民族であるために、平野部では牛や豚、山麓では羊が飼育されており、乳製品も豊富です。寒い国なので煮込みやスープ料理が多く、ライ麦、小麦が豊富に収穫されることから、粉物文化も発達してきました。第二次大戦ではドイツ、ロシアの侵攻を受けましたが、それ以前も侵略されてきた歴史は長く、他国の食文化が複雑に入り混じっています。

●料理書を見て材料をスーパーに買いにいく

ホテルまで私を迎えにきてくれたのは、学者のエバさんでした。ロビーで挨拶をするや、持ってきた分厚い料理書を開いて「荻野さん、何を作りたいか聞かせてください」とおっしゃったのには、「さすが学者さんは違う」と少し緊張してしまいました。

私が気になっていたのはスープと粉物です。ポーランド人にとっての味噌汁のような存在だという「白ボルシチ」と「バルシチ」。そして、キャベツの漬物を使った煮込み「ビゴス」、国民食である餃子「ピエロギ」の4つでした。

1つ目の「白ボルシチ」は、バルト海沿岸部のラトビアで存在を知ったのですが、残念ながら遭遇できずに終わりました。ベラルーシ、ウクライナでも食べられていますが、ポーランドの郷土料理と知り、興味がありました。

2つ目の「バルシチ」はロシアの隣国ウクライナの「ボルシチ」同様、ビーツのスープ。

3つ目の「ビゴス」はヨーロッパでポピュラーなキャベツの漬物(乳酸発酵漬け)である「ボルヴィッツ」を使った肉の煮込み。ドイツのシュークルートに似ているのでしょうか。

4つ目の「ピエロギ」については、隣国ウクライナの精進水餃子「ヴァレーニキ」と比べてみたいという思いがありました。これは、モンゴルからロシア、トルコ、世界中を席巻したフビライ=ハンの置き土産である粉物文化が、ポーランドにまで及んでいたということでもあります。

●料理好きではないエバさん。でも、頑張って作ることに

エバさんに希望を伝えると、なぜだか「ウーン」という反応です。本を見ながら決めるとはいかにも学者さんらしいと思ったのですが、実は料理が得意ではないとのこと。それでも一生懸命教えようとして下さることに感動してしまいました。そこで、粉物以外の3品を、本を見ながら作ることになりました。

料理書にある材料をメモして、スーパーと市場へ探しに向かいます。料理上手の方の買い出しの際は、案内されるがままに食材選びの様子を見て質問するのが常です。今回は、彼女を手伝うことで普段以上に観察眼を働かせましたので、思わぬ収穫がありました。

●手の込んだ料理が手軽に作れるようになっている

それは、私が作りたいと思っていた料理が、粉末状のインスタント食品や、出来合いの惣菜、冷凍食品など、様々な形の市販品になっているのを発見したことです。

溶けばビーツ色のスープになる「バルシチ」の素もインスタントで色々ありました。何より驚いたことは、インスタント製品まで行かなくても、そもそもベースを仕込むこと自体が面倒な「白ボルシチ」の素「ジュレック」や、「バルシチ」の素となる「ビーツの乳酸発酵漬けの汁」が、瓶詰めで売られていたことです。

1から作ると時間がかかる料理を現地の人々が実際にどう作っているか、リアルを知ることは大切です。エバさんはそれを伺うのにうってつけの方。お話しして、これらを実際に調理に使ってみることになりました。

白い瓶が「白ボルシチ」の素「ジュレック」。赤い瓶は乳酸発酵させたビーツの汁。「バルシチ」に使う(荻野恭子提供)。

●働く人に優しい、ヨーロッパの食スタイル

ロシアをはじめとするヨーロッパに行くと、少し手を加えれば料理が仕上がる冷凍品やレトルト、きちんとした食事を提供する総菜店が発達していることを顕著に感じます。これは、都市部の女性の社会進出が著しく、忙しく仕事をしている人が多いことを象徴しているとも言えるでしょう。オーガニック製品もあり、働く主婦にはとても心強いと思います。

クノールがインスタントのバルシチの素を出している。(荻野恭子提供)。

●国民食ピエロギも加工品が豊富

国民食とあって、「ピエロギ」も冷凍品でいろいろありました。スーパーのイートインや食堂でも気軽に食べることができたので、エバさんに教えてもらい、買い出しの途中にも早速試しました。

「ピエロギ」は水餃子だけでなく、焼きや揚げもあり、見た目はウクライナの精進水餃子「ヴァレーニキ」にそっくりでした。「ヴァレーニキ」の具は野菜のみで、ソースも玉ねぎを炒めたものですが、「ピエロギ」は肉も入ります。ソースは、玉ねぎと一緒にサロ(豚の脂身に塩漬け)を炒めているものもありました。サワーチェリーなど、果物を入れてデザート的に味わうものもあり、ロシアの「ペリメニ」にも中身の影響を受けているようでした。

揚げ「ピエロギ」は、少なめの油で揚げ焼きにするような感じで、ポーランドでよく食べられている平たいカツレツに近い揚げ方でした。カツレツ用の冷凍肉もまた、パン粉がついた状態で豊富に売られていました。

スナック感覚で手軽に食べられる国民食「ピエロギ」。サロとハーブがソースになっていた(荻野恭子提供)。

●ジュレックで作る「白ボルシチ」と「バルシチ」は味噌汁のような存在

結局、エバさんのお母さんを呼ぶことになり、3人で料理しました。お母さんは昔の人ですから、普通に家庭料理を作れて心強く、私はメモや味見の余裕もできました。

「白ボルシチ」はライ麦または黒パンを発酵させて作る液体を使う酸味のあるスープですが、液体そのものも料理名も「ジュレック」。この液体を仕込むのに時間がかかると思っていましたが、市販されている出来合いの液体を使えばあっという間でした。キャベツと加工肉を入れて煮るだけで、カフェなどでも手軽に食べられるインスタントご飯のような味噌汁のような感覚のものでしたね。

エヴァさんが作ってくれた白ボルシチ。本来は、ライ麦をさまし湯で溶いて発酵させた汁「ジュレック」を使うポーランドの郷土料理(荻野恭子提供)。

「バルシチ」もまた、市販されていたピンクの乳酸発酵した液体を使って手軽に作れました。ウクライナの「ボルシチ」と名前は似ていますが、「ボルシチ」の方は肉でブイヨンをとって炒めた野菜やビーツを共に加えて煮込むもの。共に鮮やかなピンク色のスープですが、「バルシチ」のほうはビーツを乳酸発酵させた汁の中に、小さなピエロギのようなものを入れるのが特徴です。中身は合い挽き肉ですが、これも市販の冷凍品を利用しました。

バルシチも、各家庭でベースや加えるものなど、様々なパターンがある。代表的なものが、ウシュカと呼ばれる小さなピエロギを加えたもの(荻野恭子提供)

●数日間かけて作るのが本来の「ビゴス」

「ビゴス」は、森のスープとも呼ばれる大変古い料理だそうで、樽に仕込んで市場で量り売りにされていた乳酸発酵キャベツを使いました。これに生のキャベツを合わせ、肉や腸詰め、キノコなどを加えて数日間煮込むのが本来だそうです。各家庭にそれぞれのレシピがあって、ポーランドやバルト海沿岸の国ではお袋の味として親しまれているのだと伺いました。「ずっと煮込み続けるのではなくて、火に掛けたり下ろしたりを繰り返して数日かけるのが良いの。煮込めば煮込むほど味が馴染んで美味しくなるのよ」とお母さん。でも、この日は時間がなく、1日で仕上げたのが心残りでした。

キャベツの乳酸発酵漬けはヨーロッパ中の冬の定番。市場で樽に漬けて売られていたもの(荻野恭子提供)。

●時代とともに変化しながら残る伝統料理のかたち

こうしてみてくると、ポーランドの家庭料理はもともとは意外と手が込んでいることがわかりました。例えば「ビゴス」も、生肉を数種類加えるなど準備も大変。数日間煮込まなくてはならないですし、茶色っぽくしょうゆのような色に仕上げるには、玉ねぎをよく炒めなくてはならなかったり。なので、ちょっと作る料理ではなく、今やレストランや惣菜屋さんの料理といえそうですね。

料理の簡略化の波で伝統的な方法を続ける人が減り、インスタント化、観光用やレストラン料理として形が変化しているケースも少なくないのが実際でしょう。そんな中で、出来合いのものや補助食品を活用しながらも、古くからの料理が存在し続けているポーランドの日常食を体験できたことは、実に貴重でした。

数日かけて煮込むのが通常の「ビゴス」(荻野恭子提供)