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赤、白、緑にピンクのボルシチ 地産地消の郷土料理

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。 更新日: 公開日:
飲むサラダと言われる冷たいボルシチはリトアニアの郷土料理(撮影=竹内章雄)

第21回 ロシア編 飲むサラダとも言われる「冷たい夏のボルシチ」はリトアニアの郷土料理です。一方、ビーツが入らない「白いボルシチ」はポーランドの郷土料理、春の「緑のボルシチ」は、国によって名前も異なり、ヨーロッパ全土で作られている、季節のスープです。長年の旅で出会った、様々な「ボルシチ」についてお話しします。

●夏にはビーツの葉も食べる

様々なロシアの家庭で「ボルシチ」の作り方を習ってきましたが、ビーツは根の部分だけを食べるものと思っていました。それが、ある夏にモスクワの家庭に伺ったところ、ビーツの収穫時期と重なっていたことがありました。

この時期のビーツは葉も大きく、葉脈の赤い軸も大変立派です。ザクザクと刻んで、そのほかの野菜とともに炒め、「ボルシチ」に加えているのを見て、これも野菜として使うのだと知りました。葉も軸も栄養豊富なビーツ。時期によっては「あれば全て使う」ということでしょう。

ビーツの葉。葉脈も赤く栄養が豊富。炒めたりサラダにするなど、普通に野菜として食べられる。

●冷たいボルシチはリトアニアの郷土料理

夏の飲むサラダとして親しまれているのが、ビーツの冷たいスープ。これはリトアニアの郷土料理です。甘酢でマリネしたビーツに白いサワークリームを加えると、「スビョークラのスープ」とも呼ばれ、ロシアでも食べられています。冷たいといっても、日本のようにキンキンに冷やすわけではなく、常温です。イギリスのビールが生温いのと同じ感覚でしょうか。

これを初めて食べた時のことは忘れられません。リトアニアのビリニュスのホテル体験した色鮮やかなピンク色と、ひんやりとしたコクのある味わい。その後、ロシアではなくリトアニアの郷土料理だと知り、現地に習いに行きました。

温かいボルシチの場合、ジャガイモは中に入れて一緒に煮込みますが、冷たいボルシチの場合には、茹でたじゃがいもは付け合わせ。ディルがまぶしてありました。大量に添えてあるのを見て、「こんなに食べられない!」とはじめは思いましたが、これがもうたまらなく美味しい。ついつい全部食べてしましいました。

そういえば、冷たいボルシチの場合にも、ハーブを入れるがごとくに、ビーツの葉が新鮮な時には、刻んで上に散らしていましたね。

●白いボルシチはポーランド料理

また、ポーランドの家庭にホームステイしたときの話です。郷土料理に、発酵させた麦「ジュレック」を使用した白くて酸味の効いたスープがあり、これは「白いボルシチ」と呼ばれています。「ジュレック」は、ライ麦粉を湯冷ましで溶いて塩、砂糖、酢を加えて発酵させた液体(調味料)で、日本でいうお酢のようなもの。広く市販されています。作り方は他のボルシチ同様、塊肉や加工肉でブイヨンをとり、そこに野菜やジュレックを加えて煮込みます。食べるときにはサワークリームを。ベラルーシやウクライナほか、隣国のバルト国でも食べられています。

バルト3国の1つ、ラトヴィアのレストランで食べた「白いボルシチ」。耐熱の壺に入って出てきました。2002年ごろ。(荻野恭子提供)

●春は緑のボルシチ

1度や2度訪れただけでは、はっきりとわかりませんでしたが、毎年毎年、春にヨーロッパをあちこち訪れるようになると、酸っぱい「緑のスープ」をどこの家庭でも食べていることに気づきました。

ロシアのように寒さの厳しい国は、ビーツの収穫は夏に一度だけですが、春にロシアへゆくと、「シャベーリ」という、自生している野草を使った「春限定のボルシチ」を出してくれます。「ボルシチ」といっても、この場合はビーツが入らないわけですから、本来的には普通のスープです。ただ、ロシアの人は、一年中ボルシチを食べていますので、春ならではの色の美しいスープということで、「緑のボルシチ」と呼んだのでしょう。先ほどご紹介した「白いボルシチ」に関しても、呼び方のルーツは諸説あるようです。

さて、「シャベーリ」はタデ科の野草の一種で、日本ではスイバやスカンポなどとも呼ばれ、見た目はほうれん草に似ています。シュウ酸を多く含むため、葉や茎の部分に強い酸味があります。

春はデトックスの季節と言われる通り、日本でもこの時期に、苦味のある山菜や筍などといった旬のものを食べて冬の間に身体にため込んだ毒素を排出する習慣がありますよね。時期的には春のほんの一瞬のことですが、ロシアの「緑ボルシチ」をはじめ、周辺ヨーロッパ諸国でも、同様にデトックス目的で食べられており、フランスやモロッコでは、シャベーリを「オゼイユ」と呼び、同様にスープにしていました。

これも、日本でいうところの味噌汁と同じようなものではないでしょうか。作り方や具材に厳密な決まりはなく、ブイヨンをとり、刻んだ野菜とシャベーリを加えてスープにします。

その他トルコ、中央アジアなどでも同様に、春には酸っぱい「緑のスープ」を食べていて、同じスカンポのスープでも国によって呼び名は違うようでした。世界中で、体が欲する旬を食べつないで同じ季節にデトックスを考えているとは、興味深い話ですね。

キエフでホームステイしていた際にレストランで食べた、緑のボルシチ。2000年ごろ(荻野恭子提供)

緑のボルシチの材料と作り方

1 鍋に手羽元4本、米大さじ2、水8カップを入れて強火にかけ、似たったらあくを取りながら強めの中火で約30分煮る。
2 薄切りにした玉ねぎ1/4個分と、ざく切りにした小松菜(スカンポの代用)1わ分を油大さじ1で炒め、1の鍋に入れて酢大さじ1、塩小さじ1、こしょう少々を加えて中火で約15分煮る。
3 器に盛り、サワークリーム適量をかけてハーブ(ディルのみじん切りなど)を適量散らす。
※サワークリームは、生クリームとヨーグルトを同量で混ぜ合わせたものを使う。