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キャベツの漬物がうまみの素 ロシア人の味噌汁的スープ「シチー」

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
ロシアの国民的スープ「シチー」にビーツを加えて煮込めば「ボルシチ」(撮影=竹内章雄)

●ロシアの郷土料理「シチー」

ロシア伝統の国民的スープと聞いて「ボルシチ」を思い浮かべる人は多いことと思いますが、実はこれ、ウクライナの料理です。ロシア人にとって最も身近なスープは「シチー」というキャベツのスープ。肉でブイヨンをとり、炒めた野菜とともに、乳酸発酵漬けにしたキャベツを調味料がわりに加えて煮込みます。つけ汁も一緒に加えますが、これが味の決め手です。

ロシアに行くと、お母さんたちは口々に、「私がダーチャ(菜園付きセカンドハウス)で育てた自慢の野菜よ」と言っては、収穫した野菜や、自家製の保存食を振る舞ってくれますが、この時、漬物がわりに「キャベツの乳酸発酵漬け」もよく出してもらったものです。

様々な種類の野菜を乳酸発酵漬けにして保存する(荻野恭子提供)。

●「シチー」にビーツを加えれば、ボルシチに

「シチー」は、日本でいうところの味噌汁のような素朴な味わいで、飽きることがありません。彼らにとって、日々スープは欠かせないもので、スープとライ麦パンがあれば何もいらないというくらい栄養価が高いと捉えられているほど。そして、「シチー」にビーツを加えたものこそが「ボルシチ」と呼ばれる料理です。

「ボルシチ」は、骨付きの豚や牛などの塊肉を煮込んでブイヨンを取り、そこに、ビーツや玉ねぎ、人参、セロリ、トマトといった野菜類を炒めたものを入れ、刻んだキャベツの乳酸発酵漬けとじゃがいもを加えて煮込むのが一般的な作り方です。キャベツは、新鮮なものが手に入る時期にはそのまま加えますが、それ以外の時期には、保存食の乳酸発酵漬けを使います。

最後にハーブやニンニクを加えて火を止め、食べる時にサワークリーム(スメターナ)を溶きます。本来ハーブやニンニクは寒い気候の中での生育が難しいため、ロシアの気候では育たない、大変貴重なもの。そこで、最後に加えて風味を活かすよう、工夫されてきたのでしょう。

「キャベツの乳酸発酵漬け」をベースにしたロシアの国民的スープ「シチー」。これにビーツを加えて煮込めばボルシチになる(荻野恭子提供)

●地域差や生活スタイルで少しずつ違うボルシチ

地域差もあります。ウクライナの「ボルシチ」は、肉、野菜、豆なども加えた具沢山なもので、必ずビーツが入っています。けれど、同じロシア国内でも、シベリア側とヨーロッパ 側とで、ビーツの加え方は異なります。

ビーツの原産地は地中海沿岸ですから、シベリアまではかなりの距離があり、かつて、手に入れるのは大変なことでした。それで、この地域の「ボルシチ」は、トマトやニンジン(中央アジア原産なので、距離の近いシベリアではニンジンはポピュラー)の入った、さらっとしたトマトスープのような感じのものが多くなったようです。

このように、シベリア側の「ボルシチ」はトマトのようなニンジンスープのようなもの。ヨーロッパ側では、鮮やかな真っ赤なビーツの「ボルシチ」が定番ですが、キャベツの漬物を加えた酸味のあるスープであることには変わりなく、食べる時にサワークリームの酸味が加わる点は共通しています。

●家庭のボルシチとレストランのボルシチ

家庭とレストランでも異なります。レストランの場合には、オーダーを受けたらすぐに出さなくてはならないので、ビーツはあらかじめ煮てあります。ブイヨンスープにキャベツの漬物とビーツを加え、一度沸かしてから出すことが多いようです。

家庭の場合は、時間のある主婦はブイヨンを塊肉でとりますが、都市で忙しく働くキャリアウーマンたちは、ソーセージやベーコンといった加工肉を使って手軽にだしを取る方法で作ることが多いです。火が通りやすいよう、野菜は千切りにし、この場合も、味出しに「キャベツの漬物」を使います。短時間でできるこのタイプは、都会の簡単版ということで、「モスクワ風ボルシチ」と呼ばれているんですよ。

●ビーツはトルコ経由でウクライナに入った

このような背景には、キエフ大公国が、9世紀から13世紀にかけてウクライナのキエフに首都を置き、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ3国共通の起源となったことがありました。

もともと、ウクライナの黒海側に位置するクリミア半島はオスマントルコに制覇されていたので、半島一帯はトルコの色が強く、料理もトルコ料理の影響を強く受けてきました。地中海原産のビーツやハーブなども、トルコ経由でウクライナに広まった野菜でした。その後、キエフ公国がモンゴル人に侵攻され、ロシアとウクライナは分裂。ウクライナは様々な国に支配される歴史を辿ることになり、「ボルシチ」もまた、ウクライナの郷土料理という位置づけになっていったようです。

●ヨーロッパのキャベツの漬物文化の広さ

キャベツを漬物(乳酸発酵漬け)にする文化に注目してみると、これはロシアだけでなく、中欧、東欧、北欧、ルーマニア、ドイツ、フランスなどにもみられるもので、特に冬が長く厳しいロシアやウクライナにおいては、新鮮な野菜が手に入る時期は短く、手に入る野菜のほとんどを保存食にしていたことから、野菜を漬物にする文化が生まれていきました。同じ酢漬けのキャベツでも、ルーマニアなどはロールキャベツに使うので、大きな葉のまま漬物にし、そこに肉などを巻いて「サルマーレ(ルーマニア風ロールキャベツ)」を作っていました。ヨーロッパも北欧も発酵キャベツは全体的に食べていました。

キャベツの原産はヨーロッパの地中海沿岸、大西洋の沿岸と言われ、ケルト人によって栽培されたケールがルーツとも。1000年ほど前に現在の結球形になり、ヨーロッパ各地に伝わったと言われます。まさに、地産地消の文化と言えるものですね。

キャベツの乳酸発酵漬けの材料と作り方(作りやすい分量)

1 熱湯5カップ、塩大さじ3、砂糖、酢各大さじ1を鍋に入れて煮立て、冷ます。
2 キャベツ1/2個とにんじん1/4本はせん切りにして合わせ、煮沸消毒した瓶に詰めて1を注ぐ。
3 密閉せずに軽く蓋をしたまま2、3日室内に置き、発酵させてから食べる。つけ汁が乳酸発酵して白っぽくなったら冷蔵庫へ。
※冷蔵庫で1、2ヶ月保存できる。つけ汁も調味料に。

モスクワ風ボルシチの材料と作り方

1 鍋に輪切りにしたソーセージやサラミなどを入れて水を注ぎ、火にかける。沸騰したら20分ほど煮てブイヨンをとる。
2 フライパンにバターを熱して薄切りにした玉ねぎを炒め、細切りにしたトマト、せん切りにしたビーツを加えてトマトが崩れるまで炒める。1の鍋に加えたら、キャベツの乳酸発酵漬け(※上記参照)、ハーブ(ディル、イタリアンパセリなど)を加えて5分ほど煮、塩こしょうで調味する。
3 器に盛り、好みでサワークリームを溶く。