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中東はテロと紛争ばかりではない ささやかな日常に出会う甘味

中東を丸かじり
自宅で作ったルッズ・ビ・ラバン

「手榴弾が飛び交っているパレスチナの戦場」という表現って、現実から随分と離れているよね?とバックパッカーの体験記を動画投稿サイトで観た友人からメッセージが来た。「うーん。そうだよね。パレスチナで手榴弾が飛び交う場面はあまり聞いたことがないし、毎日が戦場のようでもないと思う」と返事した。だが、ここには自戒の念も込められている。中東で10年以上過ごして一番感じてきたのは、ささやかな日常がメディアで伝えられるのは極めて少なく、テロや戦争など極めて特殊な状況がフォーカスされがちだという現実だ。

紛争やテロの強いイメージ

エルサレムやイスラエル、パレスチナ、中東には、紛争やテロというイメージが付きまとう。中東に関するこのような理解は、ジャーナリストにも責任の一端があるだろう。ジャーナリズムには、事象のなるべく極端な部分を選びだし、それを華々しく伝える傾向があるのではないかと感じてきた。中東では、自爆テロやそれに対する軍事報復、イスラム原理主義など特定の出来事や対象がクローズアップされてきた。

戦争以外の日常はメディアから切り捨てられる。あるとき、知り合いの記者がこぼした。「パレスチナの子供たちが次々と亡くなっているのに、ヒマネタは書けないよ」。戦争という悲劇を前に、人びとの日常を切り取るような面白いネタは記事にできないという悩みである。戦火が激しさを増せば増すほど、その他の話題を取材するための時間が確保できなくなる。ただ、それ以上に、子供や女性など無辜の市民が次々と命を落としているのに、明るい話題は書けないという、いわば自己規制のような心理が記者や新聞社の側に働いてしまう。結果的に、特定のイメージが増幅される「負の側面」があることも否めない。

パレスチナにとっての悲劇は、イスラエルが建国した1948年以来絶えることなく続いてきた。この苦しみは、いつ果てるとも思えない。しかし、現実のパレスチナは、日常の中に悲劇が突然現れたり、悲劇の中に希望を見出したりしているという状況の中で、人々は時に現実を運命として受け入れ、ある時には運命に抗って懸命に生きている。限られたスペースしかない新聞紙面やテレビ映像の中では、このような民衆の思いを伝えるのは難しい。

現地に行けば分かる魅力

中東地域を訪れたことのある人なら、人々の温かさや笑顔、中東の過酷ながらも美しい自然環境という魅力を知るだろう。実際に訪れて熱烈なファンになる人も多い。一方で、治安面での不安以外にも宗教的に抑圧された男性によるセクハラや腐敗、貧困という現実もあり、中東嫌いになる人もいる。

現実から乖離していると批判する友人の話も、他人事としては聞けなかった。第2次インティファーダ(対イスラエル抵抗闘争)が盛り上がっていた2000年代、中東に関わり始めた筆者も似たような経験をした。緊張下にあったヨルダン川西岸ナブルスを訪れ、武装勢力に一時的に拘束された。現地情勢の入手が不十分だったことが災いした。解放された後、東京にある本社に電話し、拘束されたことを記事にすべきかどうか相談したが、原稿にするほどの話でもないという判断になった。

ナブルスに行ったのは、アラブ菓子の聖地でもある彼の地で、中東の暖かいチーズのお菓子、クナーフェを食べたいというのも理由の一つだった。そんな不純な動機で十分に下調べもせず戦地に乗り込み、挙げ句の果てに「拘束された」と記事にしているようでは、批判を免れないだろう。

中東の暖かいチーズのお菓子クナーフェ

中東に長く暮らしていると、逆に日本は危険で不幸な国ではないのかと思う瞬間がある。現地では、日本に関する主な情報源は、数日遅れで届く新聞やテレビだった。そこでは、通り魔事件や巨大地震、自死を選ぶ人たちの数が減らないといった話題が展開された。中東よりも日本はよほど危険なのではないかと、ふと思わされてしまうところがメディアの怖いところである。

冷蔵庫に眠る材料で中東のお菓子を

今回のテーマであるお菓子は、民衆が日常的に食べているもの。以前紹介したクナーフェは、作るのに材料の用意や手間が必要だ。今回は、冷蔵庫に眠っている残り物で作れそうだ。ルッズ・ビ・ラバンと呼ばれるお米が入ったミルクプリンは、エジプトやパレスチナ、レバノンなど中東の各地で日常的に食べられている。中東以外にも欧州やロシア、インドなど世界的な広がりのあるお菓子のようでもある。エジプトでは、自転車の両脇に大きなミルクタンクを据え付けた牛乳売りのおじさんがやってきた。その場で1リットルぐらいをビニール袋に入れて売る仕組み。水牛がメインのミルクは、濃厚な旨味があった。そんなミルクを使ったプリンが街のお菓子屋さんで売られていた。

中東では、主食としてお米がよく食べられる一方、ルッズ・ビ・ラバンのようなデザートやサラダの中に米粒が入っていたりする。日本人としては、このようなお米の使い方は、あまり馴染みがなく、びっくりしたものだ。

現地では、純粋な白米を炊く習慣はなく、バターやスパイスで味付けすることが多い。日本では、そのまま炊くので、残りのご飯を使える利点がある。今回は、動物性食品も口にしない完全菜食主義のビーガンの人たちも食べられるバージョン。残り物のご飯に豆乳、甜菜糖、ナッツやドライフルーツを使ってみた。乳製品を使っていないとは信じられない濃厚さ。中東的にナッツやドライフルーツをふんだんに使って栄養価も抜群だ。

【動画】中東のライスプリン「ルッズ・ビ・ラバン」