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トランプ氏退場へ サウジとトルコに融和の動き

中東を丸かじり 更新日: 公開日:
自宅で作ったレンズ豆のスープ

来年1月、米国にバイデン次期政権が誕生するのを前に、早くも中東の政治が活発化してきた。民衆蜂起「アラブの春」を契機に政治姿勢の違いから対立が先鋭化していたサウジアラビアとトルコが、にわかに関係改善を模索し始めた。トランプ政権の退場は、中東に大きな変化をもたらすのか。

「アラブの春」で路線対立

サウジとトルコが袂を分かつ契機になったのは、10年前に起きた民衆蜂起「アラブの春」だ。独裁者や政権の腐敗などに民衆の怒りの矛先が向けられ、絶対王政のサウジも例外ではなかった。世界最大級の産油国という潤沢な資金力を生かして、補助金を大盤振る舞いしてなんとか危機を回避した。これに対し、トルコのエルドアン大統領は、草の根の支持を集めたイスラム組織ムスリム同胞団に肩入れすることで中東地域での影響力の拡大を目論んだ。

シリア内戦でサウジとトルコは共にアサド政権と戦う反体制武装勢力を支援したこともあったが、2017年のカタール危機で対立は抜き差しならない状態に陥った。小国カタールもサウジという隣国に飲み込まれないようムスリム同胞団を支援することに活路を見出した。これがサウジの琴線に触れ、同胞団を警戒するアラブ首長国連邦やエジプトなどと共に断交し、カタールを孤立させようとした。カタールの危機に手を差し伸べたのがトルコである。

シリア北部でレンズ豆のスープを飲む子供たち

サウジ人記者殺害で非難合戦に

さらに、トルコの最大都市イスタンブールを舞台にしたサウジ人著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害事件が両国関係の亀裂を修復困難なものとした。トルコは、サウジ公館とはいえ、自国内での白昼の蛮行に激怒。サウジで実権を握るムハンマド皇太子の関与を主張し、大々的な反サウジ・キャンペーンを展開した。サウジは、ムハンマド皇太子は関与していないとの立場を貫き、トランプ米大統領の援護もあって事件の早期幕引きを画策した。

中東の指導者としては35歳と若く、「開明的で改革派」であり脱石油の経済・社会改革を陣頭指揮していたムハンマド皇太子が侮辱されたとして、サウジのトルコへの恨みは深まった。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというわけで、サウジはトルコ人が支配層だったオスマン帝国時代の歴史も修正して教科書に掲載した。「オスマン占領時代」として現在サウジが位置するアラビア半島でのオスマン帝国による行為を悪意をもって誇張したり、改変したりしたのだ。サウジではトルコ製品不買運動も展開され、政治対立は経済関係にも及んでいる。

サウジの首都リヤドにある史跡マスマク城

米政権交代でサウジに逆風

ところが、ムハンマド皇太子と友好関係を深めたトランプ大統領が11月の大統領選で敗北濃厚となって風向きが変わった。サウジが進めたカタール断交やイエメンへの軍事介入、カショギ氏殺害事件は、内外の批判を浴びながらもトランプ氏が防波堤となって米国内のサウジ批判を抑え込んだ。バイデン次期大統領は、国際協調を重んじる人権派とされるほか、サウジの宿敵イランを封じ込めようとしたトランプ大統領の対イラン政策から融和路線に舵を切る見通しだ。サウジは米国の政権交代に戦々恐々としている。

トルコのエルドアン大統領も、バイデン次期政権への移行を警戒する一人。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ前政権が2016年のクーデター未遂事件に関与したと疑うエルドアン大統領に対し、バイデン氏もエルドアン大統領の独裁的な政治姿勢を批判する。

米政権交代に危機感を持つサウジとトルコは、11月の20カ国・地域(G20)を前に関係改善を模索し始めた。サウジが議長国を務めたことから、サルマン国王がエルドアン大統領に電話、この機会に両国関係の懸案も話し合われた。両国の対立関係は、中東地域を不安定にさせており、本格的に関係改善に向かえば、カタール危機の打開など影響は多方面に及ぶ可能性がある。

食文化広がったオスマン帝国時代

ただ、オスマン帝国時代の歴史を修正するまでに対立が深まった傷跡は大きく、関係改善は容易ではないだろう。そんなオスマン帝国の時代はどうだったのだろうか。オスマン帝国は、支配階層に多くの民族や宗派の人々が取り込まれ、食などの文化も中東地域に広がったといわれている。広大な版図で繁栄を謳歌したオスマン帝国は、軍事力以外にも共生のシステムが機能した。

中東各地では、そんなオスマン帝国時代を想起させる食によく出会う。その時代に食文化が活発に伝播した。中東地域も冬は寒い地域が多く、暖かいスープは心も体も温める。レンズ豆を使ったスープは、中東各地で好まれる、日本で言えば、味噌汁のような存在。レンズ豆は、旧約聖書の中でアブラハムの息子イサクの双子の兄弟のうち、兄であるエサウがレンズ豆の煮物と引き換えにヤコブに長子権を譲る話の中で登場する。レンズ豆はそれほどに古い時代から食べられていた食材で、もしかしたらレンズ豆のスープもオスマン帝国が登場する前から飲まれていたのかもしれない。

アルジェリアで飲んだレンズ豆のスープ

レンズ豆は、多くの豆のように水に浸して長時間加熱しなくても簡単に柔らかくなるのが特徴。タンパク質や繊維質、鉄分などの栄養素も豊富で、玉ねぎやニンニク、人参などの香り高い野菜と煮込み、ミキサーで攪拌すれば、肉を使わなくても濃厚でクリーミーなスープが味わえる。中東の各地で愛される味わいだ。

【動画】レンズ豆のスープの作り方