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混ぜて食べればおいしい! 南インドのミールスと深川ぶっかけ飯

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
バナナの葉の上で食べるミールス。(撮影=竹内章雄)

海沿いには、ひたすらバナナとココナツと水田

今年から、デリーを経由せずともチェンナイまでの直行便ができ、8時間で行けるようになって随分近くなった気がしました。私の中のチェンナイは、埃の中に風景が浮かび上がるような、群衆が迫ってくる熱気のあるイメージでしたが、今回はコロナウイルスの流行り始めということもあってか、人もまばらに感じました。約10日間かけて、チェンナイからボンディチェリ、マドライ、ケララのコモリン岬(ヒンドゥー教の聖地)を経て、コーチンに至るまでの海沿いの街や村を車で巡りました。

道中、とにかく目に入るのが、街道沿いに延々と生い茂るバナナの木と椰子の木。そして内陸には延々と広い水田が広がっています。喉を潤してくれるのはココナッツジュースで、椰子の実の上部の皮を剥いでカットし、そこにストローを挿して売られています。チャイもありますが、ココナッツが何よりの水分補給。水道はもちろんあり、現地の人は生水も飲みますが、沸かしてお茶として飲む方が多いようでした。

手前に転がるのはココナッツ。そして水田、奥にはバナナ。(荻野恭子提供)
種類も味も驚くほど豊富なバナナ(荻野恭子提供)。

食堂で唸った、バナナの葉の活用法

南インドはぐるりと海岸線に囲まれているので魚介類が豊富。米も収穫できるので、北インドとは異なり、食事のベースに米食があります。

食堂で主に供されるのが、「ミールス」と呼ばれる南インドの定食。食べるときの流儀が面白いのです。手を洗って席につくでしょう。すると、お店の人が、ランチョンマットくらいのバナナの葉を持ってきます。お客さんは暗黙の了解で水をパパッとつけて葉の表面を洗います。その程度じゃ消毒にはならないのではないかと思うのですが、とにかくそうして清める。バナナの木が植えられていたらそこから切ってきますし、そうでない場合は使い捨ての紙皿のようにして市場でも売られているので、そういったものを使っているのかしらね。

葉が清められると、ご飯、揚げ物、カリーといった注文した料理が次々と運ばれてきます。それを何種類か葉の上にのせてもらうと、利き手の5本指でとにかく全部ぐっちゃぐちゃにかき混ぜて食べます。北の方の人は指3本で食べるのですが、南の人は利き手全体で食べるため、食べ終わったときにはベトベトに。葉っぱをくるくると巻き、これを持って手を洗いに行くのです。洗い場にはゴミ箱があるので、葉を捨てて手を洗っておしまい。はじめと後は手を洗うので清潔です。

こういった理にかなった綺麗な食べ方の背景には、インドで宗教上、食事の「浄」が大切にされることが関係している気がします。そして、バナナが至る所にあることを利用した地産地消。何かとても合理的で感動してしまいました。こんなにたくさんバナナがあったら、葉を活用するはずだという納得の思いでした。

防水性と抗菌力がある万能なバナナの葉。この上で、混ぜて混ぜて食べる(荻野恭子提供)。

バナナの葉には柿の葉同様、抗菌力がある

バナナの皮には、日本でおなじみの柿の葉寿司の柿の葉同様、抗菌力があると言われています。加えて防水性があるため、水分の多い南インドの料理にぴったりなのです。食卓に汁がこぼれることなく、葉っぱだけで皿とランチョンマットを兼ねるような感覚で使えるのです。

食器を普通に使っているお店や家庭も多いと思います。普及しているのは一般的にはステンレスのターリー(盆皿)のようなもの。なかには、皿が汚れないように、ターリーの上にバナナの葉を敷いているレストランもありました。

ターリーの上に葉を敷き、定食をあらかじめ準備する食堂も(荻野恭子提供)。

テイクアウトのお弁当にもバナナの葉

皿としてだけでなく、何かを包む場合にも向いています。蒸したり蒸し焼きにする時も便利に使えますし、葉脈が縦に通っているのでカットしやすいのです。

よって、お弁当もバナナの葉で包みます。ご飯にカレーをかけるでしょう。それを包んでテイクアウト仕様にするんです。一緒にいた方が試していて、中身がはみ出さないのかハラハラしていましたが、ご飯に全て水分を吸わせるので問題なし!とのこと。水分が多いものばかりでなく、ポリヤル(蒸し炒め)やどろっとした煮込みもありますしね。

南インドにはサラッとした水分の多い料理が多い。これはサンバル(豆のスープカレー)(荻野恭子提供)。
花を売る露天商もバナナの葉を使っていた(荻野恭子提供)。

バナナの葉は「混ぜて食べる文化」に合っている

バナナの葉が器として使われるのは、その防水性が、混ぜて食べる「複合の味」の文化に適しているということも大きいと感じています。

ミールスは、米を中心に複数のカレーやおかずを合わせる定食ですが、混ぜる種類に特に法則はなく、食堂でもレストランでも家庭でも、ベースは大まかに、ご飯、漬物、ポリヤルやサンバル(豆のスープカレー)をはじめとするおかずやカリー類の3つでしょうか。これらを混ぜてご飯に味を吸わせます。おかずの種類が多ければ多いほど美味しくなると言われます。

また、ラッサムは、南インドの朝食につきものの、味噌汁のような酸味のあるスープですが、ラッサムがあればそれも混ぜる人は一緒に混ぜます。ご飯がどっさりくるので水分が多くても大丈夫なのです。それに、パリパリのせんべいのような「パパド」やスナック的な豆類も混ぜてアクセントにします。

その他、スパイスでマリネしたチキンやマトンをソテーしたメインも加わることがありますが、南インドにはタンドールがないため、鉄板やフライパンで焼きます。これらも同様にほぐして混ぜる人もいますし、そのまま楽しむ人もいて、決まりはないようです。

南は魚介が豊富。まながつおのスパイスソテー。これもほぐして混ぜる人もいる(荻野恭子提供)。

ミールスは江戸の深川ぶっかけ飯に似ている!

インドはとにかく複合の食、混ぜ合わせた美味しさを味わう料理です。東南アジアはほとんどそうだと思いますが、ハーブやスパイスなども、単体では味が強いものや個性が強すぎるものも、組み合わせることで化学反応的な美味しさが生まれます。中近東やヨーロッパのシチュー的な煮込みもそうですし、韓国料理のコミョンなども、1つ1つの料理は本当に美しく仕立てますが、食べるときにはぐちゃぐちゃにして食べます。食べるときには姿形の様子は気にしないところも、複合の味の表現として興味深い部分です。

日本は1種類ずつ美味しさを味わう食文化があり、吸い物にしても、出汁をとって、具を別に用意して合わせます。これは庶民の文化というよりは韓国や中国の宮廷料理が公家にもてはやされ、懐石料理として職人芸のように残った文化でもありますが、ベースは関西でしょうか。関東の場合には、江戸城を築くために地方から集まった職人たちが食べていたのは、今でいうファーストフード。天ぷらにしろお寿司にしろ、立ち食いの屋台で、労働者向けの濃い味付けでした。

私は浅草生まれ深川育ちの江戸っ子ですから、ミールスを初めて食べた時、子供の頃にあさりのみそ汁をご飯にぶっかけて食べていたことを思い出しました。そこには、他に漬物があったり、佃煮があったりして、一緒に合わせていました。まさにミールスです。そこの部分を突き詰めて考えている人はあまりいないのかもしれませんが、「あれっ!これは何かにいている」という感覚は、面白い発見でしたね。