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水が貴重なインド山岳地帯 食後の皿をきれいにする方法は

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
父はレーに出稼ぎに行っている家庭。祖父母と母、子の暮らし。(荻野恭子提供)

●麦の収穫に参加する

私が訪れた8月はちょうど麦の収穫時期で、この作業がとにかく面白かったですね。おばさんやお兄さん、近所の人みんなでしゃがんで、尻餅をつきそうな体勢のまま根から引っこ抜く。それをそのまま1日、2日乾燥させて、箱の内側にゴツゴツとした靴のゴム底を貼り付けたものに叩きつけてしごき、脱穀するのです。水牛の後ろにローラーをつけ、ノロノロと歩かせて脱穀している人もいましたね。そういう風景が今も続いていること自体が本当の悦び。私もお手伝いをさせていただきましたが、結構大変でしたよ。

収穫時にこぼれた麦の粒を家畜が食べ、糞尿をし、肥料となることで、種をまけばそこに麦の穂が出て麦が育つ。食物連鎖であり、素晴らしい自然循環です。この目で自然の摂理を垣間見ることが出来、心が豊かになり、生きる基本はここにあり!と感じたひと時でした。

驚いたのは、彼らが水牛を食べるということでした。ヒンドゥー教では牛は神聖なものとされるので牛肉は食べませんが、水牛は違うんですね。でも、とても硬いので、長く煮込まないと食べられません。とはいえ、普段はあまり肉は食べておらず、鶏や卵くらいでしょうか。ケール、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、いんげん、カリフラワーといった野菜を煮込んだものに、薄くスパイスを加えるといった料理が一番多かったでしょうか。

水牛の脱穀作業(荻野恭子提供)
座って麦を引っこ抜く作業は本当に大変(荻野恭子提供)

●電気が来るのは1日に4時間のみ

電気がつくのは夜7時から10時まで、レーから送られて来るんです。なので、ご飯を食べたりテレビを見たり、そういったことは全てこの時間帯にするの。今はネットもつながっているのかもしれませんね。

お風呂に関しては、ホテルなどにはありますけど、まず入らないのね。チベットの人は、「生まれた時の生湯、結婚するときの身の清め、死んだときの湯灌」、つまり、生涯で3回しかお風呂に入らないと言われるほどで、頭を洗うのは2ヶ月に1回くらい。年に6回くらい清水のところに行って頭を濯ぐ感じみたいですね。冬は全く洗わないのかもしれない。高地で乾燥しているので、まあ大丈夫といえば大丈夫かもしれないけど。

最後に宿泊した民家では、私が使う水として、小さな洗面器に1杯のお湯をくださったのですが、日本人の感覚では「これで何ができるの?」という量で……。水も出ず、洗面所もないため、顔や手足を洗うための水だったのだと思いますが、彼らは使っておらず、来客のためのものでした。日本人は体ふきシートが必携だと思いました(私はいつも携帯しています)。

キャラバン隊4人くらいと共に毎日移動していた。シェルパの方は外でテントを張って自炊(荻野恭子提供)

●4日目は、崖の上にある住まいに

今回伺った4件は、岩壁に穴を掘ったような埋め込まれたような家、どうにか山の上の建っている家、地面に建っている家など、様々でした。最後は、がけの上に建つ、伺った中で一番標高の高いお宅にお邪魔しました。冷蔵庫はなく、貯蔵庫のような部屋に、肉も卵もヨーグルトも全ての食材が置いてありました。肉などは自然に干し肉になっていました。お爺さん、お婆さん夫婦、お嫁さん、子供たちで暮らしていました。ご主人はレーに出稼ぎに行っていました。

食事も忘れられないものでした。野菜が入った薄いカレー味のスープに、最初にお世話になったお宅でもいただいた、蝶のような形のすいとん「チュダギ」が浮かんでいるもの。ここの家の小さな男の子が、「チュダギ」を作るのが上手でね。小さな手で、麺棒で生地を伸ばして、蝶々型にしていくの。これを、ほのかなカレー風味のシチューのようなものに入れて煮込みます。モチモチとしているので美味しいけれど、味がすごく薄くてね。でもおかわりまではできなかったかな。夕食はこれとチャパティ、大麦を仕込んで作る酒のみでした。

「チュダギ」作りが上手な子供(荻野恭子提供)
「チュタギ」を薄いカレー味のシチューに加えて煮込んだものが夕食だった(荻野恭子提供)
どこの家でも貯蔵部屋に常温で食材を置いてあるだけの保存方法。肉などは自然と干し肉になっていた(荻野恭子提供)

●暗闇の中のトイレは難しい

村には水道が引かれておらず、水がない場合は汲みにいかなくてはならないのですが、ここの家は崖の下の清水まで歩いて10分もかかるところに建っていて、水をくみに行くのも、汲んでくるのも本当に大変。トイレだって、小さな穴の中にするのですが、夜は電気もないのでヘッドライトをつけて、変な話ですがとっても難しいの。あとで全て畑に撒くため、紙も使ってはならない。でも、ゴミを出さない暮らしなのよね。

家は、崖の上のようなところに建っていました(荻野恭子提供)

●食器を洗う水がない時はどうするか

そんなわけで、水がないので食事の後は食器が洗えません。ドラム缶のようなものの中にいつも水は少しはあり、汲んできては入れているようでした。標高3000〜4000mの所にある岩を掘って家にしているわけですから、皿にこびりついたものをいちいち下まで持って行って洗うわけにもいかないわけ。

それじゃあどうするのかなあと夕食を食べながら思っていたら、家族全員が食べ終えた皿をペロペロ舐め始めたのです。これにはびっくりしました。食器はステンレスが主なのですが、それでシチューのようなものを食べたあとで洗うとなると、カピカピに乾いて汚れが落ちにくくなるでしょう。きれいにするには相当な時間、水につけなくてはならないですね。それなら舐めておいて、きれいにしたものをサッと清水で洗う方が楽は楽ね。私なんかは、「舐めずにチャパティで拭いたらいいのに」と思うわけですけど、それは習慣だからもう変えようがないのです。

でも、よく考えたら確かに理にかなっているよなぁ~と思いました。そして、水道の蛇口をひねればいつでも水が出て、それが美味しく飲める。自分の暮らしがなんと恵まれていることに感謝しました。

家族が舐めて綺麗にしていた夕食の皿(荻野恭子提供)