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女性アーティストが考える「理想の性器」 新たな愛のカタチとは?

アートから世界を読む
遠藤麻衣 百瀬文《Love Condition》2020

鮮やかな黄色を背景に粘土をこねる2人の手が画面に映し出される。それぞれの爪に施されたピンクと薄緑色のマニキュアが印象的だ。女性たちがおしゃべりしながら手を動かし、作っているのは「理想の性器」。アーティストの遠藤麻衣と百瀬文による二人展は、身体と語りを通して新たな性のあり方を探るプロジェクトである。

遠藤麻衣は、自らの身体を使うパフォーマンスや演劇、映像などの手法を用いて、社会の決まりごとに対して疑問を投げかける。《アイ・アム・ノット・フェミニスト!》(2017)では、民法に定められた結婚の規定を分析し、その男女不平等や排他性を解消するべく独自の婚姻契約を夫と交わし、自らの結婚式をパフォーマンスとして行った。

遠藤麻衣《アイ・アム・ノット・フェミニスト!》(2017)
遠藤麻衣《アイ・アム・ノット・フェミニスト!》(2017)

以前紹介した百瀬文は、映像という装置の特質を巧みに操作しながら、コミュニケーションによって生じる誤解や分断、主体と客体の境界の曖昧さを表す作品を制作している。

百瀬文《Jokanaan》(2019)
百瀬文《Jokanaan》(2019)

この2人が「真剣に」遊びながら共作した映像作品《Love Condition》(2020)は、痛快かつ考えさせられる内容だった。2人は粘土で男性器と女性器らしき形を作る。しかしこの「男性器」は着脱可能で、それ自体に意志や感度があって時々「持ち主」の身体を離れるらしい。そこに目や髪をつけたらどうだろう、恥ずかしさが消えて隠す必要がなくなるのではないかと話は発展する。やがて挿入という行為の「暴力性」への疑問に話はおよび、触手のような細長く複数の突起物が互いの先端に触れ合う形が提案される。さらに、皮状のものが包みあって風になびく、溝の間を玉が転がって往来する、複数間での交感など、性器や快楽に関するさまざまな案が生まれる。

一方「繁殖」の機能については、卵で産む、自家受粉、あるいは発情期になると男性の身体にも子宮が生じる「オメガバース」の世界のように、性別に関係なく妊娠出産が可能なケースなどが語られる。途中で性別が変わることもアリだ。

《新水晶宮》2020
《新水晶宮》2020

2人が思いつくままに粘土は崩され、次々と新たな形が現れる。手を動かして作っては壊すという、子供の頃に誰もが体験した無邪気な楽しさの感覚が伝わってくる。つい笑ってしまう突飛な会話と変幻するプリミティブな造形は、見る人を1時間を超える長尺の映像に引きつけるに十分な魅力を持っている。同時にこのきわめて純粋無垢な動きと形、彼女たちの直感的かつ深淵な言葉の応酬から、性の無限の可能性が軽やかに浮かび上がってくるのだ。会話の中の、しみわたる、高まる、守る、シェアするなどの言葉も心地よい。

いつの間にか男女の区別は消えている。性器が全体の「部分」でしかないという概念や、脳が上位で性器は下位というヒエラルキーもない。人間と非人間の差も存在しない。どこかほのぼのとした、穏やかなインターコース(交わり)のバリエーションに関する遠藤たちの提案を前にした時、性にまとわりついたステレオタイプなイメージは薄れていく。

映像の最後に会話は消え、2人は粘土をこねながら互いの手を密着させ、擦りあわせ、指を絡ませる。粘土にまみれた手の動きによって生じる粘膜が触れるような音に、2人の微かな笑い声が混じる。親密でエロティックなラブシーンは、ジェンダーや身体や種の境界を超えた愛のありようを感じさせる。

《Love Condition》2020
《Love Condition》2020

これまで当たり前に思っていた人と人との関係性の常識が突如として崩れたコロナ禍において、新たな関わりの可能性を提示する例として、遠藤と百瀬の作品はリアリティをもって訴えかけてくる。

「新水晶宮」展示風景《Love Conditioon》(左)のバックに流れる映像《Love Condition ll》には、遠藤と百瀬が扮する原始的な形の生物がうごめき、互いにコミュニケーションを試みる様子が映っている。
「新水晶宮」展示風景《Love Conditioon》(左)のバックに流れる映像《Love Condition ll》には、遠藤と百瀬が扮する原始的な形の生物がうごめき、互いにコミュニケーションを試みる様子が映っている。

展覧会情報

遠藤麻衣 × 百瀬文「新水晶宮」
2020年7月4日~8月2日(月・火曜日、祝日休み)
東京・目白タリオンギャラリー

遠藤さんと百瀬さんの次回展覧会

「彼女たちは歌う」
11人の女性アーティストによる展覧会に遠藤と百瀬が出品します
2020年8月18日~9月6日(月曜日休み)
東京・上野 東京藝術大学美術館陳列館