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コロナ禍の世界を食で助けるアメリカンヒーロー、ホセ・アンドレス

サンフランシスコ 美味しいフード&ライフスタイル
WCKから食事を受け取った最前線の医療従事者©WCK

ロックダウン3ヶ月目となるサンフランシスコの住宅街では、毎夜7時になるとバルコニーやポーチに人が出てきて拍手や太鼓の音、声援を響かせる。これは、医療従事者や警察官、食料品店員など「エッセンシャルビジネス」と言われる仕事に従事する人達への感謝の表現だ。しかし実際には飲食店は閉店、食料品店にも行けない人たちも少なくない。そんなコロナ禍に、「食で人々を救う」ヒーローが立ち上がった。

COVID-19 と戦う移動キッチンーーWCK

そのヒーローは、ワールドセントラルキッチン(WCK)のリーダー、ホセ・アンドレスだ。感染ホットスポットの最前線でマスクに手袋、時には防護服を纏い、まともな食事が届かない人々に食事を供給している。ホセが2010年に設立したNPO(非営利団体)WCKは、世界の災害被災地で食事を供給するボランティア団体として発足。この10年、あらゆる被災地で食の救済活動を遂行している。今年に入りコロナ感染が世界に拡大すると、COVID-19と戦うボランティア集団として立ち上がった。米国ではこれまで30州、200都市に650万食の温かい食事を無償提供している。

ニューヨーク州では150万食の食事を配った©WCK

ホセ・アンドレスとは一体何者なのか。キャンプ用ベストに無精髭、一見、山男にも見えるこのおじさん、実はアメリカでは言わずと知れたセレブシェフ。「分子ガストロノミー料理」(美食学と美味しさを物理的、化学的に解析した料理)をアメリカで開花させた一人者でもある。現在、ワシントンDCを拠点に、ミシュラン星付きを含む27軒のレストランを展開し、これまで数々の賞を受賞している。

ホセは、COVID-19感染拡大前は、災害が起こった被災地に食を届けるため、世界中を飛び回っていた。WCKを簡単に説明すれば、いわゆる「炊き出しチーム」。運営は全て寄付とボランティアで成り立っている。しかしその規模は半端でない。寄付者、生産者、卸業者、レストラン、フードバンク、ボランティアで編成され、ピーク時には45,000人規模のボランティアが世界に派遣される最強の食の救済チームだ。しかも、炊き出しといえども、トップシェフが取り仕切る料理はサステイナブルで美味しいと絶賛されている。

Time の表紙を飾るヒーロー、ホセ・アンドレス

即チームを結成し即現場に向かう

2月初頭、新型コロナ感染がアジアを襲い始めた時、WCKがいち早く駆けつけた現場は日本だった。横浜港に停泊したクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」のコロナ対応に日本政府が右往左往していた時、さっと登場し、閉じ込められた乗客乗務員に、6日間にわたり温かい食事を提供した。

3月に入りアメリカで感染拡大が一気に広がると、「Chef for America」(アメリカの為のシェフ)緊急チームを立ち上げ、全米各地のホットスポットに飛んだ。最前線の医療従事者からホームレスシェルターまで人種や立場を問わず、食事が届かない人、おなかを空かせている人に650万食以上の食事を供給した。また、ホセの出身国であるスペインには「Chef for Spain」チームを派遣し、故郷の人々を救済した。

アメリカ全土のロックダウンにより、飲食店は閉店を余儀なくされたが、ホセのレストランも例外ではない。ホセは自分の店を「コミュニティーキッチン」と名乗り、食事を作って地元の人に無償配布している。

どんな被災地でも人間として対等に接するホセには多くの協力者が集まる©WCK

ホセが懸念しているのは外食サプライチェーンの破壊だ。飲食店や学校、ケータリングビジネスに行くはずだった牛乳や野菜などの食材が大量破棄されているのだ。ホセは他のレストランからまとまった食事を購入し、デリバリー会社や「フードバンク」(廃棄用の食材ハブ)と協力しながら、食材の廃棄救済を図っている。それでも流通網に乗り切れないジレンマがある。

さらに行き場を失ったレストランの従業員達を、レストランが再開するまでの間、WCKで雇用する事で一部の従業員を救済している。ホセの活動に協力するレストランは400軒以上もある。移動キッチンには、現地のレストランや今は使用していないスポーツ会場などを利用している。

救済は国境、人種、格差を越えて「困っている人に食を与える」©WCK

世界に広がる「ヒューマニティー」精神の連鎖

スペイン出身のホセは若かりし頃、バルセロナ郊外にあった伝説の分子ガストロノミーレストラン「エル・ブジ」(現在は閉店)で修行をしている。米国に移住したのは21歳の時。ポケットにはたったの$50しかない状況からトップシェフへと駆け上がっていった。高級レストランに勤めながら次第にスペイン生まれの分子ガストロノミー料理のシェフとして頭角を表していく。ホセが2003年にオープンした「ミニバー」はクリエイティブで斬新なコースメニューが称賛され、ホセのスタイルはアーバンダイニングのトレンドともなった。

トレンディな街に点在するホセのレストランはどこもスタイリッシュでセレブの御用達となっている。幸運にも私はロサンゼルスで話題の 「The Bazaar」で食事をした事がある。周りの客は皆ハリウッドスター顔負けのおしゃれな装いで華やかだった。そんな表舞台とは裏腹にホセは誰とでも対等で気さくな人柄だった。

一方で、権力にひれ伏さず頑固なホセは2016年、ある事件を引き起こしている。トランプ大統領の民族差別的発言に激怒し、トランプ氏が所有するホテルへの出店契約を破棄し、裁判にまで発展している(後和解が成立)。

ホセのボランティアリーダーとしての信頼は厚い

ホセのボランティア精神に火がついたのは2010年、ハイチの大地震の際、災害地の炊き出しに参加したのがきっかけだった。「人を食で救いたい」という夢は膨らみ、後にWCKを設立した。

現在WCKは、ハリウッドのセレブから政財界まで各界著名人からの寄付で運営され、世界から若きボランティア達が集まる。募集はアメリカ、そして各被災地で随時行われる。彼らにとってもトップシェフとの活動は大きなモチベーションとなっているようだ。

2019年度のノーベル平和賞にノミネート

2017年、プエルトリコの地震災害の救済は厳しいものだったが、一年間で300万食を現地の人を届けた。被災地で学んだスピーディーに配膳する方法の「システム化」が今の救済活動につながっているとCBSのインタビューで答えている。2019年の米国の政府機関閉鎖時には、連邦政府職員に毎日1万食を届けた。またCOVID-19感染拡大前はオーストラリア森林火災の被災地で救済活動をしていた。「今必要な人に即座に食を届ける」ーーこれがWCKのミッション。その「今」を可能にしていのは、政治や国境を超えたメッセージ、「ヒューマニティー」だからなのだろう。WCKの活動は世界から称賛され、2018年にノーベル平和賞にノミネートされている。

トップシェフが仕切る暖かい食事は人々に笑顔を与える©WCK

アフターコロナの「より良い世界」を目指し突き進む

サンフランシスコは不安で先が見えないロックダウン、外出規制から2ヶ月半が経ち、ようやく長い長いトンネルの向こうに光が見えてきたようだ。厳しい条件付きではあるが、街は再始動のムードが高まっている。私達はこの期間、人と一緒に食事をする事がどれだけ人生に喜びを与えるかを学んだ。

ホセは50歳になる今も尚、熱意とエネルギーは劣っていない。人道主義のリーダー、政治にモノ申す活動家、そして世界のトップシェフ。食難あれば「タッチアンドゴー」でどこへでも飛んでいく。世界中が苦難を強いられているコロナ禍だからこそ、生きる喜びである「食」を世界の人と共有するべきと呼びかけている。

無精髭を伸ばし、ベースボールキャップにマスクやゴム手袋を付け、汗だくで炊き出しをするホセはまるで戦場の最前線を突き進む戦士のようだ。そこには名声や金欲などない、真のヒーローの姿があった。

「今困っている人にスピーディーに食事を届けることが大切」©WCK

WCK 情報データ