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カリフォルニア屈指の農場直結レストラン ートップシェフと畑の関係ー

サンフランシスコ 美味しいフード&ライフスタイル
「Manresa」で供された収穫したばかりの野菜プレート。まるで大地を想像させるようなプレゼンテーションだ=関根絵里撮影
「Manresa」で供された収穫したばかりの野菜プレート。まるで大地を想像させるようなプレゼンテーションだ=関根絵里撮影

米国で最も畑とキッチンが近いと言われるカリフォルニア州。その中でもサンフランシスコは、オーガニック文化発祥の地ならではの食材にこだわる美味しいレストランで溢れている。恵まれた食材環境に全米、世界からトップシェフが集まり、インターナショナルで創造的なメニューを創出し、私達の生活を豊かにしている。最近の潮流では、自社オーガニック農園や地元農家から調達した朝採れ野菜をその日のうちにメニューに載せて調理する究極の「ファームトゥーテーブル」系レストランの人気が加熱している。

幸運にも私はその多くのレストランに行っている。そこでいつも感じるのは、星付きでも星付きで無くても、素晴らしいと思えるレストランはシェフ次第。ミシュランの査定では計れない「地元ライフ」やシェフのスピリットがそこに隠れている。

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木漏れ日とガーデンとレンガ色のタイルが癒しをもたらす「Manresa」のエントランス=関根絵里撮影

数あるレストランの中でも最も好きな、そして対照的な2軒のオーナーシェフがいる。両者は偶然にも同じニューオリンズ育ちで同時期にニューヨークでカリナリー(料理界)経験を積んだ後、サンフランシスコ、ベイエリアへ移住している。料理に対する熱い想いは同じながら、二人は全く異なる道を選んだ。一方はミシュラン三つ星、世界トップレストラン50にもランクインするスターシェフ。もう一方は田舎の片隅にある目立たないレストランで地元に愛される無冠のシェフ。それぞれの価値観で自己のライフスタイルを貫いている。

サンフランシスコ郊外、ロスガトス地区にあるミシュラン三つ星店「Manresa」は、そのエレガントな店作りと芸術的なメニューで客を魅了している。オーナーシェフ、David Kinchは、世界各国を旅し料理文化や技術を習得。無国籍で創造的なメニューには日本の発酵技術や食材もふんだんに含まれている。Manresa をワールドクラスのレストランに押し上げたのは、長年シェフとタッグを組んできたオーガニック農園、バイオダイナミック農法の「Love Apple Farm」だ。世界でも稀に見る多品種の野菜を揃えた広大な農園で、特に高品質のトマト栽培が有名。Kinch氏は「季節と地域がもたらした最良の産物を最高の調理で表現したい」と語っている。

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優しい光が差し込む「Manresa」の洗練されたダイニングルーム=関根絵里撮影

「Manresa」のメニューは日替わりのコース料理のみ。12皿から14皿のコースは、季節の食材を使った美しい創作料理で驚きの連続だ。食事時間は3時間から5時間という、「食べる」より「エクスペリエンス」と呼ぶべき五感を楽しませる内容。現在「Love Apple Farm」は地域活動に専念しているため食材は提供していないが、David は地元の有機農家を支援しながら、洗練したメニューを創出している。

Kinch氏は、トップシェフでありながらサーフィン好きでも知られる。サンタクルーズというサーフィンで有名な海岸近くを拠点とするのも自己のライススタイルを確立する上で必要条件。また、自然との共存、海でのアクティビティを通じてニューの発想が鮮明になるという。「Manresa」は、サンフランシスコ市内から車で1時間半という距離であるのに、世界から訪れる客で毎日予約が埋まっている。

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まるで絵を描くように彩りにアクセントをつけるKinch氏の創作プレート=関根絵里撮影
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「Manresa」の陶器コレクションはバラエティで国際色豊か。この器はひらがなが書かれている=関根絵里撮影

一方、無冠のトップシェフ、トニーに出会ったのは2014年。究極のファームトゥーテーブルを探して取材中、田舎町で名前も聞いたことがないレストラン「Central Market」に行き着いた時だった。入り口にイキイキとした動物や農園の写真があり、心を掴まれた。早速オーナーシェフに連絡をすると、いきなり畑に招いてくれた。畑には野菜の他、豚や鶏も飼育され、それらもオーガニックの餌を食べていた。更に驚きだったのは、彼もまたその農園内に住み、鶏や豚と暮らしていた事だ。「オーガニック食材は料理の基本。でも僕は米国農務省のオーガニック認証は自慢する場所もないし必要ない。だってこの畑の作物は全て僕のレストランで使用してるからさ」。畜産農家でありながら2羽の鶏はペットとして可愛がっているという。その大きな体格からか暖かい人間性を感じた。

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「Central Market」の農場。鶏が放し飼いでオーガニックの餌を食べている=関根絵里撮影

トニーはイタリア系農家の両親の元に育ったこともあり、食材に関しては妥協しない。NYでは有名なレストランの料理長を勤め、サンフランシスコに来てからも有名店のシェフとしてのオファーがあったが断った。理想の畑を探しサンフランシスコ郊外にオーガニック畜産農業で有名なぺテルマ地区を拠点と定めた。「雇われるより良い畑と店を持ちたかった」。彼はまさに職人気質。農家であり、精肉加工者、シェフ、そしてレストラン経営者という、種からプレートまでを一人で完結する“わがままシェフ”である。

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マイクロベジまで畑の野菜は全てレストランで消費される=関根絵里撮影

「オーガニック認証の取得料に大金を払うより、お客さんに美味しいものを安く提供したい」。それが彼のスタイルなのだ。メニューにはトニーが育てた「豚のポークチョップ」やチキン,ダックグリルなど、聞けばすぐにイメージできるものばかり。プリパレーション料理(繊細で美しい皿)が多いサンフランシスコのレストランに比べ、ダイナミックで香ばしい肉料理とトニーの野菜メニューが手頃な値段で並ぶ。

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「Central Market」の一皿。新鮮な朝摘みの野菜と根菜が彩り良く盛られる=関根絵里撮影
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トニーの豚料理はダイナミックでジューシー。ストレートな豚の味わいが楽しめる=関根絵里撮影

サンフランシスコではレストランの名前さえ知られてないが、地元では大人気。常連客ばかりが開店前から列を作っている。店には「洗練」と呼べるものは何もない。メニューにもオーガニック野菜やバイオダイナミック農法など一切表示されていない。しかしここには、飾らない「リアルフード」と「リアルピープル」がある。究極のファームトゥテーブル、地産地消を店を起点に町全体を巻き込みながら実践しているのだ。

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「Central Market」の外観。周りはまったりした田舎の風景だが、5時になると地元の常連客が集まりだす=関根絵里撮影

カリフォルニア州には良い気候と海と山の恵み、更にはワールドクラスのワインの生産地があり、シェフ達の夢を叶える環境が揃っている。日本で「トップシェフ」と聞くと「激務」のイメージが強いが、カリフォルニアのシェフたちは厨房と畑、自分の趣味の時間をバランスよく配分しそれぞれのライフスタイルを形作っている。その為、シェフ達の個性や生き方が料理にも反映し、レストランの多様性を育み、豊かな食文化を形成している。ここには行くべきレストランが多すぎる。

Manresa https://www.manresarestaurant.com/

 Central Market https://www.centralmarketpetaluma.com/