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ロシアは少なくともあと2年は財政破綻しない

迷宮ロシアをさまよう
新型コロナウイルスの渦中にあるロシア南部ダゲスタン共和国の当局者や市民代表とのビデオ会議に参加するプーチン大統領=2020年5月18日、モスクワ郊外、ロイター

タス通信がまとめた2020年のロシア経済予測

新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、世界の主要国と同じように、2020年にロシアの経済成長率がマイナスに陥ることは、確実と見られています。

最新の情報として、ロシアのタス通信が国内の主な格付け機関および銀行調査部にアンケートをとり、それを平均して「コンセンサス予測」を発表したので、それを見てみましょう。2020年のGDP成長率に関する各機関の予測は、下図のようになりました。マイナス4%から5%台の予測を示したところが多かった中で、アルファバンクだけはマイナス1.0%という比較的軽い落ち込みを予想しています。平均値はマイナス4.1%であり、今のところこれが現地でのコンセンサス予測ということになります。

最も軽微な落ち込みを予測したアルファバンクでは、確かに4~6月期の落ち込みは年率換算でマイナス6%に及ぶけれど、経済活動が7月以降正常なレベルに戻るという前提で、通年ではマイナス1%に収まると解説しています。

ちなみに、その他の指標についてのコンセンサス予測は、2020年のインフレ率が3.9%、2020年末時点の為替レートが1ドル=70ルーブルとなっています。

さらに、マイナス成長は2020年までであり、2021年になると再びプラスに転じるという見方が示されています。2021年についてのコンセンサス予測は、経済成長率はプラス2.7%、インフレ率は3.7%、年末時点の為替は1ドル=70ルーブルのレベルで前年と変わらず、となっています。

ところで、ロシア経済についての情報を収集していると、現在ロシアは主として、かなり方向性の異なる2つの危機対策を迫られているのではないかとの印象を強くします。戦争で言うところの「二正面作戦」を強いられているかのようです。第1に中小企業・雇用・所得などの問題であり、第2に石油市場のかつてない低迷による財政への影響です。もちろん、噴出している問題は他にも色々あるものの、主にその2つの柱に整理できるのではないかと思います。以下で、それぞれの問題について検討してみることにします。

特に打撃を受けている部門

ロシア政府は、新型コロナウイルスのパンデミックによる打撃を特に受けた経済部門を指定し、それらの部門への支援に乗り出そうとしています。4月18日の政府決定によるそのリストは、次のようになっています。

  • 航空部門
  • 文化・娯楽産業
  • スポーツ・フィットネス産業
  • 観光産業
  • ホテル業
  • 外食産業
  • 学習塾・社会人教育等
  • 会議・見本市
  • 生活関連サービス(家電修理、クリーニング、理容業)
  • 歯科医療
  • 小売業(自動車、家電、情報・通信機器販売、衣料等)

コロナ危機で被害を受ける産業は、どの国もだいたい同じであり、ヒトの移動や接触にかかわる分野です。また、小売業は、基礎食品の販売は影響を受けにくいものの、緊急性の低い耐久消費財や衣料品が大打撃を受けます。上で見るロシア政府の指定分野も、まさにそのパターンとなっています。これらの業種は、外国との人の行き来や市民の外出制限が解除されない限り、需要は回復しません。危機を脱するまで、政府の支援策で延命するしかありません。

逆に、コロナ危機によってビジネスチャンスを掴むのは、ヒトの移動や接触を回避することを可能にするネットを活用した新サービスということになります。あるまとめによりますと、具体的には、食材・料理のデリバリーサービス、オンライン教育、ネット通販、オンライン診療、ZoomやTeamsを利用した遠隔会議、サイバーセキュリティ、インターネットバンキングなどの分野が、ロシアでも急激に伸びているということです。

ロシアでも、航空産業はコロナ危機で最も打撃を受けている業界の一つ。以前の賑わいが戻るのは、いつになるのか(撮影:服部倫卓)

さて、上掲のロシア政府指定によるコロナ被害産業を見ると、航空会社や自動車・家電販売店は大企業の場合が多いですけれど、それ以外は中小企業や個人事業主の比率が大きい分野と言えそうです。ロシアにおいて、中小企業によるサービス産業は、決して経済全体を牽引するような強力な存在ではありませんが、雇用の受け皿としては重要です。ロシアにおける就労人口7,200万人のうち、ある程度大きな企業の社員や公務員は3,200万人程度であり、残りの4,000万人は中小企業に勤めるか、個人事業主として働いています。今回のコロナ危機は、零細な企業や事業主を直撃する形となり、ロシア国民の雇用と所得が脅かされているわけです。

実は、ロシアでは過去の経済危機では、雇用にあまり影響が出ませんでした。また、当国では中小企業支援のノウハウがあまり蓄積されていないと指摘されています。連邦政府は中小企業支援の政策を発表はしているのですけれど、どこまできめ細かい措置が講じられるかというと、なかなか難しい面がありそうです。

石油と財政

ロシア経済の屋台骨を支えるのは、石油と天然ガスの輸出です。ロシアは連邦予算の歳入の半分近くを、石油・ガス関連の収入で賄っている国。2020年に入り、コロナ危機で世界的にエネルギー需要が低下し、一時期のOPEC+の減産協議不調もあり、石油価格が暴落しました。このことは当然、産油国ロシアにとって痛手であり、財政を厳しくします。

ロシアの事情をあまり良くご存知でない論客の中には、「油価下落でロシアが破綻寸前」といった短絡的なことを述べる向きもありました。しかし、実際には、ロシアの財政には一定のバッファーがあり、今すぐにどうこうなるわけではありません。

ロシアでは、石油価格の一定の基準を設け、油価がその基準を上回り発生した追加的な石油・ガス収入は、一般会計ではなく「国民福祉基金」に自動的に繰り入れるという方式が確立されています(これを「財政ルール」と呼ぶ)。逆に、油価が基準を下回り、予算に計上されていた石油・ガス収入が確保できなかった場合には、不足分が国民福祉基金から補填され、歳入欠陥が生じないようになっているのです。

ロシアの財政問題のエキスパートであるYe.グルビッチ氏によれば、石油・ガス収入の低下によって2020年、2021年に穴埋めしなければならない金額はそれぞれ3兆ルーブルであり、これはGDP比2.8%。それに対し、現時点で国民福祉基金の残高は、GDPの8%相当はある。したがって、現在のような油価が下落した状態が2年続いても、ロシアは国民福祉基金の資金を投入し余力を持って乗り切ることができるといのが、グルビッチ氏の解説です。

ただし、グルビッチ氏は、今回のコロナ危機の特徴として、石油・ガス以外の歳入減も生じるということを指摘しています。同氏のグループの試算によれば、2020年と2021年の非石油・ガス歳入の低下は、連邦財政ではGDPの0.8~1.0%、社会保障基金では0.6%、地域財政では1.8~1.9%に上るということです。合計すれば、GDPの3%強の国家歳入不足は、どうしても生じるというわけです。

これについてグルビッチ氏は、「理論的に行って、これらの歳入減を補うのは、国債の増発である。しかしながら、危機の渦中では、ロシアの銀行が国債を買い入れる可能性は限定される。ロシアの預金者は収入減で貯蓄を切り崩すだろうし、銀行の不良債権も増えるからだ。外国人投資家は、危機の予兆を察知すると、新興国市場から資金を引き揚げる。したがって、ロシア中銀が国債を買い上げ、増刷によって政府に資金供給をすべきだ。こうした慣行は国際的にも行われているものであり、考えられるマイナスよりも利点の方がはるかに大きい」と論じています。

以前この連載では、「ロシアが超健全な金融・財政政策を続けるただ一つの理由」というコラムをお届けしました。今般のコロナ危機と石油暴落が意味するのは、「さすがのロシアも、これまでのような優等生的な金融・財政政策は続けられなくなるかもしれない」ということです。ただちに財政破綻するとか、そういったことではありません。