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ロシアでも浮上した統計忖度疑惑 「プーチノミクス」の虚と実

迷宮ロシアをさまよう
ロシア連邦国家統計局の本部。まさか、この内部で、統計データの改竄が?(撮影:服部倫卓)

日本とロシア、それぞれの統計騒動

日本では、雇用・賃金統計、そして根幹的なデータである国内総生産(GDP)の統計をめぐって、紛糾が続いていますね。一部の論者からは、「アベノミクスの効果を強調するために、官僚が忖度(そんたく)して、意図的に統計データを操作したのではないか?」といった指摘や、さらには、「安倍政権が統計の改竄を仕向けたのではないか?」といった疑念も寄せられています。筆者自身はこの問題について自分で判断するだけの知見は持ち合わせていませんので、議論の行方を見守りたいと思います。

今回ご紹介したいのは、実はロシアでも最近、GDP統計が物議を醸しているという話題です。2018年のGDP速報値として、2.3%という不自然に高い数値が唐突に発表されたことから、ロシアの経済専門家の間で大騒ぎになりました。そして、この問題は「プーチノミクス」、つまりプーチン政権の経済政策路線の成否に直結する事柄なのです。

なお、本コラムのタイトルは、一般の読者に分かりやすいように、「アベノミクス」をもじって、「プーチノミクス」としてあります。しかし、正しくはロシア語ではプーチン政権の経済政策路線のことを「プーチノミカ」と呼びますので、お断りしておきます。ついでに言えば、「アベノミクス」をロシア語で言うと、「アベノミカ」になります。

世界平均を上回るという目標

今日のロシアで、あらゆる政策の出発点となっているのが、プーチン大統領が四期目の任期をスタートさせた当日の2018年5月7日に発令した大統領令「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」です(ロシアで頻繁に耳にする「5月大統領令」というのはこれのこと)。この中でプーチン大統領は経済に関しては、「世界平均を上回るテンポで経済を成長させる」という課題を設定しています。

それでは、世界平均の経済成長率と、ロシアの成長率は、実際にはどうなっているでしょうか? それをまとめたのが上の図です。世界経済の成長率は、国際通貨基金(IMF)はやや高目に、世界銀行はやや低目に出す傾向がありますので、それぞれを上限・下限として、ピンク色の帯で示してみました。一方、ロシアの成長率は紺色の折れ線で示してあり、2016~2017年はすでに確定した実績、2018年以降は2018年10月にロシア政府が発表した公式的な経済見通しによる予測値です。

まず目を引くのが、現状でロシアの成長率が世界平均を大きく下回っていることです。2000年代には、ロシアはいわゆるBRICsの一画として、世界の成長をリードする存在になると期待されていました。しかし、2008年のリーマンショック後の時代に、ロシアではすっかり低成長が定着してしまい、2014年以降はウクライナ問題に端を発する地政学危機の重しも加わっています。今日のロシアの潜在成長率は、せいぜい1%台にすぎないのではないかという見方が、ロシア内外の専門家の間で強まっています。

ところが、2018年10月の政府経済見通しは、不自然な二段構えになっています。2019~2020年については現実的で慎重な見通しが示される一方、2021~2024年については「5月大統領令」の諸課題が達成され構造改革が進むことで、経済が上向くという想定になっているのです。現在直面している経済停滞は一時的で、2021年以降は「本来の」軌道である年率3%台に戻るというわけです。

上図に見るとおり、IMFおよび世銀は、世界経済の成長率は今後、概ね3%前後で推移するという見通しを示しています。ということは、ロシアも少なくとも年率3%台の成長に移行しなければ、プーチンが号令をかけた「世界平均を上回る成長」が達成できないことになってしまいます。上図を見ると、まるでその実現がありきであるかのように、現在の苦境さえ乗り切ればロシア経済は自ずと本来の成長を取り戻すはずだと根拠もなく信じられているようであり、希望的観測との印象が否めません。

2.3%成長の驚き

こうした中、ロシア連邦国家統計局は2月4日、2018年のGDP速報値を発表しました。その数字が、2.3%の成長という、大方の予想をかなり上回るものだったため、関係者に驚きが広がりました。

何しろ、2018年1~9月のGDPは前年同期比1.5%増とされていたのに、それがいきなり通年では2.3%増になってしまったわけですから、「10~12月にどれだけ急成長したんだ?」という話です。上図に見るように、2018年10月時点の政府見通しでは、2018年のGDPは1.8%増という予測でした。実は、建設統計の見直しなどを受け、2019年1月末にロシア政府は2018年の成長見通しを1.8%から2.0%に上方修正していたのですが、2月4日に発表された2.3%はそれすらも超えてきたので、大いに物議を醸すことになったわけです。

現地の専門家はGDPサプライズについて様々にコメントしていますが、詳細の分からない現時点では、そうした議論はあまり意味がないかもしれません。そもそも、2.3%という数字はあくまでも第一報の速報値ですので、これから小さからぬ修正が加えられる可能性もあります。

いずれにしても、プーチン大統領は、現在のロシア経済の実力からすると過大と思われる「世界平均を上回る成長」という号令をかけました。これまでロシアでは、公式統計が政権当局の思惑に沿って改変されるといったスキャンダルは、ほとんど聞かれませんでした。しかし、今後は、良好な経済指標が発表されるたびに、「かさ上げではないか」、「統計局の忖度か?」という疑念が生じそうです。

世界の五大経済大国入り

さて、プーチン大統領の「5月大統領」には、「世界平均を上回る成長」に加えて、「ロシアを世界の五大経済大国の一つにする」という目標も掲げられていました。上図に見るとおり、2018年現在、名目GDPで見るとロシアは世界の12位です。これでは、ベスト5入りは難しい目標のように思われ、当初は懐疑的な受け止め方が目立ちました。

しかし、その後プーチン大統領は、世界の五大経済大国入りという目標は、購買力平価ベースのGDPについてであると釈明しました。購買力平価ベースで主要国のGDPを比較したのが下図であり、ロシアは現時点で6位に着けていますので、これならばあながち非現実的な目標でもなさそうです。プーチン大統領も、「購買力平価であれば、我が国はこの目標に実質的に近付いており、以前にベスト5入りしていたこともあった。様々な指標によって下がったり上がったりということはあるが、我が国はベスト5に定着することを目標に据えており、それは実現すると確信している」と述べています。

ただし、その現実味についても、ロシア国内から懐疑的な声が聞かれます。あるエコノミストは、「ロシアが近い将来に直面する課題は、五大経済大国入りを目指すというよりも、インドネシアに抜かれて6位から落ちないようにすることだ」と辛口にコメントしました。実際、2018年の2.3%という速報値の真偽はともかく、ロシアが現在のように世界平均を下回る低成長を続ければ、6位維持もおぼつかないかもしれません。