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コロナ禍で様変わりするラマダン 連帯感をどう高めるか

中東を丸かじり 更新日: 公開日:
食事を共にするサウジアラビア人たち

新型コロナウイルスは、イスラム圏でも感染が拡大し、4月23日に始まったイスラム教のラマダン(断食月)の宗教儀礼に大きな影響を与えている。日の出から日没までの断食というと、過酷で辛いイメージを持つ人が多いかもしれない。が、イスラム世界では共に断食を体験し、親族や友人、知人と一緒に断食明けのイフタール(断食を解く食事)を楽しむ。信徒として連帯感を高める期間だ。だが、今年は密集や密室、密接という「三密」を避けなければならず、ラマダンの風景は様変わりしている。

貧者への施しの集団食も禁止に

エジプトでは、モスク(イスラム礼拝所)の閉鎖が続き、豊かな者が貧しい人々に食事を提供する集団でのイフタールが禁じられた。自分の財産の一部を貧しい人に分け与える「喜捨」は、六信五行の一つであり、豊かな者も断食を通じて食の乏しい辛苦を味わい、貧しい者は、ラマダン期間中に提供される無料の食事で安寧を得る。

ラマダンやその前は、食料や衣料の売り上げが急増する。真新しい装いで親戚宅や友人宅を訪問し、盛大なイフタールを祝うためだ。ところが、あるエジプト人は「家に籠るしかない」と、盛り上がらないラマダンに意気消沈している様子だ。

シリアの首都ダマスカスにあるウマイヤド・モスク

ラマダン期間中は、集団礼拝も盛んになる。ところが、コロナ禍により、これも禁止となった国や地域が大半。7世紀の初めに預言者ムハンマドによって創始されたイスラム教の歴史の中では異例の事態と言える。マレーシアの大学のイスラム研究者は、カタールを拠点とする衛星テレビ局アルジャジーラに対し、「このような事態が起こったのは記憶がない。過去には第2次世界大戦や自然災害があったが、過去の文学や歴史的文献、資料からは、戦争や災害があってもムスリムたちはラマダン期間中に集い、宗教儀礼を共にしてきた」と指摘する。

「アラブの春」の最中に集団礼拝するエジプトのイスラム信徒

宗教儀礼もバーチャル空間に

イスラム圏に10年近く滞在してきた筆者も、何度もイフタールに招かれた。パレスチナに長期滞在していた際には、イスラム教の原理主義的な団体に勧誘されそうになり、その指導者に2日間にわたって活動を拝見させてもらったことがある。この団体は、週に1回はモスクに集まり、集団礼拝後に食事を共にして「イスラムを広めるために家庭や近所から月に10人の新たなメンバーを獲得するよう努めよう」と鼓舞し合っていた。

モスクという密室空間で握手やハグを繰り返し、大皿に盛られた食事を取り分けるというスタイルは、新型コロナウイルスが広がる環境だ。一方、こうした連帯感を確認できないとあっては、イスラムの危機と言える。

欧州諸国にも移民や難民として渡ったイスラム信徒が多くいるが、英国にあるモスクは説教や礼拝風景をインターネットを使ったライブ映像で流し、信徒の連帯感を維持する工夫をしている。新型コロナウイルスの影響で盛り上がらないラマダンになったものの、信仰心を高めたり、断食を通じて貧者の気持ちを理解したりする本来の意義を再確認する機会になったとの前向きな捉え方もある。

地元料理カプサを食べるサウジアラビア人

ラマダン期間中は、盛大な食事が提供されることが多くなるため、フードロスも急増する。このため、「食料の浪費や資源の無駄遣い、どのように必要な人にうまく行き渡るようにするかについて、ムスリムたちは考えなければならない」と指摘する人もいる。

エジプトでは、マハシー(野菜の詰め物料理)、シリアやパレスチナなど地中海東部沿岸地方レバントでは、ひっくり返すという意味を持つマクルーバ(肉やナスのピラフ)など、ラマダン期間中や人が集まる時によく食べられる料理がある。こうした料理がコロナ禍の中、イスラム世界では身近な家族や親族、友人という限られた人数の人々で味わわれることになりそうだ。サウジアラビアに滞在していた日本人は「コロナウイルスの影響で家族中心の生活に人々のライフスタイルが変わってきた。これまでの生活を見直すきっかけになっている」と話している。