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親友のお母さんはトルコ料理チャンピオンだった! <トルコの家庭にホームステイ1>

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。 更新日: 公開日:
トルコの代表的なメイン料理。ぶどうの葉で肉を巻いた「ドルマ」=荻野恭子撮影

◉トルコの青年が我が家にやってきた

私が長年、ロシア語を教えていただいていた先生の紹介で、日本に留学していたトルコ人の大学生、セルダルさんと知り合ったのは2000年頃のことでした。セルダルさんは敬虔なイスラム教徒で、トルコ料理についての知識も豊富な好青年。知り合ってからは、頻繁にわが家に遊びに来ては、一緒にトルコ料理を作ったり、トルコの文化についても話をするようになりました。

ある日、トルコ料理の水餃子、「マントゥ」を一緒に作ることになったのですが、彼が、私の作ったラビオリのような大きな「マントゥ」を見て、「僕のアンネは、1センチくらいの小さいマントゥを作れます。とても上手です」と言うのです。

◉新聞の記事から、イスラム料理に興味を持つ

私がイスラムの料理に興味を持ったのは30年ほど前。イスラム教の教えである断食月、ラマダン(トルコ語ではラマザン)の記事を新聞で読んだのがきっかけです。

その記事によると、「ラマダンとはイスラム暦第9月目に当たる断食月を指し、その間1ヶ月、精神を鍛えるために日の出から日没までの飲食が一切禁じられる。日没後にとる食事をイフタールといい、家族、親戚、友人などが集まって食卓を囲む。生命をつかさどる水、ナツメヤシやオリーブの実を先ず食べ、具沢山のスープ、羊のピラフ、サラダ、パン、菓子、果物、お茶などの美味しそうな料理をみんなで食べる」といった内容のもので、当時はまだ、イスラム料理に関する情報も少なく、実際の様子を紹介した記事を読んで、非常に興味をそそられたのです。

◉セルダルさんの「東京の母親」としてトルコに!

その記事を読んで以後、私は、東京の渋谷にある老舗トルコ料理店のオーナーシェフ、ハシム・ユナルさんを訪ね、彼から料理を学ぶようになりました。セルダルさんに作った、ラビオリのようなマントゥも、ハシムさんに伺ったものでした。

セルダルさんには、帰国される際にはいつか一緒に連れて行って欲しいとお願いをし続け、念願叶ってご実家にホームステイをさせてもらうことになりました。一ヶ月間、有難く「東京の母親」として VIP待遇で迎えて頂きました。セルダルさんの料理上手なアンネにもお会いでき、家庭料理を教えていただくことになり、感無量。思えば叶う、何事も!

アンネの友人が歓迎パーティを開いてくださいました=2000年ごろ、荻野恭子提供

◉セルダルさんの故郷

トルコの国土は日本の2倍ほど。四季もあり、土壌も大変豊かです。食料自給率も100%以上。小麦の原産国でもあり、隣国に様々な農産物の輸出も行なっている農業国です。

日本にも地域性があるように、トルコも内陸と海側とで大きく特性が異なります。地中海側は温暖で、冬も暖かい。イスタンブールなど、ヨーロッパ側は外国人も多く、世界的なリゾートや観光地にもなっています。お金持ちが別荘を持っているのはエーゲ海や地中海に面したところ。夏の間ゆっくり水辺で過ごすための完全なリゾートです。

一方、内陸部はもともと遊牧民が生活していた地域で、アナトリア高原などは、冬は気温がマイナスまで下がります。グルジアやアルメニアに近い、内陸部の地方などをまわると、遊牧民の世界が広がっています。今は農家の人の中には、元は遊牧民だった人も多いですね。

セルダルさんの故郷は、イスタンブールとアンカラの中間ほどに位置する、ボル市という高原の町でした。距離は、イスタンブールから車で3時間くらい。調理師学校があり、「料理の町」としてトルコでは知られているところで、昔はコックさんの修行の場だったそうです。料理上手な人が集まるので、地元の料理コンクールもあり、なんと、セルダルさんのアンネは、何度も優勝したことがあるとのこと。

◉魚を食べるのは海側の人で、内陸は遊牧民文化

私が伺ったのは8月でした。旬を大切にする国なので、例えば、長ネギやキャベツといった、日本では1年中あるような素材に関しても、通年野菜という感覚がなく、四季の料理を網羅することは困難でした。「長ネギは冬のものだから、今はない」という感覚なのです。市場に行ってみても、地中海原産のハーブ類やナス、ズッキーニ、トマト、ピーマン、オクラ、そんなものはたくさんありますけど、かぶ、大根、カリフラワーやブロッコリーといったものは本当に置かれていないのです。

イスタンブールまで行けば外資系のスーパーがありますので、そこそこ扱っています。セルダルさんのお父さんが買ってきてくださったりもしました。

魚も同様でした。例えば、トルコで有名な「イワシのピラフは?」と聞いてみても、「イワシは冬の魚だよ!」といった感じ。魚は、黒海などでも取れますので、イワシやサバ、アジ、鯛、スズキ程度は食べるのですが、トルコ民族はもともと遊牧民ですので、夏はやはり乳製品。そして、ごちそうといえばケバブ。家族で外食といえば焼肉屋さんです。

ですので、魚を食べているのは、よほど海に面している地域に住む人や、外国人などが多いでしょう。そもそも、イスラム教では、鱗のある魚は食べるけれど、甲殻類も食べないのです。結局、首都のアンカラまで、黒海の料理を作っているお店を訪ねて行き、やっとイワシ料理を食べることができました。夏は、特に内陸部では食べることは少なく、もし食べる場合には、淡水魚のニジマスなどをグリルするか揚げるか、オーブンで焼くか、といったところ。生で食べることは、まずありません。

→次回は、5月1日(金)更新予定です。