フィンランドではオート肉
ヘルシンキのスーパーの棚では、オート麦を使用した代替肉がずらりと並んでいる。
スーパーのお弁当コーナーには、キムチと白米のセットがあった。「おいしい」と思いながら食べていると、そぼろだと思っていた肉は、オート肉!もはや、動物性と植物性の肉の違いは、わからない。
スウェーデンからノルウェーへ
ノルウェーに住むポーランド人のカタジェナ・スコルプスカさんは、家族がガンで亡くなってから、健康のために動物性肉の消費を減らそうとしている。物価の高いノルウェーに住んでいると、スウェーデンはまさにお買い物天国。大量の酒・たばこ・肉を求めて、週末に車でドライブに行く人々がいる。彼女は週末に車で1時間かけて国境を越え、植物性肉を大量に買うのだ。
ノルウェーの食文化の発展には、スウェーデン移民も深く関わっている。オスロにある複数の人気ハンバーガー店を経営するのは、スウェーデン人のデニス・エユネブランドさん。
「植物性肉の人気は圧倒的で、特に女性からの支持が高め。スウェーデンのほうが広く普及しているのは、社会カルチャーの違いではなく、人口と市場の大きさの関係でしょう(スウェーデンの人口はノルウェーの2倍)。普及に時間がかかっているだけで、ノルウェーでも同じくらいの人気商品になりますよ」と、売り上げも好調だそうです。
商機となるか、アメリカからのビヨンド・バーガー
ノルウェーのスーパーや飲食店のメニューでは、ビヨンド・ミートの言葉を見ることが多くなった。代替肉の普及に貢献したのは、国外から新しい風をもってくる人々だ。
ノルウェー各地に店舗をもつアメリカからのレストラン「TGIフライデーズ」は、4月から「ビヨンド・バーガー」の販売を開始。
「企業としても動物性肉の代わりを求めていました。お客様からの反応は非常によく、一時は品切れ状態が続いたほどです」とノルウェー支部のオペレーションディレクターであるハルゲイル・イェルトネス氏は取材で答える。
スーパーで「革命を起こす」新しい肉の波
ノルウェーの大手スーパーチェーン「Meny」でも、ずらりと並ぶビヨンド・ミート。他のスーパーでも植物性の肉の品揃えが急増中。
「ビヨンド・ミートの販売を開始したのは今年の春から。イノベーションをリードする企業として、取り扱いを早期に開始することは自然の流れでした」とMeny広報のニーナ・フンネ氏は取材で話す。
「植物性の肉は他にも数年前から販売していましたが、大都市に住む人や若い人から特に人気があります。特に、学生ですね」。
スーパーの顧客の消費行動と意識は、ここ数年で明らかに変化している。2018年だけでも、前年の2倍の量のベジタリアン食品が売れたそうだ。「お客様は、ベジタリアン食品かどうか、食品の健康性、地元の商品か、プラスチック包装は無駄にされていないかどうかを、より気にするようになってきました」とフンネ氏は話す。
若者の間で増加中の「フレキシタリアン」って?
カーボンフットプリント(炭素の足跡)が高いのが、動物性の肉や赤肉。「気候対策のために、肉の消費量を減らそう」という議論は、政治レベルでも活発化している。
従来の肉食生活を好む人と、変化を望む層の対立は熱を帯び続ける一方だ。
市民の消費行動に詳しい、ノルウェーで最大規模の環境団体のひとつである「私たちの手の中にある未来」。10年ほど前に比べて、ノルウェー人の肉の消費量は増加していると、サステイナブルなフード担当者のイングリ・ムッレルさんは語る。
「スーパーが肉の価格を安くしすぎるためです。最近、その傾向はやっと変わりつつあります。2018年の消費者研究所の調査によれば、10人中4人が、肉を食べる量をたまに減らそうとしています。柔軟性ある『フレキシタリアン』になっているということです。特に若い人は、気候への影響を心配して、植物性の食生活に変えることに熱心ですね」。
動物を殺してまで食べる必要性を感じない
オスロに住むノルウェー人のストルム・ルンデさんは、神経科学の研究で病院を訪問して以来、動物性の肉を食べるのをやめて8年目になる。「人間と同じように、動物も痛みを感じます。マウスの脳を開ける実験を見て以来、私は動物の肉を食べることを完全にやめました。肉食はあまりにもひどい痛みをおよぼすだけではなく、地球をも破壊しています」。
筋肉づくりに影響はない
肉の摂取量を減らすと、プロテインのことを気にする人もいるかもしれない。筋肉が自慢のルンデさんだが、動物性の肉を食べていなくとも、なんら不便は感じずに体を鍛えているそうだ。
私は北欧現地での取材を続けているが、肉食に関して言えることがあるとすれば、「動物性肉が主流の時代は終わる」ということだ。肉食からより菜食へ、肉が好きでも、たまには植物性を選ぶ。日本では健康面をベースに普及するかもしれないが、北欧では気候変動と環境への影響と動物愛護が最もよく聞く動機だ。今の子どもや若者が大人になるに従い、その流れはもはや止めることはできなくなるだろう。
Photo&Text: Asaki Abumi