牛のミルクから、植物性ミルクへ。今、北欧のスーパーマーケットや飲食店では、エコなミルクが新しいスタンダードとなってきている。
アーモンドミルクや豆乳などに加えて、人気を集めているのが、オート麦から抽出されたオートミルクだ。
カフェでコーヒーなどを注文する時は、「オートミルク」でお願いすることも可能。
今回はデンマークとスウェーデンを中心に、北欧でのオートミルクの普及状況を探る。
コペンハーゲンにあるカフェ「コーヒー・コレクティブ」で働くバリスタのミルさんによると、5人中1人がオートミルクを選ぶという。
「環境や動物のために、肉がベースの食事回数を減らそうという動きが、大都市を中心に活発化している」と話すミルさん。エコにこだわる人は、コーヒーを飲む時、意識して植物性ミルクを選ぶようになった。
牛がげっぷやおならとして出すメタンガスの量は、気候変動の原因ともなる。
コペンハーゲンにあるカフェ「デモクラティック・コーヒー・バー」(Democratic Coffee Bar)で、オートミルク入りのコーヒーを飲んでいたのは、エリザベスさん。「動物のことを考えて、植物性ミルクを2年前から飲むように。クリーミーな味わいが気に入っています」と話す。
同店では、2人に1人がオートミルクを選ぶ。1日に30リットルのミルクを使うとしたら、多い時には8リットルはオートミルクとなるそうだ。
「この国では、ヴィーガンの人の絶対数が多い。美容や健康を気にして飲む人もいれば、(乳糖をのぞいた)ラクトースフリーだからと選ぶ人もいます」と取材で語るのは、ワールドコーヒーロースティングチャンピオンシップ2018 デンマーク代表の松井宣明さんだ。
舞台をスウェーデンに移そう。
この日、私は北欧の王室や政治、経済界などの有力者が集まる食のカンファレンス「EAT」に来ていた。現場での軽食や飲み物は、環境や気候変動問題に配慮した菜食中心のメニュー。
スウェーデンでオートミルクといえば、「オートリー」(Oatly)というブランドが非常に有名だ。
北欧諸国でのオートミルク普及を大きく進めただけではなく、斬新なデザインパッケージやマーケティング手法も評価されている。
ノルウェーでもそうだが、植物性ミルクの動きは最初から好調だったわけではない。
もちろん、牛乳を売る従来の農家や乳製品会社は、売り上げのライバルとなる可能性のある植物性ミルクを歓迎しなかった。
新聞などでも議論にはなったが、それでも消費者からのニーズの声はやむことはない。牛乳市場の否定ではないが、「ほかの種類のミルクという選択肢があってもいのではないか」と、多様性は少しずつ受け入れられてきた。
今では植物性ミルクにつなげようと、農作物をオート麦などに切り替える農家もでてきている。
環境、動物などに配慮し、食生活を変えようという動きがある時、最初に動く人たちは抵抗にあうことがある。
しかし、私が今まで取材していた限りでは、このような人たちは、特定のフードで市場を独占しようとしているわけではない。消費者が満足できる、「選択肢が増えてほしい」という思いがあるがゆえだ。
「対立」ではなく、環境問題などを改善できる道を探り、「解決策」を提案する。EAT会議には、「農家の人々を、時代の変化のヒーローに」と提案する人もいた。
世界自然保護基金WWFスウェーデンで、持続可能な食の担当者であるアンナ・リチャート氏は、トレンドの理由をこう説明した。
「北欧ではオート麦が栽培されているため認識がもともと高く、豆乳やアーモンドミルクよりもすぐに人気がでました。人間にとって健康的で、同時に自然に負担をかけないエコシステムが、消費者のニーズに合っていたのでしょう」
市民の冷蔵庫の中にも変化が起きている。私が滞在したローニャさんのお宅の冷蔵庫には、オートミルクと牛ミルクが並んでいた。
「牛ミルクはごくごくと飲む用。カフェラテとかお気に入りのドリンクを作る時には、オートミルク。私の職場の冷蔵庫には、ラクトースフリーミルクを含めて、3種類が揃っていますよ」と話す。
私たちの冷蔵庫、スーパーでの買い物、カフェでの注文から、環境問題に対して小さな変化を起こすことは可能だ。ミルクの世界は多様性が増え、ますますおもしろくなってきた。
Photo&Text: Asaki Abumi