フィンランドの高校を取材中、「学食でランチを食べましょうか」と先生と生徒に誘われた。
そこで、仰天したことがふたつ
・学校給食が無料
・肉料理・ベジタリアンに加えて、ヴィーガンが選択可能。ヴィーガンは義務化されたばかり
「子どもたちの育成と教育をサポートするために、無料給食は1943年に法律で制定された
良い学校給食は未来への投資」
Finnish National Board of Education「School meals in Finland」
高校のリーマタイネン先生も、子ども時代を振り返り、「給食が無料は当たり前」という感覚で育ったという。
就学前教育、小学校~高校まで、給食費で心配することはない。
「高い税金が何に使われているか、日常生活で明白に目に見えてわかるシステムですね」と私が言うと、「そうです。誇りをもっています」とほほ笑んだ。
高校生のテルホ・ムティカさん(17)は、この日は授業がなかったが、学校給食だけを食べにやってきたという。「ベジタリアンの友達はたくさんいますよ。今日は学校には食べに来ただけ。食べたら、家に帰って宿題をする」と話す。
北欧の学校では制服がないのが普通なので、みんな私服。この学校では出入りも自由で、他の学校の子どもでも忍び込んで食べることができそうだった。
誰が出入りして給食を食べているかは、特にチェックしていないという。
「給食担当員は生徒の顔を覚えているだろうし、ほかの地域の子どもがたまに給食を食べていても、あまり大きな問題ではない」と先生は話す。
「平等」精神を重んじる北欧では、競争社会であるアジアよりも他人を信頼する傾向が強い。信頼でなりたつ仕組みが、ここにもあった。
お腹が空いた時、給食だけを食べに学校に来てもいい。居場所がある安心感。
保護者の収入や家庭状況にふりまわされることなく、金銭的な心配をせずにご飯を食べて育つ。
日本のように、「給食費未納」がニュースになることはない。心が豊かな人が育ちそうだ。
さらに驚いたのが、給食のバラエティ。ブッフェ形式で好きな食材を、好きな量だけ食べることができるのだが、「肉」に加えて、「ベジタブル」と「ヴィーガン」まであった。
環境問題に配慮して、肉食(特に赤肉)を減らそうという議論が盛んな北欧。
「ベジタブル」メニューの選択があるのは驚かないが、「ヴィーガン」まであるのにはびっくり仰天してしまった。
ヴィーガン・カルチャーがこれほどまで力を発揮しはじめたか、と驚くのは私だけだろか。
自治体エスポー(首都ヘルシンキに隣接)からの指示で、ヴィーガン食の導入は義務なのだという。
体に良い給食は完全無料だが、健康に悪そうなものはメニューにはない。豆乳や様々な種類の牛乳は無料だが、コーヒーは有料、デザートは一切ない。
エスポー市では全学校に「週に1度はベジタリアンのみの日」も義務付けているという(肉はなし)。
ベジタリアン食とヴィーガン食に関しては、大きな都市では同じように導入されており、小さな自治体では場所によって異なる。
エスポー市の食品サービス局のディレクターであるアホラ氏に問い合わせると、次のような回答がきた。
「何を食べたいかの選択の幅を広めてほしいという市民からの声が多かったため、市議会がヴィーガン食の導入を決定しました。ヴィーガン食によって、市はさらなるサステイナブルな発展をとげるでしょう」。
タピオラ高校の給食の責任者であるティーナ・フロンデリウスさん。ヴィーガンは義務化されたので作っているが、意外と利用する生徒は少ないという。
「ヴィーガン食を求めている生徒は『たくさんいる』と聞いていたんです。50~100人はヴィーガン食を選ぶのかしらと思ったら、9人しか食べない。9人!本当に需要があるのかとも思うけれど、これからどんどん増えるのかもしれない。肉メニューを選ぶ生徒は500~700人ほどいるけれど、明らかに肉を好む声は減ってきています。ベジタブルメニューを選ぶ生徒は200人ほどですね」。
エスポー市でのヴィーガン義務化は4月から始まった。食品ロスを減らすために、毎日どのメニューがたくさん食べられたかを記録し、量を調整しているそうだ。ヴィーガンメニューを希望する生徒は事前に申請をする必要がある。
「給食を食べるためだけに、学校に来る生徒は多い」と話すフロンデリウスさん。
それはそうだろう。これだけおいしいメニューを無料で食べることができるなら、私も毎日学校に通う。私たちは2回お代わりをして、お腹いっぱいになった。
「このような形で社会に還元されるなら、高い税金を払うのもありだな」、と思った。給食を食べに、また学校に行きたい。きっと勉強をする集中力も増すだろう。
安心できる、無料の台所。こういう居場所が、忙しく変化する現代社会ではより必要とされるのかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi