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「グリーン過ぎる」音楽フェス 環境をノルウェーで考える

ノルウェー通信

8月6~10日、ノルウェーの首都オスロで、大人気の音楽祭オイヤ(Øya)が開催された。

実は、ここはただの音楽フェスではない。環境や気候変動対策に熱心な、「グリーンなフェス」としても世界的に有名で、自治体から補助金も受け、他国からフェス関係者が視察にも訪れる。

グリーンしすぎて、「ちょっとやりすぎ」、「肉メニューが少なさすぎ」、「環境対策に熱心な特定の政党を連想させる」とまで言われてしまうこともある。

一体、何がすごいのか。5日間、現場で見つけたノルウェー流の取り組みを取材した。

ゴミを減らそう

会場には大きなゴミ箱が目立つ=鐙麻樹撮影

会場のあちらこちらにあるゴミ箱。来場者は、飲み物のコップや生ごみなどを3種類に分別する。

とはいっても、音楽を楽しむことに夢中な人たちの中には、分別までに気が回らない時も。

ごみを分別する若者たち=鐙麻樹撮影

そこで、会場の裏では、10~20代の若者たちによって、さらに細かくゴミの分別がされる。その日のチケットが無料になる代わりに、無償ボランティアとして働く。

様々な種類のごみを手際よく分別していく=鐙麻樹撮影

さらに、会場では、来場者が地面に捨てるゴミなどを若者がすぐさま回収。

若者たちがゴミを集めている=鐙麻樹撮影

実は、会場で拾ったゴミは換金することができる(コップ1個が1ノルウェークローネ、約13円)。小さな子どもたちも、コップ、紙、たばこの吸い殻を必死に集める。

ごみを集める子どもたち=鐙麻樹撮影
集めたゴミを見せてもらった=鐙麻樹撮影

ゴミはできるだけなくそうと、音楽祭のプログラムは全てネットやスマホの公式アプリで確認できるようにされている。紙で印刷されたプログラムや企業広告はほとんどない。

スマホの充電ステーション。環境のための寄付を募っていた=鐙麻樹撮影

音楽祭ではSNSで写真をシェアする人も多い。ノルウェー銀行は、スマホの無料充電を提供する代わりに、地元の環境青年団体のための寄付を呼び掛けていた。

フェスの電力は、水力発電による再生可能エネルギーでまかなわれている。この国での電力生産量の約99%は、なんと水力発電だ。

乗り物は電気で、EV先進国ノルウェー

アーティストには、電気自動車EVを使って移動するように推奨。ノルウェーでは、2018年の新車販売台数におけるEVのシャアは26.22%、プラグインハイブリッドが20.38%、ハイブリッドが11.44%、ガソリンが24.22%、ディーゼル車が17.69%を占める。

フェスには自転車や足で来よう

オスロ市議会は、2019年夏までにオスロ中心部を「カーフリー」にすると宣言しており、地上駐車場などを撤去中。EVも含めた車の運転者よりも、交通機関・自転車・徒歩で移動する人々にとってより暮らしやすい街にしようと動いている。

オイヤの来場者にも自転車や公共交通機関を使うように呼びかけている。

たくさんの自転車であふれかえる駐輪場=鐙麻樹撮影

フェスは巨大なトイエン公園を貸し切って行われており、周囲には臨時の自転車置き場がいくつも設置される。自転車置き場や自転車の修理サービスは、無料で提供。天気の良い日には、自転車でくる人が多すぎて、置き場所に困っているほどだ。

フェスで出会ったカールスタさんのご家族。毎年20分かけて、自転車でフェスに来ているそうだ。「子どもも乗れて、便利」という大きなサイズの自転車には9歳の子どもが笑顔で座っていた。

自転車で来場したカールスタさん一家=鐙麻樹撮影

フェスで消費物の74%はリサイクル

ゴミの分別などで、会場で消費される物質の74%は、リサイクルされる。コップやお皿などは、分解され、堆肥にすることが可能なもの。

一見、プラスチックにしか見えない、ビールを入れるコップも、今年から堆肥化できる素材になった。

プラスチックのようだが、生ごみとして捨てられる素材で作られているコップ=鐙麻樹撮影

フードフェスの90%以上がオーガニック

オイヤといえば、おいしいフードフェスが毎年話題となり、地元の新聞社などがこぞってランキング付けをするほどだ。

オスロでも人気のある飲食店が屋台を出すのだが、必ずオーガニック、ヴィーガン、ベジタブルメニューがあり、お皿なども堆肥化できるものであることにこだわっている。

小麦ふすまでできたお皿が使われていた=鐙麻樹撮影

通常は廃棄される小麦ぬか(ふすま)で作られたお皿。生ごみと一緒に捨てることが可能で、実は食べることもできる。

昨年は35トンのオーガニック食材が来場者に提供された。つまり、フードフェスの90%以上がオーガニック!会場の食材の95%を使い切り、食品ロスとならないようにも配慮された。残った食材は、貧困に苦しむ人々に寄付される。

環境についての啓発を目的としたブースも多い=鐙麻樹撮影

「Det finnes ikke søppel mer」=「もう、ゴミなんてない」というメッセージが書かれたポスター。オスロ自治体などによって、様々なブースで環境と気候変動を考える仕組みが施されている。

記念撮影ができるオスロのブース=鐙麻樹撮影

あなたができる、小さな緑の取り組みを宣言しよう。オスロ自治体のブースでは、「野菜を食べる日を増やす」、「ゴミを減らす」など、自分なりの目標を選んで、SNS用に記念撮影できる。

植樹されたリンゴの木=鐙麻樹撮影

自家栽培がトレンドとなってきているオスロ。首都で育った若者たちの中には、自分で野菜を育てるという体験をしていない人も多い。オイヤフェスが2015年に会場に植えた、リンゴの木、いずれは年に200キロのリンゴが採れるようになる。

ファッションもエコで楽しむ、古着最高!

電力、乗り物、フードフェスだけではない、来場者が身に着けるファッションまで、「グリーン」だ。

来場者のフェスファッションをチェックしていると、驚くことに、私が話しかけた方々の8割以上が古着を着ていた。

ノルウェーでは大人気のヴィンテージチェーン店「フレテックス」(FRETEX)も、会場にポップアップストアを出している。

若者たちが続々と出入りして、安い価格で買った古着に、「その場」で着替えて、フェスを楽しむ人も。

会場内に期間限定店舗を開いた古着チェーン店=鐙麻樹撮影

私も実は毎日通い、8点ほど購入してしまった!高級北欧ブランドの昨年のシーズンものが、1点3000円ほどで買えてしまうというサプライズに負ける。

古着店内のお知らせ。洗濯回数を減らすことを呼びかける=鐙麻樹撮影

フレテックス店内のポスターには、「服を洗う回数を減らそう」という文字も。

トイレで用を足したら、再生可能エネルギーがうまれる?

会場にずらっと並ぶトイレ=鐙麻樹撮影

会場に設置された臨時トイレ。トイレから発生する廃熱を熱利用して、周辺地域の建物に循環させ、建物を暖める暖房に利用する(地域熱供給)。

私もトイレに入ると、目の前のドアにフェスからのメッセージが貼られていた。「トイレからの熱はオスロの建物を暖めるために利用されます。こうして私たちは排ガス削減に貢献しています!協力してくれて、ありがとう。『私は再利用エネルギーを作っています』というタグで、インスタグラムでセルフィー写真をシェアしてみてはいかがでしょう。PS トイレの中で撮影しなくてもいいですよ!」

青年環境団体のブース=鐙麻樹撮影

「若者を代表する声」として、ノルウェー国会での議論にも影響を与える青年環境団体のブース

化石燃料の問題を訴えるオブジェ=鐙麻樹撮影

環境に優しいイメージが世界的に浸透している北欧だが、ノルウェーは油田を掘っているため、矛盾が多い国でもある。「オイル」(olje)、「ガス」(gass)と書かれた文字の空き缶で、若者たちは大人たちにメッセージを送る。

手作りバッジのコーナーも=鐙麻樹撮影

いらなくなった漫画や雑誌は、捨てる? 気に入ったページ部分を切り取って、自分だけのバッジにするコーナーも

自転車をこいで発電体験をする子どもたち=鐙麻樹撮影

自転車をこぐことで、自分でどれだけたくさんのエネルギーを作り出すことができるか実験してみよう

プラスチックゴミの問題を表現した作品=鐙麻樹撮影

環境のためにできることを、アートで考えてみる。公園に出現したヘラジカには、人間が捨てたプラスチックやゴミがからまっていた。今、海に捨てられるゴミ問題は、ノルウェーでは大きな注目を集めている。

メッセージが貼り付けられたヘラジカのアート作品=鐙麻樹撮影

環境のために何ができるかな?思いついたことをメモして、ヘラジカに貼る子どもたち。

このようなメモがあった
「車の運転を減らす」、「歩く」
「車の運転をするにしても、それが何を意味するのか、意識的になる」
「早く寝る」、「たくさん寝る」
「消費生活よりも夢中になれるものをみつける=恋愛する」、「誰かに恋をする」

「論より証拠」。どうするべきかと口で議論しつづけるより、行動にうつしてみる。その考え方を地で行くのがオイヤだ。

一方で、課題もある。子どもたちが夏休みのアルバイト感覚でゴミ拾いをしている光景は、「素晴らしい」というだけで片付けていいのだろうか。

そもそも、「ゴミ集めをしている人がいる」と知っているからこそ、ゴミを地面に捨てる大人たちがいる。

大きなゴミ袋を持って会場内を歩く若者=鐙麻樹撮影

酒を飲んで酔っ払った大人が捨てたゴミを、子どもが拾う。来場者に環境意識が必ずしも根付いているというわけでもない。

ゴミが目立つ夜間のフェス会場=鐙麻樹撮影

ボランティアが減る夜には、ゴミが増える。

環境問題において、正しい答えや間違いのない解決方法があれば、誰だって苦労しないだろう。何かをしている人を遠くからみて、自分は何もせずに批判するほど、簡単なことはない。

多くの人が環境を気にかけながらも、新しいことをしようとすると反発にもあいやすいのが、グリーン議論だ。

「こんなことができるのではないか」。試行錯誤しながら取り組むオイヤと、リスクをかけて協力して関わろうとする人々。油田を掘ることはやめられないが、その分できることを、ノルウェーの人々は模索する。

Photo&Text: Asaki Abumi