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ストロー規制を大きく前進させた9歳の統計数字

ニューヨークタイムズ 世界の話題
カラフルな使い捨てのストロー=ロイター。しかし、プラスチックゴミを減らす運動の高まりで、風当たりが強まっている

 米コーヒーチェーン大手のスターバックスやホテル大手のマリオットがプラスチック製ストローを使うのをやめ、米西岸のシアトル市がその使用を禁じるという記事を最近、目にした人も多いだろう。ただ、そこに出てくる驚くべき数字を覚えているだろうか。米国人が使うストローは、1日5億本にもなるという統計だ。

米メディアも、かなり広く引用している。USAトゥデー、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズの各紙に、CNNといった放送局もこの数字を報じている。

その源。実は、9歳の少年が、独自の聞き取り調査ではじき出した推計値なのだ。
米北東部のバーモント州に住むマイロ・クレスが2011年、個人的に環境保護に取り組む中でこの数字をつかんだ。小学校4年生だった。以来、実に長く使われ、プラスチック製ストローをめぐる論議の核心データにもなった。

ストローの使用数を専門的に推計することは難しいが、できないことはない。それをどうやって9歳ではじいたのか。18年7月19日に17歳になったばかりのクレスは、この数字の与えた影響について、「正直言って驚いている」と振り返った。「これといった数字が見当たらなかった。だから、自分で調べてみようと思った。もっとしっかりした調査をもとにした確かな数字があれば、今でも喜んで受け入れたい」

米コーヒーチェーン大手スターバックスのプラスチック製ストロー=2013年7月、米カリフォルニア州パサデナ、ロイター。同社は18年7月、世界の約2万8千店舗で20年までにプラスチック製ストローの使用をやめると発表した

客観的な事実はどうか。結論を先に言うと、「1日5億本」は、専門的な調査に基づく推定範囲をかなり超えている。米市場調査会社2社の数字は、「1日1億7千万本」(Technomic社)と「1日3億9千万本」(Freedonia Group社)。前者の場合は、後述のように特定タイプのストローを数える対象からはずしている。
もちろん、11年にクレスがストローの使用数を調べたときは、こうした調査を利用することはできなかった。「Be Straw Free(ストローなしでいよう)」という運動を始め、レストランには客から言われたときにだけストローを出すように頼んだ。
ネットで調べてみたが、ストローの使用実態を示す数字は見つからなかった。メーカーに、自分で電話して聞くことにした。
「その平均が5億本だった」とクレス。ただし、どうしてその数字になったのか、9歳としては詳しく記録しておくことまでは考えなかったと話す。「あれから数字も変わっているだろうし、少なくなったことを願いたい」
浪費を減らそうという自分の運動は、地元メディアで取り上げられるようになった。すぐに全米の流れに乗り、「5億本」という数字も広まった。

12年には、コロラド州を拠点に環境保護を訴える非営利団体「Eco-Cycle」と協力し合うようになった。米国立公園局の広報活動にも接点が広がり、自らの発信力は急速に膨らんだ。
「5億本」も、広がり続けた。これに押されるように、18年になると大手企業がプラスチック製ストローの使用をとりやめ、地方自治体が禁止に踏み切るようになった。すると、規制を嫌う自由主義的な媒体や保守派の牙城とされるメディアが、数字を精査するようになった。

Eco-Cycleも、独自にこの数字の検証を始めた。しかし、はっきりとした根拠は見つからず、イライラが募るばかりだった。コンサルティング会社が出す調査報告書には有力なデータがありそうだったが、とても高価で手が出なかった。
その一つ、食品市場に特化して調査をしている先のTechnomic社は最近、米国の外食産業では2017年に630億本近いプラスチック製ストローが使われたとする推計を出している。レストランやコーヒーショップ、ファストフードチェーン、コンビニに、病院や老人ホーム、学校のカフェテリアを含めた数字だ。ただし、自宅で使ったり、自動販売機のジュース飲料に付いたりしているものは除いている。同社幹部は、こうした除外分を含めたとしても、1日5億本(訳注=年間1825億本)にはとてもならないと見ている。

もう1社のFreedonia Groupは、さまざまな産業の市場を調査している。こちらがはじいた17年の年間使用数は、はるかに多い1420億本だった。
両社ともに、顧客の経営判断のもとになる数字を提供しているので、正確な分析を極めて重視していると数字には自信を示す。
いずれの推計値も、食品サービス関連製品についての幅広い調査の一部として出てくる。製品がメーカーから消費者にたどり着くまでの供給過程をつぶさに追ったもので、何人もの専門家がチームを組んで何カ月もかけて調べ上げた結果が反映されている。

北米の食品包装・容器業界の団体Foodservice Packaging Institute(FPI)も、使用数についてはこの両社の推計範囲に収まる1日2億5千万本以下としている。
その根拠は明かさないものの、FPIトップのリン・ダイアーは「本数論議に陥って、問題の本質を見失ってはならない」と注意する。「ストローはきちんと廃棄されるべきで、ゴミとして地上に散らかったり、水に漂ったりするようなことがあってはならない。5億本か500本かは、関係ない」
18年秋には高校の最上級生になるクレスも、ゴミになってしまうことと比べれば、正確な本数はさほど重要ではないとこれに同意する。「本当に必要とされているより、はるかに多くが使われている。あげられているどの数字だって、まだまだ大き過ぎる」と言うのだった。(抄訳)

(Niraj Chokshi)©2018 The New York Times

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