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極寒とダイヤと馬文化のサハ共和国ヤクーツク ロシアの街物語(10)

迷宮ロシアをさまよう
ヤクーツクのホテルのロビーに展示されていたマンモス。ただし、スタッフによれば、本物の剥製ではないとのことだった(当たり前か)。(撮影:服部倫卓)

世界最大の地方行政単位!

筆者は先日、ロシアの極東地方に位置するサハ共和国の首都ヤクーツクを訪問してきました。この「ロシアの街物語」のシリーズは、基本的に都市を対象にしているのですが、今回はヤクーツクの街だけでなく、サハ共和国全体について語ってみたいと思います。

改めて確認すれば、サハ共和国(別称ヤクーチヤ)は、ロシア連邦を構成する連邦構成主体の一つ。「共和国」という名前が付いてはいますが、もちろん独立国家ではなく、あくまでもロシアの一地域です。

サハ共和国の基幹民族は、チュルク系の民族であるヤクート人(自称はサハ)。その顔立ちは、モンゴル人や日本人とそっくり。ロシアの民族共和国では、実はロシア人の方が多数派だったりすることも多いのですが、サハ共和国ではヤクート人50%、ロシア人38%と、前者の方が優勢になっています。独自の言語であるヤクート語も、かなり広範に使用されています。宗教に関しては、ヤクート人の多くが東方キリスト教のロシア正教を受け入れているものの、もともとあったシャーマニズム的な要素も残っています。

サハ共和国の面積は308万平方キロメートルであり、ロシア全体の18%を占めます。これは、ロシアの地域としてトップであるだけでなく、世界の地方行政単位の中で最大の領域となっています。日本と比べると、約8倍の広さです。面積があまりに広いため、一つの地域の中に時差があり、共和国は3つの時間帯に分かれています。

サハ共和国は長く厳しい冬を特徴とし、10月から4月までが冬と見なされているほどです。とりわけ、オイミャコン村では1933年に気温-67.7℃が観測されており、これは人間の定住地および北半球で記録された最も低い気温であるとされています。これに関しては、同じサハ共和国のベルホヤンスク市でさらに低い気温が観測されたことがあるとして、異論を唱える向きもあるのですが、いずれにしてもサハ共和国が北半球で最も気温の下がる地域であることは間違いありません。他方で夏には気温が30℃を超えることもあり、寒暖差が最大で100℃近くに上るわけです。

サハ共和国のほぼ全域が永久凍土地帯であり、凍土層は平均で300~400メートルに及ぶと言います。それを象徴する風景が、ヤクーツク市内で見られる高床式の建物です(下の写真参照)。永久凍土とはいえ、建物の熱が伝わると地表の凍土が溶けることとなり、建物が沈下したり傾いたりしてしまうので、高床式にして熱の伝達を防いでいるわけですね。

もう一つ、永久凍土の生み出した副産物が、冷凍マンモスです。2005年の愛知万博「愛・地球博」で、ロシアが展示した冷凍マンモス「ユカギル」を覚えてらっしゃる方も多いと思いますが、それが発見された現場はまさにサハ共和国の北極海沿岸でした。なお、日本科学未来館では現在(6月7日から11月4日まで)、「マンモス展」を開催しており、あのユカギルが再来日しているほか、その他にもサハ共和国の永久凍土から発見された古代動物の標本が数多く展示されているとのことです。

ヤクーツクで見られる高床式のアパート(撮影:服部倫卓)

酒売り場は見付からないが宝石店は至るところに

本連載では以前、「今こそ『ロシア人とお酒』についての真実を語ろう」というコラムをお届けしました。その中でも指摘したとおり、ロシアでは冬の寒さが厳しい北方地域ほど、アルコール消費量が多いという傾向があります。ただし、その時に紹介したデータでは、「お酒を最もよく飲む5地域」に、サハ共和国は入っていませんでした。

しかし、これには特有の事情があったようです。飲酒問題が深刻だったサハ共和国では数年前から、きわめて厳格なアルコール販売規制策がとられ、住民のアルコール消費をかなり強引に抑え込んできたようなのです。今日のサハ共和国では、酒類の販売は特別の許可を得た専門店に限られ、時間帯も限定されています。さらに、2018年の時点で、共和国の162の居住区では、酒類の販売が全面的に禁止されているそうです。ロシアではアルコール販売のルールが地域ごとに異なるのですが、サハ共和国の規制はロシア一厳しいと言われているようです。

筆者は、先日のヤクーツク滞在時に、サハ共和国のアルコール規制のことを事前に知らず、失敗しました。ヤクーツクでの初日、「今日は疲れたから、ホテルで部屋飲みでもして、早目に寝よう」と思い、酒とつまみを求めて、街に買い物に出かけました。ロシアにはコンビニはありませんが、ちょっとしたスーパーなら至るところにあり、大抵はそうしたところでアルコールも売っているので、すぐに見付かるに違いないと思ったのです。ところが、探せど探せど、どこのスーパー・食品店にもお酒がないのです。

そして、こちらが「お酒はないか?」と必死で探しているのに、ヤクーツクの街にはやたらと宝飾店ばかりが目立つので、「宝石なんて、そんなに買う人いるの? お酒の方が買うこと多いでしょうが!」と、余計にイライラしました。

ヤクーツクに宝飾店が多いのにも、理由があります。サハ共和国は、ダイヤモンドの世界最大の産地となっており、ロシアで採掘されるダイヤモンドの99%が当地産であると言われています。共和国を代表する企業も、ダイヤモンド採掘・販売のアルロサ社であり、その生産シェアは世界の20%前後に上ります。サハ共和国はまた、ロシアを代表する金(ゴールド)の産地でもあります。宝石・貴金属が地場産業となっており、その加工業者も多く、それゆえお膝元のヤクーツク市内に宝飾店も多数あるということなのでしょう。

ヤクーツクの宝飾店の一例(撮影:服部倫卓)

美味なる仔馬ステーキ

先日、ヤクーツクを訪問して実感したのは、ヤクート人は馬と密接にかかわっている民族だということです。ロシアの北方諸民族は、トナカイの放牧を生業としている場合が多いのですが、ヤクート人の間では伝統的に馬の重要性が高かったようです。

考えてみれば、サハ共和国の紋章にも、馬が描かれています。馬上の騎士が高らかに旗を掲げる図柄であり、シシキノ村で発見された洞窟壁画から採られたもの。それだけ、馬との繋がりは太古の昔に遡るということなのでしょう。当地の酷寒に耐えるとは、馬というのは偉大な動物だと思います。

筆者はヤクーツク滞在中、「せっかく民族共和国の首都に来たので、ヤクート料理を食してみたい」と思い、それらしい民族料理店に入ってみました。すると、メニューの中で、秋が旬と思われる「ジェレビャーチナ」という食材を使った一連の料理が、プッシュされていました。筆者はその単語を知らなかったので、スマホで検索してみたところ、出てきたのは馬の画像。「なるほど、馬肉のことなのだな」と理解し、そのステーキを注文しました。供されたステーキは、とてもジューシーで柔らかでした。

しかし、後でちゃんと調べてみたところ、ジェレビャーチナというのは、馬肉の中でも仔馬の肉だということが判明しました。仔馬を食べるとは、むごいことをしたかなと、ちょっと後ろめたくなってしまいました。仔羊や仔牛の肉というのはよく聞きますが、仔馬の肉というのは日本ではまず馴染みがありません。仔馬は、生後半年くらいが一番美味しいらしく、春に生まれることが多いと思うので、ちょうど秋頃が旬なのでしょう。現地の人に訊いたところ、仔馬の肉は美味なだけでなく栄養にも富み、贅沢品の部類に属すようです。

仔馬の肉はサハ共和国の知る人ぞ知る名物(撮影:服部倫卓)