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ロシアのスタジアムが禁酒なのには日本が絡んでいる!

迷宮ロシアをさまよう
サンクトペテルブルグのスタジアム入り口に表示されていた持ち込み禁止物の一覧。瓶に%と書かれているのが酒のことであろう。武器は理解できるが、傘やカメラまで持ち込み禁止とは(撮影:服部倫卓)。
サンクトペテルブルグのスタジアム入り口に表示されていた持ち込み禁止物の一覧。瓶に%と書かれているのが酒のことであろう。武器は理解できるが、傘やカメラまで持ち込み禁止とは(撮影:服部倫卓)。

ワールドカップ・ロシア大会にまつわる飲酒と喫煙の問題

ヨーロッパでは、サッカー観戦のお供に、ビールが定番です。日本のJリーグの会場でもビールは売られていますし、Jリーグには地域興し的な役割があるので、たまに地酒が販売されたりもしていますね。

今回のFIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会でも、観客席には、ビール片手に応援するファンの姿が見られます。しかし、それが実現するまでには、紆余曲折がありました。というのも、サッカー観戦を含め、ロシアのスポーツイベントでは、アルコール飲料の販売は全面禁止されているからです。今回のW杯に限った特例措置として、スタジアムおよびパブリックビューイング会場でのお酒の販売が認められました。ただ、許可が出たのはビールなどの低アルコール飲料だけであり、ウォッカなどの強いお酒は厳禁です。

実は、ロシアのスポーツ会場が禁酒になったのには、日本が絡んでいます。2002年のW杯日韓大会で、日本代表と対戦したロシア代表は、0:1で敗れました。その結果を受け、モスクワのパブリックビューイング会場で酒に酔った群衆が暴れ出し、死者1名、負傷者79名、逮捕者130名を出す大暴動に発展したのです。ソ連崩壊後の新生ロシアにおいて、モスクワ中心部でこれだけ大規模な騒乱が発生したのは、後にも先にもこの時だけです。

この暴動は、いわゆるフーリガン問題とはやや異なりますし、特別な政治的背景もなく、典型的な群集心理による大衆の暴発だったと考えられます。発端がトルシエ・ジャパンに負けたことだったとはいえ、反日的な感情があったとも思えません。とにかく、当時のロシアはまだ混乱期であり、くだんのパブリックビューイング会場ではウォッカなどの強いアルコールも自由に売られていたと言いますし、警備体制もまったくなっていなかったのです。

いずれにしても、この大事件がきっかけとなり、サッカーに限らず、ロシアのスポーツイベントの会場から、アルコールが全面的に締め出されることになりました。その際に、とかく規制に関しては徹底したがるロシアですので、ウォッカのみならずビールも禁止ということになってしまったわけです。ちなみに、今回のW杯でのビール解禁はあくまでも特例措置であり、大会が終わったらロシアのサッカースタジアムは再び飲酒禁止に戻るらしいです。

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モスクワのスパルタク・スタジアムの売店。日本のような郷土色豊かなスタジアムグルメとは無縁で、ホットドッグなどの軽食と、お茶、清涼飲料くらいしか置いていない。もちろんアルコールはご法度(撮影:服部倫卓)。

日本よりはるかに厳しい禁煙規則

一方、タバコに関して言うと、これはもうサッカーやW杯に関係なく、ロシアではきわめて厳格な禁煙政策がとられています。ロシアでは、飲酒・喫煙などの生活習慣の要因により、国民、とりわけ男性の平均寿命が短いことが重大な問題となっており、プーチン政権はその改善に取り組んでいます。2013年6月からは、教育施設、文化施設、スポーツ施設、医療機関、公共交通機関、役所、オフィス、集合住宅の共用部分など、あらゆる公共空間が全面禁煙になりました。2014年6月には、商業施設、飲食店もそれに加わっています。こうした措置や増税策が実り、世界屈指の高さだったロシアの喫煙率も、近年は低下に転じています。

当然、サッカースタジアムは公共のスポーツ施設ですので、全面禁煙であり、筆者の知る限り、スタジアム内には喫煙所なども設けられていないはずです。しかし、ルール自体が厳格でも、それが守られなければ、意味がありません。筆者はロシアのサッカースタジアムで、ファンが堂々と観客席でタバコをふかしているのを、何度か目撃したことがあります。

ちなみに、FIFAのルールでも、W杯会場のスタジアムは全面禁煙と決まっているようです。それだけに、今回のW杯のアルゼンチンVSアイスランド戦で、VIP席に陣取ったアルゼンチンの英雄マラドーナが葉巻をくゆらせていたのには、度肝を抜かれました。

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試合中おもむろにタバコをふかし始めるスパルタク・モスクワのサポーター。武士の情けで、あえて顔がボケている写真を選びました(撮影:服部倫卓)。

ロシア代表の飲酒・喫煙問題

ところで、サッカー・ロシア代表にスタッフとして参加したことのあるオランダ人の専門家が、2015年に次のように苦言を呈したことがありました。

「ヒディンクの下で働いたロシア時代は素晴らしかったが(注:オランダ人のヒディンク監督に率いられたロシア代表は2008年の欧州選手権で3位躍進)、唯一問題だったのはロシアのプレーヤーのアルコール摂取である。ロシアには大きなポテンシャルがあるはずだが、これといったタレントが出現しないのは、不摂生なアルコールの摂取が大きな原因である。指導者、選手問わず、ロシアのサッカー界全体がそうだ。ロシア人が『一杯やる』と言えば、それは必然的にウォッカのことであり、ゆえにビールなどは水くらいにしか思わず、ビールなんて飲んでも何の影響もないと信じ込んでいる。しかし、それはとんでもない誤解であり、ハイレベルなアスリートにとっては、ビールは体に否定的な影響を及ぼすのだ。特に試合後の回復を遅らせる。10年前なら、西欧のビッグクラブでも試合後に飲んでいたかもしれないが、今では皆無である。」(ロシア『フットボール』誌201577-13日号)

このオランダ人専門家の指摘を裏付けるように、2009年に残念なスキャンダルが伝えられました。この年、ロシア代表は欧州大陸予選のプレーオフでスロベニアに惜敗し、翌年のW杯南アフリカ大会の出場を逃してしまいました。あろうことか、スロベニアとの決戦前夜、ロシア代表プレーヤーたちはモスクワ市内のレストランに繰り出し、深夜まで飲酒に及んだ上、水タバコを吸っていた選手までいたというのです。このプレーオフでは、わずかアウェーゴール1つの差でスロベニアに屈したことを考えると、前祝いの宴は高くついたと言わざるをえません。

今回の自国開催W杯で、ロシア代表は目を見張る快進撃を見せてくれました。それを支えたのは、チームの高い規律と豊富な運動量です。ピッチ外での選手に対する指導・管理が行き届いていたからこそ、それが可能になったはずです。ロシア代表プレーヤーが試合前日にウォッカや水タバコに手を出すような時代は、過去のものになったのでしょう。