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イスラムとロシア正教が共存するロシア第3の首都カザン ロシアの街物語(9)

迷宮ロシアをさまよう
白壁のカザン・クレムリンと、屹立するモスク「クル・シャリフ」。(撮影:服部倫卓)

ボルガ沿岸の要衝

ロシアでは、それぞれの街が誕生した日が正式に決まっていて、地元ではその誕生日を、かなり盛大にお祝いします。今回取り上げるカザンの場合は8月30日が街の誕生日ですので、つい先日それがお祝いされたところです。

さて、そのカザン(よりロシア語らしく読めばカザーニ)は、タタルスタン共和国の首都。タタルスタン共和国は、ロシア内陸部のボルガ川沿いにある重要地域です。もちろん、「共和国」と言っても、独立国ではなく、あくまでもロシア連邦を構成する一つの地域にすぎません。

ロシアには少数民族の共和国が20あまり設けられていますが、人口が最も大きいのが390万人のタタルスタンです。石油化学、機械などを中心に、強力な経済力を誇っています。ソ連崩壊直後には、この共和国にもロシアからの独立志向があり、連邦政府はかなり神経を尖らせていましたが、今日ではすっかり連邦に忠実な優等生地域になりました。

タタルスタン共和国の中心民族であるタタール人は、チュルク語系の言語を話し、主にイスラム教スンニ派を信仰する民族。ただし、現代ではロシア語に移行している人も多いですし、現地に行ってみても、イスラム色もそれほど濃いわけではありません。周辺の諸民族との通婚が進んでおり、外見的にはロシア人と区別がつかない場合もあります。タタール人はロシア連邦の人口の3.9%を占め、実はロシア人に次ぐ第2のエスニック集団となっています。一方、タタルスタン共和国内では、タタール人の比率は53.2%とされ、ロシア人も39.7%とかなり多くなっています。

古来タタール人は、ロシアの様々な分野で活躍してきました。現代でも、モスクワの官庁や大企業で面談した相手が、実はタタール人だったというようなケースは少なくありません。

レーニンがタタール人らを前に「タタール自治ソビエト社会主義共和国」を創設する布告に署名する様子。1920年の出来事を描いた絵画で、タタルスタン共和国国民博物館に展示(撮影:服部倫卓)。

ロシア第3の首都

ロシアでは、サンクトペテルブルグが、モスクワに次ぐ「ロシア第2の首都」または「北都」という位置付けをされています。サンクトペテルブルグは、一地方都市などではないわけですね。

そこまではご存じの方も多いかもしれませんが、タタルスタン共和国のカザンが「ロシア第3の首都」と呼ばれていることは、あまり知られていないでしょう。これは、単に通称でそう呼ばれているのではなく、実は2009年に商標登録もされています。エカテリンブルグ、ニジニノブゴロド、オムスクなども「ロシア第3の首都」を自称しているそうですが、商標登録した者の勝ちですね。

カザンは、ボルガ川に面する百万都市であり、西暦1005年に誕生した千年の都です。2000年には、カザン・クレムリンがユネスコの世界文化遺産に登録されました(冒頭の写真参照)。

また、多くのオリンピック選手を輩出しているカザンには、「ロシアのスポーツの首都」という別称もあります。カザンは、2013年夏季ユニバーシアードの開催地にもなりました。サッカーのルビン・カザンは国際的にも良く知られており、2018年のサッカー・ワールドカップの際には、日本代表はルビン・カザンのトレーニング施設をキャンプ地として利用しました。ただ、筆者が現地を訪問した時の印象では、サッカーのルビンよりもアイスホッケーのアクバルスの方が地元民の間で人気が高いのかなと感じました。

博物館を案内してくれたタタール人の女性(撮影:服部倫卓)。

エキゾチック・カザン

筆者がカザンを訪問した際に驚いたのは、タタール系の人々が普通にタタール語を話していたことでした。ロシアには少数民族の自治単位が数多く設けられていますが、タタルスタンのように民族言語・文化の伝統が日常生活レベルで生きているところは、稀だと思います。

ロシアの地方都市は、だいたいどこも同じような画一的な街並みで、地元の名物なども豊富ではありません。その点、イスラム都市のカザンは、異彩を放っています。以前も書いたと思いますが、地方ごとの「ご当地グルメ」というものがほぼ存在しないロシアにあって、タタール料理店がちゃんとあるカザンは例外的に恵まれています。

ただ、筆者自身がカザンに滞在した時に受けた印象を率直に言えば、この街はむしろコスモポリタンなところだなと感じました。タタール文化だけでなく、ロシア・中央アジア全体のイスラム文化の中心として機能している様子が見て取れました。また、イスラムとキリスト教(ロシア正教)が共存する街でもあります。カザン・クレムリンの中で、イスラムのモスクとロシア正教の教会堂が並び立っている景観が、その象徴でしょう。