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ラグビー・ワールドカップ開幕まで1ヵ月! 開幕戦で当たるロシアを改めて予習しよう

迷宮ロシアをさまよう
ラグビー日本代表(左)とロシア代表(右)のジャージー。(撮影:服部倫卓)

開幕まで1ヵ月

日本で開催されるラグビー・ワールドカップは、9月20日が開幕ですので、ちょうどあと1ヵ月に迫りました。本連載では、開幕戦で日本と当たるロシアのラグビー事情に関して、今年3月に、「ロシアのラグビーは空軍・空挺軍仕込み! W杯開幕戦の日本の対戦相手を知ろう」というコラムをすでにお届けしています。今回は、追加情報、最新情報をお届けし、改めてラグビー・ロシア代表のことを予習してみたいと思います。

王国クラスノヤルスクにラグビーが伝来して半世紀

前回、「ロシアのラグビーは空軍・空挺軍仕込み!」にも書いたとおり、今日のロシアでは、クラスノヤルスクという街が、ラグビー王国となっています。ロシア代表チームの中心になっているのも、この街の「クラスヌィ・ヤル」、「エニセイSTM」という2つのクラブチームの選手たちです。

実は、前回の拙稿を書いた時には、なぜ東シベリアのこの街でラグビーが盛んなのか、今一つ理解できていませんでした。その後、より詳しい情報を得ることができたので、紹介してみたいと思います。

くしくも、今年は王国クラスノヤルスクにラグビーが伝来してから、ちょうど半世紀の節目なのだそうです。すべては、レオニード・サビニンという一人の男の情熱から始まりました。サビニンは、元々はモスクワに近いボロネジという街の学生だったのですが、クラスノヤルスクの工科大学に転入し、ボロネジで覚えたラグビーをクラスノヤルスクでもやりたいということで、1969年秋に大学にラグビー部を創設しました。当時、地元の学生たちは、街から一度も出たことのないような若者が多く、サビニンは「ラグビーをやれば、ソ連中に遠征できるぞ」と声をかけ、部員を募ったそうです。自らが監督を兼任し、ボールもユニフォームも練習場所もない状態から、チームを作り上げていきました。

その後、工科大のラグビー部は、社会人のクラブチームに発展していきます。当時、監督を務めていたのがウラジーミル・グラチョフという人物だったのですが、ソ連ラグビー界が鎖国状態にあった中で、グラチョフは1983年にフランスで開催された研修に参加し、そこで世界の最新のメソッドを持ち帰ったことが大きかったようです。それまでは普通の学生を選手として補充するような感じでしたが、グラチョフの研修参加後は、育成年代からきちんとラグビー選手を育てる試みが始まりました。クラブチームは1990年に現在の「クラスヌィ・ヤル」へと改名し、その年の全国リーグでついにソ連チャンピオンに輝きます。

1991年暮れのソ連崩壊後は、ロシア全体のラグビー界は低迷しましたが、クラスノヤルスクではラグビー熱が衰えなかったため、結果としてこの街の優位がますます強まりました。そうした中、クラスノヤルスクでは、「シベリア重機械」という工場のクラブチームが産声をあげます。「シベリア重機械」は、当初は「クラスヌィ・ヤル」のセカンドチームのような位置付けでしたが、アレクサンドル・ペルブヒンという野心家が監督に就任したことで、急成長を遂げます(ペルブヒンは後にロシア代表監督にまで登り詰める)。1990年代半ばになると、「シベリア重機械」と「クラスヌィ・ヤル」は同等な力を持ったライバル同士となり、その対戦はロシア・ラグビーのナショナルダービーになっていった、というわけです。「シベリア重機械」は2000年に現在の「エニセイSTM」へと改名しましたが、今も愛称は「重機械」のままです。

なお、ワールドカップ開幕戦の日本VSロシア戦が行われるちょうどその時期に、アレクサンドル・ウス知事を団長とするクラスノヤルスク地方代表団が訪日する見通しとなりました。同地方のビジネス・プレゼンテーションが主目的ですが、地元ラガーマンたちの勇姿をスタジアムで見届けたいという密かな目的もありそうです(日本側はプーチン大統領も開幕戦に招待したが、多忙なプーチン大統領が来ることはなさそう)。

東京八重洲地下街に設けられた「ワールドカップ2019日本大会展」。(撮影:服部倫卓)

監督、選手の発言振りから、最新のチーム事情を伺う

さて、「ベアーズ(熊)」の愛称で呼ばれるロシア代表チームの近況は、どうなっているでしょうか? ここでは、監督と、中心選手のインタビューから、それを探ってみたいと思います。

2018年からロシア代表監督を務めているのが、リン・ジョーンズという英国(ウェールズ)人です。ジョーンズ監督は、8月上旬のインタビューで、次のように発言しています。

「初戦で対戦する日本は、素早いプレーに特徴がある。ロシアにとっては、彼らに素早いプレーをさせないよう、圧力をかけることが肝心だ。我々が現在取り組んでいるのは、選手たちに、どうやってプレーするのが正しいのかを教えることではない。彼らはそれをすでに知っているし、やる能力もある。問題は、その正しいプレーを、一試合を通じて続けることであり、特に疲労が溜まってきた時に大きなミスを犯さないことが大事である。プレッシャーの中で素早く強力にプレーすることを学ばなければならない。我々はチーム作りには手応えを感じているが、実際の仕上がりはトレーニングマッチをいくつかこなしてみないと何とも言えない。とにかく本番に向けて準備する上でトレーニングマッチ、特に強豪との対戦が重要である。先の欧州選手権では、反則を減らすこと、ゴールキックの精度、攻守両面のモール、スクラムが課題として残ったが、このほどウルグアイでの国際大会に参加し、そのあたりの改善が見られた」

次に、プレーヤーを代表して、レギュラーのフルバック、ラミリ・ガイシン選手が先日応じたインタビューの発言要旨を紹介しましょう。

「ワールドカップはラグビーのお祭りであり、大会運営も素晴らしいものになるはず。選手たちは自分たちの実力を出し切るのみだ。ロシア代表の仕上がりも上々。ロシアと同じプールAに入っているチームは、どこも良いチームだ。その中でも、アイルランドとスコットランドは特に手強く、少なくとも大会のベスト8には入るのではないか。日本とサモアに関しては、ロシアと同等のレベルだと考えている。対戦相手の分析と対策については、すべての対戦相手について終えているわけではないが、初戦で当たる日本については入念に研究しており、最近も日本VSフィジー戦をチェックした。ロシアにとっては、日本とサモアに勝つことができれば、今大会は成功と言えるだろう。」

ロシアの国情を反映した残念な話題

本コラムを書くにあたって、色々と情報を収集してみたところ、ロシアの国情に絡んだ残念な話題も目に留まりました。

まず、ロシア代表は8月27日にジョージア代表とトレーニングマッチを行うことを予定していました。ジョージアは旧ソ連切ってのラグビー強国であり、今回のワールドカップにも出場しますので、ちょうど良いスパーリングパートナーと思われました。しかし、本連載の「反ロシアデモ勃発で観光立国ジョージアが直面する試練」でお伝えしたとおり、6月下旬から両国の政治対立が再燃し、ロシア・ラグビー協会は敵地トビリシへの遠征は危険かつ不適切と判断。試合は中止となり、両国は急遽、別の対戦相手を探す羽目になりました。

もう一つ、日本VSロシアの開幕戦に関し、ロシアのメディアがどう伝えているかをチェックしてみて、とても残念な傾向が目に付きました。試合そのものについての展望や見所を伝える記事はほとんどなく、「日本VSロシアの開幕戦をゲイの主審が裁くことになった」という見出しばかりが目立っていたのです。

9月20日の日本VSロシア戦でレフリーを務めるのは、世界最高峰のレフリーとされる英国(ウェールズ)人のナイジェル・オーウェンス氏です。確かに、オーウェンス氏は同性愛者であることを告白していますが、スポーツとは関係のない個人的な事柄のはず。開幕戦のレフリーが決まったことを伝える記事で、「ゲイが主審」などという見出しを掲げるのは、どうなのでしょうか。LGBTへの差別・偏見が根強いロシアならではの伝え方ではないかと、残念に感じました。日本VSロシア戦で微妙なジャッジなどがあった時に、ロシア側からレフリーに罵詈雑言が浴びせられたりしないか、心配です。