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今こそ「ロシア人とお酒」についての真実を語ろう

迷宮ロシアをさまよう
食品見本市に出品されたロシア産のワイン、ブランデー、ウォッカなど(撮影:服部倫卓)
食品見本市に出品されたロシア産のワイン、ブランデー、ウォッカなど(撮影:服部倫卓)

ロシアは酔っ払いだらけ?

「ロシア人といえば大酒飲み」というイメージをもっておられる日本人は、多いのではないでしょうか。何と言っても、強いお酒の代表格であるウォッカの母国ですからね。

実際、アルコールは国の命運すら左右したことがあります。1985年にソ連の最高指導者に就任したゴルバチョフ氏は、アルコールが経済の生産性と国民の健康を蝕んでいることを重く見て、大々的な「反アルコールキャンペーン」を展開しました。しかし、この政策は様々な悲喜劇を引き起こすばかりで、肝心のソ連社会・経済の立て直しは進みませんでした。飲むことくらいしか楽しみがなかった左党の怒りも買い、結局1991年暮れのソ連崩壊とゴルバチョフ退陣へと繋がっていくのです。

新生ロシアの時代になると、初代大統領のエリツィン氏のキャラクターが、「ロシア人=酒乱」というイメージを決定付けることになります。エリツィン氏は無類の酒好きで知られ、それゆえに酒飲みの敵であるゴルバチョフを追い落とした、などといったうがった見方まであります。ロシアの頂点に立ってからも、酩酊の末に奇行を繰り返し、当時その模様は日本のワイドショーなどでも広く伝えられました。

服部倫卓_酒3

実は日本よりも飲酒の頻度は低い

しかし、ここで強調しておきたいのは、もともとロシア国民がお酒を飲む機会は、日本と比べても多くないという事実です。ロシアでは、お酒とは何かをお祝いするような「ハレ」の場で飲むものであり、理由もないのに日常的に飲むようなことは、不適切と考えられています。もちろん、毎日のように飲んでしまう人もいるにはいますが、それはアルコールに溺れた一部の人たちであって、決して平均的なロシア国民の姿というわけではありません。日本のように、毎日自宅で楽しく晩酌とか、今日も今日とて居酒屋で飲みニケーションとか、そういったことはロシアではほぼないと理解していいと思います。

このように、もともと「特別な場でしか飲まない」という習わしだったロシアで、近年、お酒を飲む機会がさらに減少しています。上掲の図から、ロシア国民の飲酒頻度はそれほど高くなく、しかもここに来て急激に低下に向かっていることがお分かりいただけると思います。「毎日飲む」という人は、日本ではかなりの数いると思いますが、今やロシアでは相当なレアケースです。

もう一つ、下の図もご覧いただきましょう。アルコール消費の絶対量という観点から言うと、ロシアは相変わらず世界の上位に位置し、日本などよりも上です。しかし、2011年には15.8リットルで、世界で4番目に高かったわけで、この間の改善幅は世界トップクラスでしょう。プーチン政権は、一部の国民による過剰なアルコール摂取がもたらす罹患率・死亡率の高さ、家庭内暴力や治安悪化などを問題視し、アルコール販売および広告の制限、課税強化、飲酒運転の撲滅などに取り組んできており、それが威力を発揮した形です。また、昨今のフィットネスブームに表れているように、ロシア国民の健康意識の向上も大きいと思います。

なお、ロシアは多民族国家であり、なおかつ広大な連邦国家ですので、地域によっても飲酒の度合いが異なります。お酒を最もよく飲む5地域とされているのが、チュクチ自治管区、マガダン州、ネネツ自治管区、サハリン州、コミ共和国であり、これらには北方の酷寒地域という共通点があります。逆に飲む量が少ない5地域は、チェチェン共和国、イングーシ共和国、ダゲスタン共和国、カラチャイ・チェルケス共和国、カバルダ・バルカル共和国で、いずれもイスラーム系の地域です。ただ、冒頭に掲げた写真は、皮肉にも飲酒量が少ないはずのダゲスタン共和国産の製品でした。

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とはいえ否定できない飲酒の問題

上述のとおり、ロシア国民が大酒飲みだというのは古いステレオタイプであり、我々はそうした偏見を改めるべきです。とはいえ、ロシアで相変わらず飲酒の問題が深刻な社会問題の一つとして残っていることも、否定できません。結局のところ、ロシアにおけるお酒をめぐる最大の問題は、一部ではあれ、まるで薬物を摂取するように、お酒を大量かつ常習的に飲んでしまう人がいることです。2018年のロシア全国調査で、「貴方の身近な人や知り合いに、アルコール依存症の人はいますか?」と尋ねたところ、実に37%が「いる」と答えました。

その原因の一つは、ロシアの国民酒であるウォッカの特質にあるかもしれません。ウォッカは穀類などから作られる無色透明の蒸留酒で、アルコール度数は40度とほぼ決まっています。日本ではカクテルのベースとなることが多いですが、ロシアではストレートで一気飲みするのが一般的です。

ロシアの伝統的な宴席では、参加者が代わる代わる挨拶をして乾杯の音頭をとり、それを受けて小ぶりなグラスに注がれたウォッカを一気に飲み干すのが流儀。日本酒のようにちびちび飲むことは許されません。日本人がロシア流宴席に参加させられると、ロシア語で気の利いた挨拶を考えなければならないのと、ウォッカを何度も一気飲みしなければいけないのとで、二重の苦しみを味わうことになります。ただ、最近はロシアでもそうしたアルハラ宴席が減ってきている印象があり、結構なことだと思います。

また、近年のロシアの傾向として、若い世代や女性を中心に、お酒を飲むにしても、ウォッカでなくビールやワインを選ぶ人が増えています。ちょっと古いデータですが、2014年のロシアの調査で、お酒を飲んだことがあるという回答者に、普段飲んでいるのは何ですかと複数回答で尋ねたところ、ウォッカ:31%、ビール:31%、ワイン:30%、コニャック・ウィスキー・ブランデー等:13%、という結果になりました。ウォッカの絶対王者の座は揺らいでいます。