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モンゴル帝国の残した小麦文化を探しに 遊牧民のゲルで受けたおもてなし

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
ゆでずに蒸し焼きにするモンゴルのうどん「ツイヴァン」。水が貴重な遊牧民の暮らしの知恵が生きた料理だ=竹内章雄撮影

◉旅で出遭うヒント

私は、実家が飲食店をしていたこともあって、生まれながらの食いしん坊。厨房で、職人さんが料理をする姿を見て育ちました。残った材料は、もったいないから別の料理に生かす。作業は段取り良く並行して進める。そういった知恵のようなものに幼い頃から興味があり、影響も受けてきました。ですから、単においしいものを食べるために世界を旅しているというより、人々の暮らしそのものを純粋に知りたいんです。何でも見て食べて感じて、考えを重ねて、自分の暮らしとつながる部分や、生きるヒントのようなものを発見する瞬間こそが、旅の醍醐味だと捉えています。この連載ではそんな、私なりの発見や体験を、食文化に絡めてお伝えさせていただければと思います。

◉いざ、モンゴルへ!

初回は、モンゴルの遊牧民の暮らしについてお話しましょう。初めてモンゴルを訪れたのは20年ほど前のこと。昔働いていた政府関係の機関の方が、モンゴルと日本の子供たちの文化交流活動をしていたんですね。それで、2週間ほど彼女について行きました。ちょうど、ロシアや中国など、モンゴル近隣の国々を旅していた頃のことで、「次は何としてもモンゴルに!」と思っていたタイミング。季節は夏でした。

日本から首都のウランバートルへは、当時から直行便が出ていて、4時間ほど。ウランバートルは、現在は高層ビルが立ち並ぶ都市に変わっていますが、当時はまだ、すごくのんびりしていましたね。それでも、政府機関や銀行、貿易会社など、国の中枢機関が集まる都会。市場に行くとスリがいて、少しショックを受けたりしました。

◉ひたすら平原を行く

1、2日観光してホテルに荷物を預かってもらうと、砂漠を抜け、遊牧民の方の暮らすゲルへと車で向かいました。ウランバートルは都会でしたけれど、少し行くともう、それはそれはずーっと平原なんです。急に川が流れていたりして、「あれは、雪解け水でできた川だよ」なんて説明されると、モンゴルにいるのだという実感も高まります。それでも、空と草原しかないなかを延々と進むだけですから、いい加減飽きてきちゃう。「あとどれくらいですか?」って聞くと、「何時間で着く」という風には返ってこないんですよね。「500キロです」とかそんな感じなの。一体自分がどこにいるのかさっぱりわからなかったのですが、運転手さんは、道なき道をわかって進んでいるんです。それも驚きでした。

どこまでも続く平原(荻野恭子さん提供)

遊牧民のユニークなもてなし

はるか向こうに、ゲルの並ぶ集落が見えてきたときは嬉しかった。白くて分厚いフェルトの壁、シンプルで完成されたデザイン。丸いフォルムに、「ああ、夢にまで見たモンゴルのボーズ(挽き肉を小麦粉の皮で包んで蒸したモンゴルの伝統料理)の形はここからきたんだ!」と込み上げてくるものがありました。真ん中にストーブ、ベッドや台もあって、簡易だけれど居心地がよく、フェルトで床の高さを変えることで、風が通るよう、体感調節ができるのも素晴らしい。ちょうど、組み立て途中の人たちがいて、ほんの30分ほどで組み上がっていましたね。時期が来たら、暖かい場所に移動する人もいれば、夏の間だけ家畜を遊牧する人、ウランバートルに戻る人や、定住用の石の家に戻る人もいるのだそうです。身軽な暮らし方を大変そうに思う一方で、憧れも感じましたね。

平原に並ぶゲル。赤と白で統一されたモダンなデザインに驚かされます(荻野恭子さん提供)

私は、お客でしたので、モンゴル式のもてなしを受けました。ゲルのひとつに歓迎の料理が置かれていてね、「ボルソック」という揚げパンや、「アーロール」というチーズの干したもの、「スーテー・ツァイ」という塩入りのミルクティー、「馬乳酒」というカルピスの原型のような発酵した飲み物などが並んでいて、「自由に食べてください」と言われたものだから、「私たちだけのために用意してくださったのかしら?」なんてはしゃいでいたら、これが違うのね。通りがかりの誰でも中に入って食べていいのだと言われてびっくり。面白い歓迎の風習です。(次回は5月10日に配信します)

自家製のチーズ「アーロール」と馬乳酒など、みんなで食べました(荻野恭子さん提供)