大阪ならたこ焼き、メキシコならタコス。中米エルサルバドルといえば、地元の人たちが迷わず答えるソウルフードが「ププサ」だ。
日本のおやきを薄くしたようなつくりで、具を入れたトウモロコシや米の生地を手のひら大に伸ばし、鉄板で焼く。おいしくて安いうえ、付け合わせのキャベツの酢漬けはヘルシー。学生時代にエルサルを旅した私は毎日欠かさず食べた。
17年ぶりに訪ねてみると、相変わらず町は「ププセリア」と呼ばれる屋台や安食堂だらけだった。国境の町サンロレンソで屋台をのぞくと、かっぷくのいい姉妹がおしゃべりしながら、ぺったん、ぺったんと昔ながらに生地をこねていた。
具は豆や豚肉、チーズといろいろあるが、定番は特産の「ロロコ」という植物とチーズのミックス。姉のクラウディア・ファハルド(40)が「フォークもナイフもないよ。エルサル流に手で食べて」とお皿を差し出した。
はみ出たチーズのおこげが食欲をそそる。トウモロコシの甘みと、トロトロに溶けたチーズの塩気。タラの芽のような青みのあるロロコの香りが口いっぱいに広がった。1枚50セント(55円)。2枚食べれば満腹で、相変わらず財布にもやさしい。
最近ではしゃれた店も増え、首都サンサルバドルで地元大学生が連れて行ってくれた店は、土壁にムーディーな照明で大人の雰囲気だった。メニューもブラックベリーやマッシュルームなど新旧合わせて24種類もあったが、学生たちに聞いても、やはり人気はロロコ味だった。
「ロロコは日本でいえばみそ。海外にいてもエルサル人には忘れられない味です」。ロロコの産地サンロレンソの前市長ホルヘ・オルティス(60)はそう話す。米国には今、300万人近いエルサル移民が暮らし、ププセリアも増えた。きっと本物のロロコが恋しいだろう、と数年前から輸出を始めたところ注文が殺到し、今年は昨年の4倍増を見込む。
全米チェーンが席巻するタコスの背中は遠いものの、ププサはじわじわと米国人の間にも定着してきた。2011年にはニューヨークで、「屋台界のアカデミー賞」とも称される「ベンディアワード」の最優秀賞をププセリアが獲得した。日本でも気軽に食べられる日が待ち遠しい。