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「かもめ食堂」を実現 地道に和食の浸透を目指す

One Meal, One Story 一食一会 更新日: 公開日:

「かもめ食堂」(2006年)という映画をご存じだろうか。

小林聡美演じる主人公が、フィンランドの首都・ヘルシンキで「かもめ食堂」という日本料理店を開店。現地で知り合った日本人女性や地元の人びととの交流を通じて、次第に繁盛店となっていく。

公開当時に鑑賞したが、全編に漂う飄々とした雰囲気に心惹かれた。何よりも「豚の生姜焼き」や「焼き鮭」などの定食メニューのおいしそうなこと。「北欧の地で食べる定食屋の味は、さぞや心にしみるだろう」と妄想を膨らませた。
以来10年余。ヘルシンキを初めて訪れるにあたり、リサーチしたところ、「かもめ食堂が実在する」という耳寄りな話を聞きつけた。これはもう、行くしかない!

おにぎりほおばる現地客も

ヘルシンキ中央駅から、市電と徒歩で20分ほどの場所にある「ラヴィントラかもめ(かもめレストラン)」は、店の外観も通りの様子も映画そのまま。それもそのはず、映画の撮影に使われたフィンランド人経営のカフェを、日本人実業家の小川秀樹(57)が譲り受け、16年5月に再オープンさせたからだ。内装も映画の雰囲気にできるだけ近づけた。

ただ一点、映画と異なるのはメニューの構成。和食もあるが、メインはフィンランドの郷土料理で、お薦めは「Oishii Finland(おいしいフィンランド)BOX」というお弁当だ。トナカイやニシン、シナモンロールなど、9種類の現地の料理を一度に味わえる。現状では、フィンランド人客よりも日本人観光客の比率が高いため、それを意識したメニューにしているという。

「塩気や甘みが強い料理を好む北欧の人びとに、和食のほんのりとした味わいを知ってもらうのは難しい」とマネジャーのエリック牧子(39)は話す。日本酒3種類の利き酒セットを始めたり、ランチの一品は必ず和食にしたり、と現地の人に和食をアピールする努力を続けている。

最近では、フィンランド人がおにぎりを両手でほおばったり、ラーメンを箸で食べようと悪戦苦闘したり、と、映画を彷彿とさせる情景も目立ち始めた。「こちらの味覚に合わせるのではなく、できるだけ本来の和食に近い料理で勝負したい」とエリック。「かもめ」のさらなる飛翔に期待したい。