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キッチンと食の質は逆相関する 世界を旅して至った仮説

マイケル・ブースの世界を食べる
photo: Kitamura Reina

世界随一の食を生み出すキッチンとは?

私が最近考えた仮説の一つを、みなさんに話させてください。とにかく話します。

それは「キッチンにお金をつぎ込む国ほど、料理の質がいまひとつになる」ということだ。

その心は次のようなものだ。世界を旅しながら見てきた、レストランなどプロ向けのキッチンというより、ごく一般的な家庭のキッチンの中で、一番印象が薄かったのは、インドやベトナム、フランスといった国々のものだった。日本も含まれるだろう。狭かったり(少なくとも日本の都市では)、時に私の衛生基準を満たさなかったり(失礼、インド)、調理機器がそろわなかったり(ベトナム)、他の部屋と比べると付け足したような感じがしたり(フランスのほとんどの一般家庭のように)していた。

でも、それがなんだ。こうした国々が生み出す食こそ、おいしさ、美しさ、魅力、いずれも間違いなく世界随一なのだから。

こうした国々の料理を、広々としてピカピカの、調理機器が完備されたキッチンを誇る国々と比べてみるといい。

例えば米国やカナダ。北米のキッチンはとにかく巨大、そこに並ぶ機器は初期の宇宙開発よりも高い計算能力を誇る。最近ではしばしば英国や北欧でもキッチンは手が込んでいて、手作りの戸棚やソファより大きい調理器具、キャデラックほどの大きさの冷蔵庫に何万ドルとかけている。

しかし、こうした国々の食べ物ときたらどうだろう。失礼のないように言うなら「料理の評価が最高というわけではないですよね」、正直に言えば「米国ほどひどい食事の国があるだろうか」となる。

料理をするなら1人が好き

キッチンについて考え出したのは、最近引っ越したばかりで、新居のキッチンがあまり気に入っていないから。我が家のキッチンで何を優先すべきかを見定め、どうデザインし直すか考えているところなのだ。一家の調理を任され、食についての物書きをしている身として、ことキッチンとなると、かなりのこだわりと偏愛ぶりを自負している。

例えば、調理台にはあれこれ何も置かない。トースターやフードプロセッサーがホコリをかぶり、邪魔になるのは耐えられない。すべては食器棚にしまわれるべきだし、そうすることで不必要な器具の断捨離もできる。

電動缶切りしかり、炊飯器しかり(そう、みなさん、炊飯器はいりません。どうか怒りの投書を出さないで!)。

大きいキッチンより小さいキッチンが好きだ。大小それぞれのキッチンで生活してきたが、食材や器具を集めてずっと歩き回るよりも、すべて手の届く範囲内にあるほうがよっぽどいい。

以前、とても広いキッチンのアパートに住んでいたとき、夕食づくりではかなりくたびれたものだった。

見晴らしはいいにこしたことはないが、ダイニングやリビングと隔てる壁がない「オープンキッチン」という概念は嫌いになりつつある。

来客と取るに足らない会話を交わす必要がなく、1人で料理するほうが、私は断然好きだ。

家中ににおいを充満させずに自由に魚を揚げられるし、誰かに見られることなく赤ワインを1杯余計に飲んだり、カキの殻をむくついでに、2、3個すすったりできる。

それって、そんなに悪いことじゃないですよね?

キッチンがどう見えるかを気にして時間と労力をかけすぎ、華美な冷蔵庫やオーブンにお金を使いすぎてしまったら、料理によくない影響が出ないだろうか。

いっそのことフランス人を見習って、キッチンが設置され、調理機器が備え付けられた当時のままにしておくべきか。見た目から、それは1978年といったところだが……。

(訳・菴原みなと)