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「福祉×デジタル」で子どもを全肯定! スタートアップ「Lii」が仕掛ける新感覚の運動ビジネス

スタートアップワールドカップ 更新日: 公開日:
スタートアップW杯名古屋予選で優勝したLiiの廣瀬あゆみCEO=2026年4月23日、名古屋市の岡谷鋼機名古屋公会堂、玉川透撮影

2026年4月に名古屋市で開催された「スタートアップワールドカップ(W杯)2026」名古屋予選で優勝の栄冠に輝いたのは、発達障害のある子ども向けに独自の運動療育を展開するスタートアップ「Lii(リィ)」(名古屋市)でした。デジタルコンテンツを融合させた独自の運動プログラムを武器に、全国に店舗を広げています。今秋に米サンフランシスコで行われる世界決勝へ日本代表として挑む廣瀬あゆみ・代表取締役CEOに、創業までの激動の歩みや、世界を変える「運動」への情熱について聞きました。(聞き手・玉川透)
スタートアップW杯名古屋予選でプレゼンするLiiの廣瀬あゆみCEO=2026年4月23日、名古屋市の岡谷鋼機名古屋公会堂、玉川透撮影

――廣瀬さんはもともと体育の先生を目指していたそうですが、なぜ起業の道へ進まれたのですか?

学生時代は教員免許取得を目指して運動漬けの日々でしたが、転機となったのは教育実習です。大人数を一斉に指導し、評価を伴う学校教育の場では、運動が苦手な子が周囲の視線にさらされプレッシャーを感じてしまっていたのです。

全員に同じ枠組みを当てはめる教育現場に限界を感じ、一度教員になる夢を諦めて民間企業への就職を選びました。

新卒で大手通信企業に入社した後は、結婚を機に名古屋へ移住し、学校法人で「習い事付きの学童保育」を立ち上げる新規事業を担当しました。

その後、妊娠・出産を経て、医療・福祉系のベンチャー企業へ転職。経営者の顔が見える規模の会社で、リブランディングや人材採用、広報の責任者を務めました。

――医療・福祉ベンチャーでの経験から、どのように起業へつながったのでしょうか。

業界に飛び込んで、福祉が絶対に必要な社会インフラであると痛感した一方で、現場の深刻な人手不足とミスマッチに強烈な違和感を覚えました。理念のすり合わせがないまま条件だけでマッチングし、早期離職を繰り返す現状に危機感を抱き、「未来の若い世代が誇りを持って働ける仕組みをつくりたい」と、2018年、29歳の時に起業を決断しました。

当初は福祉特化の人材紹介やスポットワークのサービス開発に乗り出しましたが、2020年にコロナ禍が直撃。福祉現場へのアプローチが完全に遮断され、キャッシュが底を突く崖っぷちに追い込まれました。

その時、国から支給された200万円の持続化給付金をどう使うか迫られ、私たちは「目的のために、手段をPIVOT(事業転換)させよう」と決意したのです。

――そこから現在のLiiのビジネスモデルへ、どのように行き着いたのですか?

もう一度、私たちがやりたかった「福祉で働く人を幸せにする」「エッセンシャルワーカーが誇りを持てる世界をつくる」という原点に立ち返りました。これまでは人材紹介やマッチングという“外側からのアプローチ”をしていましたが、それならいっそ、自分たちで理想の施設をつくろう、と。

自分たちが、人が集まり、働くスタッフが最高に幸せで、どんどん勢いよく展開していく旗振り役(体現者)になればいい。その姿を見て周りがまねをしてくれたら、良い流れが福祉業界全体に広がっていくはずだと考えたのです。

では、自分たちが提供する具体的なサービスは何かと考えたとき、私の学生時代の原点である「運動・スポーツ」が鮮やかにつながりました。福祉の支援が必要な子どもたちに対して、運動という手段を用いて最高のサービスを提供する。これだ、と直感しました。

――「運動×障害福祉」という領域へシフトするにあたり、恐怖や迷いはありませんでしたか?

夜な夜な競合調査を進めたのですが、調べれば調べるほど「これは勝てる」という確信に変わっていきました。当時の障害福祉業界はビジネス感覚が非常に弱く、福祉業界での経験がある方がボランティアの延長や社会福祉法人の感覚で事業所を運営しているケースがほとんど――私にはそう感じられました。

ビジネスマンとしてのマーケティングや事業開発、データ分析の視点を持っていけば、確実に圧倒的な価値を提供できるブルーオーシャンだと確信しました。

すぐに、前職の福祉ベンチャーでお世話になった方に、「この事業をやろうと思う!」とLINEを入れました。そこから緊急事態宣言下の2020年5月に物件を借り、プログラムの開発を進め、4カ月後の9月には1店舗目をオープンさせました 。

――わずか4カ月の開発期間! 独自の運動プログラムや、要となっているデジタルコンテンツはどのように開発されたのですか?

最初は私がゼロから全て発表用ソフトで作りました(笑)。学生時代に学んだ知識をベースに専門書を読みあさり、「この年齢の時期にはこういう身体能力を伸ばすべきだ」という要素を細かく抽出していったのです。

例えば、世の中にある幼児教育の紙の教材(点つなぎや絵合わせなど)を参考に、「これを全て体を動かしてクリアするルールにしたらどうなるか?」と、全身を使う遊びへと変換していきました。

当時、我が子がちょうど事業所に来る子どもたちと同じ年齢だったので、イラストを描いて発表用ソフトに落とし込み、レンタルスペースを借りて子どもに実際にやらせてみては「本当に楽しめるか」を何度も泥臭く検証しました。

オープン当初は数十種類だったプログラムも、毎日通ってくる子どもたちの特性(視覚的な変化に反応しやすい、など)に合わせてスタッフみんなでアップデートを重ねていきました。スタッフが「次は恐竜を出したら喜ぶかも」「ハンバーガーをつくる動きを取り入れよう」とアイデアを出し合い、今ではなんと2000以上のプログラムが蓄積されています。

――そんな膨大な数を、全国の店舗で働くスタッフがどのように使いこなしているのでしょうか。

そこにこそ、私たちが注力した「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と独自のシステムがあります。 

膨大な2000のコンテンツは、子どもの年齢、鍛えたい感覚(バランス感覚、視覚、三半規管など)、子どもの好みのテーマ(車、動物、宇宙など)ごとに、巨大なマトリックスシートとしてデータベース化されています。

店舗のコーチがシステム上で子どもの特性や強化したい項目を選択するだけで、その子やその日のクラスに最適な世界に一つの運動プログラムが自動的に抽出・生成される仕組みを構築したのです。

これによって、福祉の専門的な知識がまだ浅い若いスタッフであっても、全国どこでも「子どもたちが汗だくになって心の底から楽しめる、質の高い科学的なプログラム」を担保できるようになりました。

スタートアップW杯名古屋予選で優勝したLiiの廣瀬あゆみCEO(中央)=2026年4月23日、名古屋市の岡谷鋼機名古屋公会堂、玉川透撮影
スタートアップW杯名古屋予選で優勝し歓喜するLiiの社員たち=2026年4月23日、名古屋市の岡谷鋼機名古屋公会堂、玉川透撮影

障害は子どもではなく「機会を提供できない社会の側」にある

――予選のプレゼンテーションでは、「発達障害のある子どもたちが、一般的なスイミングスクールや体操教室、幼稚園から『対応できないから』と断られたり、排除されたりしている現実がある」というお話が非常に印象的でした。

実際に事業所を開設して、内覧会や体験会で保護者の方々の生の声を聴いたとき、その排除の深刻さに私自身も激しいショックを受けました。

発達障害のある子どもたちは、力が強すぎて物を思い切り投げてしまったり、嫌なことがあるとパニックになって手が出てしまったりすることがあります。そのため、一般的な習い事の現場からは「周りの迷惑になるから抜けてください」と拒絶されてしまうのです。

しかし、問題は子どもの障害そのものにあるのではなく、ありのままの子どもを受け入れ、適切な機会を提供できない「社会の側、環境の側」にこそあります。

――Liiに来ることで、子どもたちや親御さんにはどのような変化が生まれるのでしょうか。

先日もある保護者の方が、涙を流しながらうれしいエピソードを教えてくださいました。そのお子さんは、力が強すぎて周囲からずっと「動いちゃダメ」「強く投げちゃダメ」と行動を抑制され続けてきたそうです。

でもLiiに来たとき、私たちのコーチは「うわぁ、投げるのがめちゃくちゃ上手だね! もっと強く投げてみよう! 次はあそこを狙ってみよう!」と、その子のエネルギーを100%肯定して、引き出したのです。

その子は、ありのままの自分を初めて大人に全肯定されたことがうれしくて、泣きながらお母さんに「僕、もっと強くなれるんだ!」と報告してくれたそうです。

子どもは本来、動物として動くことが大好きな存在です。抑制されずに、子どもらしく動くことを肯定される場所が、今の社会は少なすぎます。

それまで「跳び箱を見るだけで逃げ出して泣いていた」という子が、Liiに通ううちに動く楽しさを知り、幼稚園の体育の授業でみんなの前で「跳び箱の見本」を見せるまでになった、という報告もありました。

園の先生から「一体どこで習ってきたんですか!?」と驚かれた――そんな感謝のメッセージを、お母様から年度末の卒業のタイミングで山ほどいただきます。親御さんも子どもも、ありのままを肯定されることで、本当に救われるのだと私たちが教えてもらいました。

Liiのスタッフと運動を楽しむ子どもたち(Lii提供)
Liiのスタッフと運動を楽しむ子どもたち(Lii提供)

――2022年には、会社のミッションや目指す旗印をさらに大きな場所へ移されました。

日々子どもたちが運動で劇的に変わっていく姿を見る中で、「運動の持つ力」のすさまじさを確信しました。そしてふと足元を見た時、子どもたちと一緒に毎日汗だくになって運動しているうちの社員たちが、全員ものすごく心身ともに生き生きとして、最高の状態であることに気づいたのです。

「これって障害福祉だけの話じゃない。全人類、もっと運動した方が絶対に幸せになれる!」と視野が開けました。

極論、世界中の人々が今より1分でも多く運動して、心身ともに寛容で良い状態をつくれば、そもそも誰かを救うための「福祉」という制度自体が必要のない世界が来るかもしれない。

私たちは単なる「福祉の会社」にとどまるのではなく、「世界中に運動を広げる会社」になろうと、2022年に旗印を大きく掲げ直しました。

その時にベンチマークとして設定したのが、あの「ナイキ(NIKE)」です。

今の現代社会は、座ったままで情報が手に入り、ボタン一つでご飯が届き、一歩も動かずに仕事が完結します。下手をすれば、1日の身体活動が「椅子とトイレの往復だけ」という生活だって送れてしまう。

でも、人間は本来、動物です。私たちは、テクノロジーと面白さ、楽しさを掛け合わせることで、現代人が失ってしまった「本来の動物としての本質的な営み(運動)」を日常に自然に溶け込ませる秘密を、社会にたくさん仕掛けていきたいと考えています。

スタートアップW杯名古屋予選でプレゼンするLiiの廣瀬あゆみCEO=2026年4月23日、名古屋市の岡谷鋼機名古屋公会堂、玉川透撮影