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スペインで繰り広げられる「反移民」を訴える政党 vs.「反うわさ戦略」の攻防

World Now 更新日: 公開日:
反移民を掲げる地域政党「アリアンサ・カタラナ」を支持する人々。左から2番目がシャビエ・フェレさん=2026年1月、スペイン・ムリンス・ダ・レイ、秋山訓子撮影

スペインでは「反移民」を訴える政党が勢力を伸ばしている。一方で、対抗する自治体やNPO発の動きが始まっている。その最前線を見た。

スペインのアンダルシア州は南部にあり、地中海に面している。地中海を挟んで向かいのモロッコをはじめ、アフリカ大陸から移民が来る。

2018年12月に行われた同州の州議会選挙は、スペイン中に驚きを与えた。非欧州系やイスラム系の移民に厳しい態度を掲げる政党「VOX」が、一気に12議席を獲得。初めて州議会レベルで議席を得たからだ。

VOXとはラテン語で「声」。同党のウェブサイトは「VOXは常識の政党であり、何百万人ものスペイン人が家庭で考えていることを代弁する政党。政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)の息苦しさと闘う唯一の政党です」とうたう。

スペインは2000年代の経済成長のもとで移民が急増した。スペイン統計局によれば、外国生まれの人口の比率は2006年は10.8%だったのが、2025年は19.3%に。2008年の金融危機以降も移民の流入は続き、2015年には難民が急増して「難民危機」が起きた。

「反移民」を掲げるVOXは全国の州議会に議席を広げ、国政にも進出。その後も反移民を掲げる政党が生まれている。たとえばカタルーニャ地方の地域政党「アリアンサ・カタラナ」(カタルーニャ同盟、AC)だ。ACはカタルーニャ独立と反移民を掲げて2020年に創設、急伸している。

リポイ市長でACを創設したシルビア・ウリオルスさん=2026年1月、スペイン・リポイ、秋山訓子撮影

ACの創設者で、今はカタルーニャ州北部リポイ市の市長と、カタルーニャ州議会の議員を務める(スペインでは兼務が可能)シルビア・ウリオルスさん(41)が、政治に関心を持つきっかけは、2017年のバルセロナ市などでのテロ事件だった。暴走する車が遊歩道に突っ込み、観光客ら16人が亡くなった。この犯人グループの多くがリポイ市に住むモロッコ生まれの移民の若者だった。実行犯は全員、射殺などで裁判前に死亡した。

当時の報道によれば、市長は「この町で育った普通の若者たちがなぜテロに関わったのか、住民には理解しがたい」という趣旨の発言をした。これに対し、「犯人に同情的すぎる」という批判も出た。ウリオルスさんも同様だ。「非常に不信感を持ちました。移民に厳しく対応すべきだと思ったのです」

「やっと本当のことを言ってくれる政治家が」

2019年に他の政党から出て市議になったが、「反移民の言説を止められた」ので、自ら政党を設立。2023年の市議選では第1党になり、市長に就任。「私たちは、それまで人々が思っていたけれども、誰も言わなかったことを勇気を持って口にしたのです」。ACの支持者、シャビエ・フェレさん(30)も「やっと本当のことを言ってくれる政治家が現れた」。

ウリオルスさんは市長に就任すると、市営プールでのブルキニ(イスラム教徒の女性が着用する、手足と顔以外を覆う水着)着用を禁止、イスラム教徒向けに行っていた市の食肉処理場でのハラル対応をやめた。「ここに住みたいなら、私たちのやり方に合わせるべきです」

誤った言説を正す「反うわさ戦略」

こうした反移民の動きに対して、「差別的な言説も流布されている」と、2010年にバルセロナで始まったのが「反うわさ戦略」だ。NGOや市民と連携して、移民や外国人についての誤った言説を正し、構造的な問題にも向き合おうという活動だ。今では全国に広まっている。

アンダルシア州でも、NGOの連合体「スール・アコヘ」が「ストップうわさ戦略」に2013年から取り組んでいる。コーディネーターのホセ・ミゲル・モラレスさん(50)によると、活動は3段階で変化してきたという。「初期は、データが物語を打ち負かすと考えました。移民に対するゆがんだ物語に対し、それは違う、事実はこうだという反論を『反うわさエージェント』と呼ぶ市民やNGOたちに広めてもらい、ネットでも発信したのです」

スール・アコヘのホセ・ミゲル・モラレスさん=2026年1月、スペイン・セビリア、秋山訓子撮影

しかし、それでは不十分だとわかったという。「データは大事ですが、人々の心や感情は動かされない。学術的にもそう言われていますし、ヘイトスピーチの様子を見ればそれが理解できます。憎悪の表現は理性的ではなく感情的です。そこで、直接の交流によるワークショップや対話に力を入れるように」。今年からはさらに「双方向型」の活動をしていきたいという。「私たちから一方的に情報を提供するのではなく、地域でこんなうわさが広がっている、こういう活動はどうか、などと提案してもらいたい。参加意識や当事者性を高めることが大事だと思っています」

政治へのキャンペーンにも力を入れる。2019年の総選挙の前には、「その口に気をつけて」と書かれたリップクリームを政党に渡し、有権者にもデマ拡散の防止を呼びかけた。「政治家には、共生を促進し人種差別をしないために、公の言論に責任がある、と呼びかけました」。今年予定されているアンダルシア州議会選挙でも、リップクリームのキャンペーンを行う予定だ。

移民と地元民が一緒に

地域で地道に共生に取り組む人々もいる。セビリア市郊外の団地で女性の支援を行うNPO「さまざまな世界の女性たち」は、ナイジェリアからの移民女性、グロリア・ピーター・エケレウエムさんが設立した。特徴は地元民と移民が一緒に活動している点だ。

「さまざまな世界の女性たち」を設立したナイジェリア出身のグロリア・ピーター・エケレウエムさん(「さまざまな世界の女性たち」提供)

コーディネーターのアンドレア・サンチェスさん(41)は、「同じ出身地の移民だけで固まってしまうのが一番良くない。いかに地域に開いて問題に一緒に取り組んでいけるか。お茶会を開き、介護労働のための研修や講習会を開いています。一方的に助ける、助けられるという関係ではありません。お互いに学ぶことはたくさんあります」。支援される側だった移民が経験を積み、講師役を務めることも多い。

「さまざまな世界の女性たち」のアンドレア・サンチェスさん=2026年1月、スペイン・セビリア、秋山訓子撮影