はびこるフェイクニュース 移民抜きには成り立たない韓国で 政治がヘイトあおる
2024年12月3日深夜、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(当時)が唐突に宣布し、世界を驚愕(きょうがく)させた非常戒厳。6時間後には解除され、尹氏は大統領を罷免(ひめん)された。
罷免を拒否する尹氏の国民に向けての談話に、「中国」への言及があった。野党が国家安保と社会安全を脅かしているとし、スパイ罪の改正に対する野党の反対を取り上げ、中国人が関連する事件2件を具体的な例に挙げた。「中国製の太陽光施設が全国の森林を破壊するだろう」とも訴えた。
これに対し、中国系移民が多く住む京畿道の道議会議員(「共に民主党」選出)、柳浩準(ユ・ホジュン、31)さんは「あれ以降、中国に対して公的な場でも何を言ってもいいんだという雰囲気になってしまった。権力のトップからのヘイトだった」という。
やはり中国系移民が多く住むソウル市内の九老区で移民支援のNPO代表を務め、自身も中国出身の朴東燦(パク・ドンチャン、29)さんは「非常戒厳以降は、フェイクニュースにもとづくヘイトがはんらんするようになった」。朴さんは1920年代に5代前の先祖が朝鮮半島から中国に移住。朴さん自身は大学から韓国に住み、永住権を得たいと願うが、年収要件が満たせないという。「参政権がないために、私たち少数派の声が政治に届かない。不公平だと思う」
日本よりも急激な少子化が進む韓国は現在、移民が人口の約4.2%の216万人。うち87万人が中国人だ。全ての産業が移民抜きでは成り立たない、というのは一致した見方だ。
2005年には永住外国人に地方参政権を付与する法律が成立した。当時は特に反対もなく、与野党共に賛成。だが、移民が増えるにつれて、中国人をはじめとする外国人へのヘイトが見られるようになってきた。「中国人は税金を払わない」「韓国人より優遇されている」……。ネットにはこの種の言説があふれる。
「フェイクばかりです」。九老中学校の教師、朴福姫(パク・ボクヒ、58)さんと、朴の元同僚で、現在は同区の多文化教育支援センターで教える韓采旻(ハン・チェミン、36)さん。学校の前に「中国人留学生はスパイ」と書いたプラカードを掲げたデモ隊が来たこともあった。「子どもたちは、自分たちが歓迎されていない、と傷つくんです」
2025年4月の九老区長選挙では、「九老区は5万人以上の外国人が暮らしており安全の危機だ」と主張し不法移民の強制送還などを唱えた候補が3割の得票を得て次点に。
「中国人は出て行け!」。過激なヘイト表現の横断幕が堂々と街中に張られる。尹政権下の2022年に改正された屋外広告物規制法は、環境美化のために屋外広告を規制したが、政治活動を例外とした。このため「ヘイトの広告におすみつきを与えてしまった」と、移民支援のNPO代表を務める林善英(イム・ソニョン)さん。
今年6月の統一地方選を前に、「国民の力」の張東赫(チャン・ドンヒョク)代表は、ポータルサイトなどに政治のコメントを寄せる時は「国籍を明らかにするという制度を設けるべきだ」と主張した。ただ、国会では同党は少数のため、成立する可能性は低い。
ならば、と同党が多数を占めるソウル市議会で、ソウル市に苦情などを寄せる際に国籍を書けるようにする条例案が提出されている。提出の中心となった李鍾培(イ・ションベ、47)議員は「ソウルは外国人観光客が多く、彼らが苦情を入れる際に国籍がわかればより正確な対応ができる。それから、中国や北朝鮮による世論の歪曲(わいきょく)が行われていると思われるので、それを防ぐため。ソウルでモデルを示して、国の制度につなげたい」と説明する。同党は、永住外国人の地方参政権の取得要件を厳格化する法案も提出している。
ただ、地方の実情はソウルとは違う。多くの外国人が住む京畿道は、広域自治体として初めて「移民社会局」を設立し、共生を促す条例が次々に成立。担当部局に寄せられた反対の声はメール1通だけだという。地方のほうが、よりリアルに人手不足や人口減を実感しているせいもあるだろう。
道議会は与野党が伯仲しているが、「国民の力」が提案した共生のための条例もある。道議会の同党の会派代表、白鉉宗(ペク・ヒョンジョン、60)議員は「韓国に移民が必要なのは事実だし、多様性を受け入れるべきだと考えている」。
現在の李在明(イ・ジェミョン)政権も、ヘイトの横断幕の規制を厳しくする方針を発表している。