来年の大統領選の有力候補のなかでも、最近立件されたり裁判が進行中だったりする候補もいる。韓国の社会や経済、K-POPやドラマといった「韓流」の躍動性を表すのに「ダイナミック・コリア」という言葉があるが、必ず何かしらの事件と関わる歴代大統領をみると、この言葉は政治の世界にも当てはまりそうだ。大統領選が敵と味方を分けてそれだけ激しく闘われることの裏返しだろう。銃声のない戦争。今、ぞれぞれの政党が党の候補を決める戦いのまっただ中だ。
■「男は陸士か法学部に」
1987年の夏。大学入試を控えた私に、口数が少なかった父が、こんなことを言った。「男は陸軍士官学校(陸士)か法学部にいかないとな」
北朝鮮に故郷を持ち、16歳で植民地時代からの解放を迎え、20代では朝鮮戦争を経験した父。家族を北朝鮮に残し、困難な時代を韓国で1人生きてきた父が、生きていくためにはどうしたらよいのか、自らの人生を通して得た教訓が陸士と法学部であり、それを私に示してくれたのだろう。
「陸法時代」という言葉が、かつてあったほどだ。陸士を卒業して軍人になったり、法学部を出て法曹人になったりすれば、雇用は安定し、出世もできる、というほどの意味だ。しかし、歴代大統領に限ってみると、この言葉もどうやらあやしいことが分かる。
1960~70年代に大統領だった故朴正熙氏は、日本の陸士出身だった。80年代に大統領を務めた全斗煥氏と盧泰愚氏は、ともに韓国の陸士出身で、この3人による軍出身者の統治は30年以上に及んだ。朴氏は側近に銃で撃たれて死亡。全氏と盧氏は収賄罪などで有罪判決を受けて収監された。
朴氏の長女である朴槿恵氏が大統領になり、その後、逮捕された日、知人の外国メディアの記者が、私にこう言った。「韓国では、大統領を退任すれば必ず刑務所に入るか自殺などの不幸が襲う。それなのにどうして大統領になりたい人がいるのか分からないね」
こんな言葉もある。「政治をするということは、刑務所の塀の上を歩くことだ」。権力を得て維持するなかでは、法を守るということがそれだけ難しいという意味だ。大統領の場合、権力が強力であるだけに、後で取らなければならない責任もそれだけ重くなる。
現職の文在寅大統領も、2018年に行われたある市長選で30年来の知己が当選した際、そこに何かしらの介入をしていたのではないかという疑惑が持ち上がったこともある。
陸士と政治の関係をざっと眺めてみたが、さて、法学部の方はどうだろうか。法学部出身者が出世への近道だというのは、今も生きている。文政権を支える与党「共に民主党」の大統領候補を決める予備選でトップを走る李在明・京畿道知事、2位の李洛淵・元首相は法学部卒業だ。最大野党「国民の力」の有力候補の尹錫悦・前検事総長、それを追う洪準杓議員も法学部出身だ。
しかし、それぞれが法律問題に直面している。李知事は過去の飲酒運転などの罪で他陣営からの批判を受けており、俳優の女性から損害賠償訴訟を起こされ裁判中でもある。最近では、不動産開発をめぐる疑惑も持ち上がっている。尹氏も、職権乱用や公職選挙法違反などの容疑で捜査機関のメスが入っている。今や、大統領になった後ではなく、なる前から「塀の上」を歩いているといった状況だ。
私はこれまで6人の大統領候補に票を投じてきた。今の世論調査の支持率などをみると、7人目は、どうやら法学部出身者による対決の構図になりそうだ。私はあえて、法学部出身であるという点に期待をかけてみたい。大統領になって公約の実現によって大きな成果を挙げることができなくても、法律の条文を今からもう一度、すみずみまで読み返し、法を犯すことだけはないよう、退任後がそれでも幸せな大統領になれるよう。まだ当選もしていない段階で、先走っているかもしれないが、こう願わざるをえない。
「大統領候補者たちよ。法を守ってください!」