「中間管理職がいない」会社で働くとは? メガネ21社員が語る新しい組織の現実

西日本を中心に直営・フランチャイズ合わせて約100店舗を展開するこの会社は、1986年の創業時から社長以外の管理職をいっさい置いていない。
創業者の一人で、現在「相談役」の平本清氏(75)は、狙いをこう説明する。「素晴らしい管理職ならみんな幸せだが、実際は素質のある人間は少ない。肩書がつくと人は自分がえらくなったと勘違いする。いっそのこと役職はない方がいいと考えました」
別の大手眼鏡チェーンで管理職を務めていた平本氏は、世襲の2代目社長に代替わりした際、経営方針が相いれず解雇された。同じ境遇の元社員と設立したのが「21」だった。
平本氏は当時をこう振り返る。「世襲による経営者の交代劇で社員の幸福度が大きく左右される現実を目の当たりにしました。一部の人間だけが利益を享受する従来型の経営モデルに疑問を抱くようになりました」
その経験が異色の経営スタイルにつながった。平本氏らは設立当初から社員全員が「管理職」という意識を持つことで、管理職や社内競争が不要な仕組みを目指した。
唯一の管理職である社長は、「任期4年の交代制」だ。
社長だからといって特に大きな権限はなく、一般社員と同じように店舗での仕事をこなす。差異は、クレームやマスコミ対応、社員全体を見回してサポート役割を担うぐらい。2022年に10代目社長に就任した田川亮氏(42)は、自身を「調整役」と捉えている。
また、一般企業なら欠かせない「目標設定」「ノルマ」「人事評価」を全てなくした。社員の給与は、入社年次が同じなら同じ金額となり、社内サイトですべて公開される。
経営陣が担うべき経営方針は、社員からの提案に基づいて決定される。
社内サイトに提案を公開し、反対意見が出た場合は提案者と反対者が議論を重ねる。最終的には提案に賛成した者が資金を出し合い、新たな事業を立ち上げることも可能だという。「このシステムは、社員に責任感と当事者意識を醸成し、自発的な行動を促す効果がある」と、平本氏は言う。
約120人の社員は30代が中心だが、彼らは異色の経営システムをどう捉えているのか。
自動車販売の営業職から転職した川野千春さん(41)は、当初かなり戸惑ったという。「前職では情報の隠蔽や細かい規則が多く、上司の顔色をうかがいながら仕事をする必要がありました。この会社では社員の給与や会社の預金残高まで全て開示されているのに驚きました」
社内の風通しの良さを認めつつ、管理職がいない故の難しさも感じているという。例えば、組織に損失を与えるリスクをはらむ提案がされても、反対意見がなければそのまま通ってしまう。「年上の同僚に意を決して反対しなくてはいけない場面があり、その難しさを痛感しました。普通の会社なら、そんなとき管理職が暴走をとめてくれるのに」
同社では、こうした人間関係のギクシャクに対応するため、「ギブアップ制度」というユニークな仕組みを採用している。一緒に働くスタッフとの価値観が合わない場合、誰でも社内サイト上で「この人と一緒に働くのは難しい」と発言できる。この制度を発動すると、対象となった社員は部署を異動することになるという。
21のような組織形態は、「ティール組織」「ホラクラシー」などと呼ばれ、1990年代以降、米国のベンチャー企業などを中心にブームになったが、実際の導入は難しいともいわれる。
21も組織の運営に課題がないわけではない。20年以上前に一線を退いているとはいえ、最終的な経営判断はカリスマ的な存在である相談役・平本氏の影響力が依然として大きい。社長の田川氏は、そのことを認めつつ、こう言う。
「管理職がいないことで、経営の指揮をとる人材が明確でない場合があります。とくに相談役の平本が不在になったとき、誰がどのようにリーダーシップを発揮するのか。私たちの真価が問われると考えています」