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【岡俊子】「ムラ社会」の日本企業を変えるカギは、保守的な中間管理職を変えること

令和の時代 日本の社長
アビームM&Aコンサルティング在籍時代の岡俊子氏(前列左から2番目)

■女性の「インクルージョン」は道半ば

――上場企業の経営規範ともいえる「企業統治指針」(コーポレートガバナンス・コード)が6月に改定され、再びガバナンス改革が注目されています。指針は2015年に初めてつくられ、改革が進められてきましたが、これまでの成果をどう見ていますか?

「ムラ社会」のように閉鎖的な経営をしてきた日本企業が、明らかに変化してきたと思います。ようやく株主に目を向け、環境や人権にも配慮するようになってきました。ガバナンスの「かたち」は整ってきた印象ですが、まだ「質」が伴っていない会社が多いと思います。

日本企業の中枢って、結局、「中高年の日本人男性」ですよね。その人たちで、ほとんどの物事を決めている。取締役会というのは意思決定するところなので、「日本人男性以外は入れたくない」のが本音かもしれません。

最近、ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)が重要だと盛んに言われます。多様な人たちに機会を与える「ダイバーシティ」は多くの企業が積極的に取り組んでいますが、それらの多様な人たちがお互いに個性を認め合って、一体となって働くという「インクルージョン」の方は、まだ道半ばだと思います。

社外取締役をめぐっては、企業統治指針の適用により、本音はどうあれ、社外取締役に女性を入れるなどダイバーシティは確保されるようになりました。しかしながら、本当の意味で社外取締役を「インクルージョン」しているかというと、そこは会社によって温度差があるように思います。

女性に関して言うと、いまは社外から女性の社外取締役を登用する企業がほとんどです。今後は、社内事情にも詳しい、内部出身の優秀な女性を登用していくことが望まれます。

■「社外取締役がいる会議では情報出すな」

――「かたち」は整ってきましたが、ガバナンスの「質」を高める必要がありそうですね。たしかに、私自身、記事にしないオフレコ取材の場では、経営者から「社外の人にはうちの事業や人材が分かるわけがない」という本音を聞くことがあります。こういった意見については、どうお考えですか?

そういう本音はあるのでしょうね。最近、こんな話を社外取締役をしている知人から聞きました。

ある会社の取締役会で、社長が交代した途端に議論が活発になったそうです。その知人が不思議に思いまして、社内の役員に聞いてみたところ、「前社長から『社外取締役が入っている会議では、あまり多くの情報を出さないように』と言われていたのです」と、率直に打ち明けてくれたそうです。

それまでは、社外取締役の立場から意見を述べても「貴重なご意見をありがとうございます」のひと言で終わっていたとのことです。新しく就任した社長は「社外取締役を交えて活発に話し合っていこう」と方針を変えたようでした。

――いまのお話に出てきた前社長さんのような経営者は、決して珍しくないかもしれません。多くの日本企業の経営者は、社外取締役から、社内のことに「口出し」されることに慣れていないですね。

社外取締役が社内のことに踏み込んでくると、当然、社内の執行サイドからは抵抗もあるでしょう。その場合、社外取締役の数を増やし、複数いることは意味があります。社外取締役は、企業という組織ではやはりマイノリティーですよね。1人ではなかなか声をあげにくいものです。でも、複数になると、それなりの主張ができるようになります。改定された企業統治指針では、社外取締役を増やすことを求めていますが、「数を増やす」こと自体にも意味はあると考えています。

――一方で、社外取締役の人数だけを増やす「数合わせガバナンス」だと、まったく意味がないですね。

多くの日本企業の経営者にとって、「社外取締役」といえば、「外部からの意見を参考にさせてもらう」という存在ではないでしょうか。役に立つ助言をしてもらうアドバイザリーボードの役割です。日本企業の取締役会の多くは、経営の「監督」と「執行」の2つの機能が一体となっていましたが、これからは、米英企業のように、「執行」と「監督」をしっかり分けて、取締役は経営を監督するモニタリングボードになっていくべきですね。社外取締役の仕事は、言ってしまえば「数年限り」です。言いたいことを言わないで終わるよりは、社内の人に嫌われるような意見も言った方がよいと思います。社外取締役の「不作為の罪」は大きいと思います。

■「いつかは取締役」を見直そう

――日本企業では「会社員たるもの、いつかは取締役に」という思いが根強く残っているだけに、「経営をモニタリングするのが取締役だ」と言われても、ピンとこないかもしれません。

そこは、マインドを相当変える必要がありそうですね。かつては、出世して取締役になることが「会社員人生のゴール」という意味合いがありました。取締役が「経営を監督する」役割であると位置づけると、「執行役」がゴールになるわけです。ところが、とくに年配男性の人たちを見ていると、「執行役っていう中途半端なポジションがゴールなの?」という感覚が抜けきらないようで、執行役止まりだと「ランク落ち」した感じがしてしまうらしいのです。

企業統治指針が適用された2015年ごろから、多くの企業は取締役の人数を大きく減らすようになりました。当時、みなさん、「目標としてきた取締役というポジションが減ってしまった」と不満を口にされていました。ゴルフに例えると、「グリーンの面積が小さくなった」というイメージでしょうか。でも、いまや取締役というポジションの位置付けや役割が変わったことを認識するべきです。取締役会は、経営を監督するモニタリングボードなのです。

■変わるカギは「中間管理職」世代

――岡さんは、社外取締役などの立場から、たくさんの日本企業をご覧になってきましたが、ガバナンス改革を実効性あるものにするのは、どうしたらよいでしょうか?

今後、日本企業が変われるかどうかは「中間管理職」世代がカギを握っていると思っています。

――経営層ではなく、「中間管理職」ですか?

そうです。中間管理職の人たちです。社外取締役として企業に出入りしていて、「いまの中間管理職の世代は、経営や企業のあり方について、すごく保守的だな」と感じることが多いです。

こんな話を聞きました。各メディアや経済団体などから、社長やCEOへのアンケートの要請がありますよね。社長は極めて忙しいですから、回答の「土台」となる原案は、社長室のスタッフや経営企画の担当者が作成し、それを社長がチェックして最終的な回答をまとめる、という作業の流れはどこでも一般的だと思います。

部下たちは「社長はこう思うだろう」「うちの会社はこういうスタンスだろう」と、社長の立場になって原案をつくるのですが、ある社長はそれを見て、「(中間管理職が作成した原案が)あまりに保守的な内容で驚いた。すぐに原案を自分で手直しした」と語っていました。

経営層は、いや応にもガバナンス改革の風圧・外圧にさらされているので、意外と世界の流れや環境の変化には敏感でもあるのです。就職を控えた大学生や、若手社員などもコーポレートガバナンスやSDGs、ESGにはアンテナが高いですね。私は大学で教鞭をとりますが、若い人は大学の授業でSDGs、ESGを学んでいて、「そういう価値観を大事にする会社で働きたい」と言います。

その真ん中にいる人たち、中間管理職の世代が取り残されているのです。この人たちは、いずれ次世代の経営を支えていくのですから、感度が鈍くてはダメです。この世代によい刺激を与えていくことが、ガバナンス改革の成否につながるカギを握ると思います。