■3カ国語が飛び交うオフィス
東京・大手町のビルにある、ファーウェイ日本法人の東京本部。ランチタイムのせいか、広々としたオープンスペースのオフィスには空席が目立っていた。自席で仮眠を取る人の姿もみえる。
通路を歩いていると、社員たちの顔写真と名前が壁に張られているコーナーがあった。写真の下には、金色の勲章があしらわれている。中国人の名前に交じり、日本人写真の名前もみえる。「成績優秀だった写真たちですよ」。広報担当の張云澤さんがそう教えてくれた。
2年前、ファーウェイ日本法人では、その高給が話題になった。
就職情報サイト「リクナビ」に公開されている、同社の大卒の月給は40万1000円。厚生労働省の統計によると、昨年の大卒の初任給の平均は約20万7000円で、その倍近くにのぼる。ソニーなどでエンジニアを対象に初任給を引き上げる動きが出ているが、ソフトバンク(大卒の初任給22万円)などと比べてもかなりの厚遇だ。
「日中英の3言語が飛び交う業務環境がまず違いますね。その中で、お客様の視点から有用な情報を見つけ、自分自身の知識として蓄積した上でお客様にフィードバックしていく必要があるので、毎日が勉強です」。同社のウェブサイトに公開されたインタビューで、昨年新卒で入社した山下実樹康さんはそう話している。
■社員の頭脳が「原油」
「資源はいずれは枯渇するが、文化は永遠である。ファーウェイには依存できる天然資源がなく、あるのは社員の頭脳だけだ。これこそが我々にとっての原油、森林、石炭なのである」
任正非・最高経営責任者(CEO)がかつてこう語ったように、ファーウェイは人材に対してなみなみならぬ投資をしてきた。財務部門だけをみても、英オックスフォードや米イエールなど世界の名門大学の卒業生が数百人在籍。2016年に採用した新入社員のうち約4割にあたる340人が、海外留学の経験を持つ。
IT業界のグローバル競争に打ち勝つため、同社は世界中で優秀な人材の獲得に奔走する。現在、世界で約19万人いる社員のうち、8万人が技術者。全社員の2割(約4万人)が中国以外の国で働いており、その約7割が現地で採用されている。
優秀な人材を獲得するため、同社は惜しみない待遇を提供している。
非上場企業のファーウェイは社員持ち株制で、業績が上がれば上がるほど社員に利益が回るしくみになっている。今では、約9万人の中国人社員が株を所有。株が持てない外国人社員に対しては、業績に合わせたポイントを付与。株は会社に8年以上勤務すれば、45歳になると会社を辞めても株を持ち続けることができる(死亡したら会社が株を買い戻す)。中には死ぬまで働かなくても暮らせるほどの資産を築いた人もいるといわれる。
■重要な資質は「使命必達」
「石などで構築された陣地である堡塁(ほうるい)は、内部の凡庸と腐敗によって容易に陥落します」
今年3月、中国・深圳の本社で開かれたファーウェイの株主総会。任CEOは、演説の最後にそう訴えた。縦の階層をなるべく減らし、現場の業務遂行力を上げるなどの組織改革に取り組むと強調。「凡庸な幹部やリーダーは淘汰します」と檄を飛ばしたうえで、こう加えた。「米国に追いつき、追い越し、勝利の旗を打ち立てましょう」
成果主義を重視するファーウェイでは、厳しい競争も待ち受けている。同社の社員として重視されているのが、「奮闘者」という価値観だ。志を持って奮闘し、組織のために貢献するような人を指すという。
「報われる献身」。日本法人のオフィスの柱には、そんな標語が記されている。「社員の評価は一貫して『職責に対してどれだけ結果を出したか』を基準にしている」「献身的な社員を十分に評価することで、その能力とモチベーションを最大限に高められる」などと、日本語と英語で書かれていた。
「『奮闘者』として備えなければならない最も重要な素質の一つは『使命必達』です」。ファーウェイ日本法人の副社長で、人事本部長の徐章頴氏はそう指摘する。
徐氏によると、創業期のファーウェイは資金が乏しく、社員に給料を全額支払えないこともあった。社員たちは実験室で寝泊まりしながら、全力で開発に取り組んでいたという。徐氏は「社員一人ひとりが耐えがたき困難と戦ってきたからこそ、今日のファーウェイがある」と述べた。
ファーウェイは中国でも高給で知られる人気企業だが、残業の多さなどその激務ぶりでも知られている。社員の平均年齢は37歳前後。45歳以上の社員が退職後も同社の株式を持ち続けられるという制度は、中高年社員の退職を促す面もあるといえる。
「ファーウェイでは部下のほうが上司より優秀だ。上司のほうが優秀なら、部下はいらない」。同社の状況を知る関係者はそう話したうえで、こうつけ加えた。「日本企業はまだゆとりがある。だが、生ぬるい状況では競争に勝てない」
- ■ファーウェイの人事評価制度について、ファーウェイ日本法人の副社長・人事本部長の徐章頴(ジョ・ショウエイ)氏が記者の質問に書面で回答を寄せました。
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