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業績評価で能力は発揮できない 米企業文化を変えたUCLA教授のマネジメント論

World Now 更新日: 公開日:
サミュエル・カルバート教授。ロサンゼルス郊外の高級住宅地マリブにある自宅でインタビューした

評価特集連続インタビュー#3(完) UCLAサミュエル・カルバート教授 長い間、従業員の評価制度の核となってきた業績評価を廃止する米国企業が増えている。従業員が能力を最大限に発揮できる職場環境が重要で、業績評価は逆効果――。そう訴え続けて廃止を求め、米国世論を動かす原動力になったカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のサミュエル・カルバート教授(80)が、正しい企業と従業員の関係のあり方を語った。(聞き手・山本大輔、写真も)

■会社の目的と従業員の目的は違う

まずは尋ねたい。マネジメントとは何か。マネジメントとは、人々が最高の力を発揮できる環境を作り出すこと。人々に成績をつけることが目的ではない。管理職の役割は、従業員について学ぶことに時間を割き、管理職の価値観を一方的に押しつけない。従業員が不満に思っていることがあれば話を聞き、その解消に何が必要なのかを一緒に考える。従業員はそれぞれ異なる価値観を持った存在で、目的も状況も興味も同じではない。

ところが、業績評価(Performance Review)では、企業が決めた目的が、あたかも従業員が求める目的であるかのように押しつけられる。企業や管理者による目的が、従業員の共通した目的のように見せかけている。それでは成果は生まれない。従業員がそれぞれの興味分野で最善を尽くせるようにすることが、結果的に企業にも最高の成果を生み出すことにつながるのだから。

業績評価は原則年1回。もっと頻繁におこなう企業もある。簡単に言えば、管理者による従業員の成績表だ。管理者にも色んな人がいる。企業が設定した目的に忠実だと装う者。なるべく対立を避けようとする者。自身のボスへのアピールにつなげようとする政治的な者。こうした管理者の個人的な考え方に強く影響される評価だからこそ、従業員の正当な評価を反映できないことが多い。

(評価とは)こういうものだとして、誰も問題提起してこなかった。怒り、憎しみなどがあったとしても、正確な成績表だと誰もが偽ってきた。その結果、管理者と従業員の信頼関係は劣化した。信頼関係がないと、会話も生まれないし、本心を打ち明けることもなくなる。私は業績評価を「Bullshit(でたらめ)」とした題名の著書を出版しているが、業績評価は本来の役割を見失い、信頼関係を破壊するだけのパラノイア(妄想)の制度になっていった。

企業による従業員の業績評価の欠点を指摘して全米で話題を呼んだサミュエル・カルバート教授の著書「Beyond BULLSH*T 」

従業員が自分の上司の直属の上司に一段飛ばしで問題提起できる制度を設けた会社もある。ところが企業は極めて政治的な階層社会。話したことが周囲に伝わり、結局は自身への評価で報復につながる。そうなると従業員は何も語れない。本心を話し合える環境の存在が人々の最善を引き出すことには不可欠なのに、皮肉にも業績評価がそれを妨げてきた。

■競争は社内でなく他社とせよ

米国では、こうした評価制度を廃止しようとする企業は出ているが、多くがいまだ見直せないでいる。従業員の役割は結果を生み出すことにある。管理者の役割は、それを助けること。結果を生み出せない場合でも、責任を追及するのではなく、どこに問題があるのか、どんな改善が必要なのかを一緒に見つけるための真の会話をする。社内で重要なのは競争ではなく協力だ。競争は市場で他社とやればいい。

米国ではいま、従業員を「Human Capital(人的資産)」と呼ぶらしいが、全く感心できない。従業員は人間であって、投資する資産ではない。そうした言葉遣いで企業は何か変化をもたらしたと思っているかもしれないが、収益的観点からの視点でしかない。従業員をタレントと呼ぶことも同じで、古いワインを新しいグラスで飲んでいるだけ。考え方や慣習といった企業文化が変わらなければ、本当の改革は訪れない。

ロサンゼルス郊外の高級住宅地マリブにあるサミュエル・カルバート教授の自宅は、全階吹き抜けのおしゃれなデザイン。一番下の階には自宅で仕事をするときの作業机があった

文化を変えるのは簡単なことではないが、不可能ではない。米国の銃文化は私の生きているうち、あるいは息子の世代でも変わらないだろう。しかし、同性愛への考え方は大きく変わった。

私たちはお金のためだけに働いているわけではない。異なる目的や興味をもった従業員たちは、気持ちのいいワークライフを構成できる自由を求めている。それができることが、質の高い職場なのだ。そうした従業員から最高の業績を得たいとするならば、企業は従業員を壊すようなことをしてはならない。AI(人工知能)がどんなに発達して仕事の効率があがろうとも、従業員との関係から人間性を取り除くことはできない。一人の従業員が仕事から満足を得られ、成功できるように助け合うことが、一緒に働く同僚にとっても、直属の管理者にとっても、企業全体にとっても、得られる果実を多くする。仕事とは本来そうでなくてはならないものだ。

■特集「評価なんてぶっとばせ!」連続インタビュー