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愛される人事評価の仕組み、キーワードは「納得感」

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「5人評価」をアトラエに導入した評価プロジェクト責任者の谷口孟史さん(中央)と社員たち=2019年5月、東京都内、玉川透撮影

■社員全員参加の「超360度評価」

社員のお給料は、社員全員で話し合って決める――。アクロクエストテクノロジー(横浜市)は、1991年の創業時からこの方針を貫く。副社長の新免玲子さんは言う。「給与こそ一方的に決められたくない評価の最たるもの。経営者ではなく、社員全員の話し合いで納得して決める方法を選びました」

でも、いったいどうやって?

「ハッピー査定360」と銘打った全員査定は、毎年10月に行われる。まず全社員80人が他の全員について、「見習いたい点」「改善したい点」を実名で記入する。その内容は社内のサーバーにアップされ、全員が閲覧できる。その後、社員同士が面と向かって話し合う「コメント発表会」が開かれる。

続く全体会議では本音トークが炸裂する。「○○さんは話のポイントが分かりづらい」「△△さんはプロジェクトマネジャーの割に、ポリシーが見えない」――。若手が年上の上司をばっさり、というのも珍しくないという。

でも、さすがに社内の人間関係がギスギスしませんか?

新免さんは首を横に振る。「何ができるかを客観的に話し合う、加点主義がベースにある。その上で、指摘も本音で飛び交うから、納得感も高まります」

アクロクエストテクノロジーの新免玲子・副社長=2019年5月、横浜市、玉川透撮影

会議には、着ぐるみやネコ耳で仮装して出席する社員もいるという。「お酒もOK。お祭りに近い雰囲気があります」と新免さん。会議を経て異論が出なくなったところで、全社員の「点数」を決定。独自の計算式に当てはめ、それぞれの給与額が決まる。その金額もすべて公開されるという徹底ぶりだ。

平均年齢33歳の社員たちは、どう思っているのだろう?

東京大学卒で入社3年目の片岡知泰さん(27)は、「自分の短所を見ないように生きてきたので、ずばっと指摘された時は、ウッと(ショックには)思いました。でも、後になって言ってもらえて良かったと思いました」と語った。

入社7年目の白井智子さん(30)は、先輩のアドバイスを受けてエンジニアから営業職に変えた。「アドバイスしてもらうことで、自分に対する周囲のイメージと自己イメージがだんだん合っていく感じがします」と話す。

全員査定の感想を語り合うアクロクエストテクノロジーの若手社員たち=2019年5月、横浜市、玉川透撮影

一方で新免さんは、若い世代の変化も感じている。毎年3月末、内定者を集めて「初任給公開オーディション」というイベントを開いてきた。全員が全社員の前で10分間のプレゼンをし、自分の初任給を提案する。「先輩たちを納得させられれば、いきなり高給を手にできる。これまでの最高提示額は50万円でした」

だが、今春から金額の自由提案をやめた。プレゼンは続けるが、23万~25万円の間で競わせる手法に変えた。事前にどちらがいいか内定者に尋ねると、全員が後者を選んだからだという。新免さんは言う。「自分の価値をアピールして挑戦してやろうという若い人が少なくなってきたように感じます。残念ですが、時代の流れなんでしょうね」

■「この人に評価されたい」選べる会社

自分の働きぶりを見てくれると思う同僚5人を選んで、その人たちの評価で給与が決まる――。求人サイトの運営などを手がける東証1部上場企業・アトラエ(東京都)は、そんなユニークな評価制度に昨年から取り組んでいる。

そもそも、2003年の創業時から経営スタイルが独特だ。社内に上下関係がある一般的なヒエラルキー型ではなく、会社法で義務づけられた取締役などをのぞいて肩書、序列がない。つまり上司や部下といった関係が存在しないのだ。社内の階層をなくす組織運営は「ホラクラシー」などと呼ばれ、米ベンチャー企業などに広がりつつある。

出世や昇進はないが、昇給はある。「社員が20人程度の頃は、代表らが査定する一般的なやり方でしたが、60人近くに増えて限界が見えてきました」と、評価プロジェクト責任者、谷口孟史さん(30)は言う。

「5人評価」をアトラエに導入した評価プロジェクト責任者の谷口孟史さん(右)と社員たち=2019年5月、東京都内、玉川透撮影

昨年から導入した新しい給与査定の仕組みは、こうだ。10月と4月の年2回、社員は自分の働きを理解していると思う同僚5人を評価者として選ぶ。指名を受けた5人は、①事業にどれぐらい貢献したか、②組織づくりにどれだけ貢献したか――という2点だけを評価する。その結果を独自のアルゴリズムにかけて、給与額をはじき出す。

アルゴリズムには、検索サイト「グーグル」のページランクの仕組みを参考に、周囲からの評価が高い人による評価は重く、逆に評価が低い人からの評価は軽くするなど、全体として評価の公平性を保つ仕組みを入れているという。

導入したばかりでまだ2回試したにすぎないが、社内の反応は上々だという。全社員が評価者になりうるため、他の社員への関心が増すといった意識改善の効果も見えているという。

外資系コンサルから転職した入社3年目の林亜衣子さん(39)は、「自分の所属チームだけでなく、他のチームで一緒に仕事をした人も評価者に選べる。ふだん仕事を見てもいない上司に評価されるより、断然、納得感があります」と話す。

うーん、それでも、やっぱり心配だなあ。評価をしてもらう人に「飯おごるから、明日たのむわ」みたいな、談合は起こらないのでしょうか?

谷口さんは、首を横に振る。「5人すべてを抱き込むのは難しいでしょう。それに、評価者を決めるときに、全然一緒に仕事をしていない人を選んでいないか、単なる飲み仲間ではないのか、といったチェックはしています」

「制度上、談合を完全に防ぐのは無理。ただ、あしき因習で飲み会で人事が決まっていたようなこともあるわけで、こちら(5人評価)の方が防波堤は築きやすいし、談合のハードルも高くなると思います」

アトラエではさらに、新たな評価制度の試みとして、それぞれの社員に今後半年間の目標を立ててもらい、全社員に開示している。

産休明けで0歳の子供を連れて出社している広報担当、南香菜絵さん(30)は言う。「今後半年で、育児をしながら自分がどう貢献するか、他の社員に知ってもらう。サッカーでいえば、チームへの貢献の仕方は、ピッチに出て得点を狙うだけではないはず。バリバリ練習はできないけれど、メンバーのユニホームは洗濯できるとか、試合場まで選手を送迎するバスの運転はできるとか、いろんな貢献の仕方がある。自分は、こういうやり方で会社に貢献しますと宣言し、それに基づいて同僚から評価してもらえたら、さらにハッピーです」