1. HOME
  2. 特集
  3. 中間管理職 え、わたしが?!
  4. 「部長がつぶれる前に」 日揮グローバル「3人分担制」がもたらした本当の効果

「部長がつぶれる前に」 日揮グローバル「3人分担制」がもたらした本当の効果

World Now 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages

朝から晩まで会議漬け。会社の重大ミッションをこなしつつ、トラブル対応や評価面談もしなくちゃいけない。とてもじゃないが、身がもたないーー。そんな中間管理職の苦境を救おうと、大胆な改革に乗り出す日本企業もある。その一つが、プラント大手「日揮グローバル」だ。

日揮グローバルは2022年度から、従来の「部長」に加えて、「プロジェクト・コーディネーション・マネジャー」(PCM)と「キャリア・デベロプメント・マネジャー」(CDM)という二つのポストを新設した。1人の部長で大変なら、3人で分担しよう、というわけだ。

これまでにも部長の下に「部長代行」はいたが、あくまで部長のバックアップ的な存在だった。新制度ではPCM、CDMに、それぞれの役割を明確化したのが特徴だ。具体的には、PCMはプロジェクトの配員調整や人材配置を担当し、CDMは部員のキャリア開発や育成を担う。

部門のビジョンや戦略の立案・推進、最終的な意思決定と責任を負うのは「部長」で、部門の責任者としての役割は変わらない。

発端は2021年、20年後を見据えた長期経営計画をめぐる管理職改革だった。

同社ではそれまで、1人の部長が日々の業務のかじ取り、人材管理を統括してきた。このポジションは、人材や予算の管理といった「マネジメント」の役割に加え、激しい事業環境の変化に対応して新しいビジョンを描く「リーダー」役、さらに若手の人材育成も求められる。

「このままでは部長がつぶれる」と最高人事責任者(CHRO)が危機感を抱いていたところに、米国の同業他社からきた外国人幹部が「ミッションを明確にした方がいい」とアドバイスしたのがきっかけだった。

とんとん拍子に話が進み、わずか数カ月という短期間で導入できたのは、「トップダウンでの迅速な決断があってこそ。マネジメント層の形を変えようとすると、ボトムアップ型の提案では難しかったと思います」と、制度の運用を支援する岸田一成氏(日揮コーポレートソリューションズ・人財部長代行)は振り返る。

日揮コーポレートソリューションズの岸田 一成氏(日揮グローバル提供)

新制度は日揮グローバルの主要30組織に拡大。現在約30人から100人超の部門で部長、CDM、PCMが配置されている。部門の特性に応じて、2人制を採用するなど柔軟な運用も認めている。

従業員の反応はおおむね好評で、ある部署のアンケートでは部員の8、9割が新体制を評価したという。
特に効果があったのは、キャリア開発の向上と適材適所の人材配置だ。CDMの設置により、「会社はキャリア開発の重要性を認識している」「社員の長期的なキャリア開発を支援している」という姿勢を従業員に明確に伝えられるようになった、と岸田氏は話す。

さらに、CDMが面談などで部員の希望キャリアを一元的に把握し、長期的な人材育成計画をたてる。その情報はPCMにも共有され、各プロジェクトへの適切な人材配置にもつながる。「個人のキャリア希望を細かく把握し、人材育成の計画も反映した結果、若手の抜擢が増えました」

各部門のCDMが定期的に情報共有し、部門を超えた課題の解決や人材育成、異動にも役立てているという。

もちろん、課題もある。成功の鍵は3人の連携がいかにうまくできるかだ。そのために毎朝必ず情報共有の会議を開いている部署もあるという。

ただ、本来の目的だった部長の業務負担の軽減については「負担感には部門差もあって、全員に期待した効果があったとは一概には言い切れない」と岸田氏。分業された負担は軽減したものの、新たな課題もあり負担が解消されない面もある、という。

それでも、と岸田氏は言う。日本企業ではプレーヤーとして実績を積んだ優秀な人材が引き上げられて、管理職としてマネジメントを担うケースが多い。それ故にどうしても全て自分で引き受ける「プレイング・マネジャー」になりがちだ。

「日本企業ではまだ、マネジメント(管理職)がきちんと職務として認識されていないと個人的には感じています。この制度は、マネジメントの本質を考える機会にもなるのかなと思います」