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「評価」の最前線を取材した記者、「我が社の制度は?」人事部で聞いた

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朝日新聞東京本社(東京・築地)13階にある人材戦略本部を訪ねると、この道20年の人事部次長、柴谷純さん(46)が丁寧に応じてくれた。「朝日新聞の今の評価制度が導入されたのは2007年から。そのとき、二つの大きな改革がありました。『複眼評価』と『絶対評価』です」。そう言って、見せてくれたのはA4判の1枚紙。縦横の線がいくつも引かれたマトリクス表に、細かい文字がびっしりと書き込まれている。

あ! これ、見たことがあるぞ。たしか……ああ、名前が出てこない。「職能資格基準です。所属長が部下の絶対評価をする際の目安です」と柴谷さん。新聞社には、取材記者、編集記者、販売や営業、企画など様々な職種がある。それを14に分類し、それぞれ等級に分けて、求められる能力や出すべき成果の目安を定めた表だ。

朝日新聞社の人事部=五十嵐大介撮影

どれどれ。老眼をしばたたかせ、自分が該当する基準の説明に目をこらす。「部員の原稿について的確に指示をし、迅速に分かりやすく手直ししている」「複雑な事象の背景、問題点を素早く見極め、的確な取材の配置や書き分けを指示している」――。

ひえー、こんな能力を求められていたのか! 恐縮している私に、柴谷さんは言う。「各職場などにヒアリングした結果をまとめました。毎年、変更があるか確認してアップデートもしています。社員専用のサイトにもアップされていますから、最新版が見られますよ」。そ、そうですか、知りませんでした……こりゃ、社員失格だ。

■「夜回り」は評価されるのか?

実際の評価では、この基準に照らし合わせ、13段階の絶対評価に当てはめる。各社員には、その「格付け」が「U、S、A、B…」などのアルファベットの記号で通知される。そして、評価には所属長だけでなく、次長(デスク)も加わるようになった。これが複眼評価で、偏りが出るのを緩和する狙いがあるという。

なるほど。メンバーの優劣を比べる相対評価より公平性が増すといわれる絶対評価は、日本でもほとんどの学校ですでに通知表に採用されている。複眼評価も一定の効果はあると思うけど、今は「360度(多面)評価」と呼ばれ、同僚や部下の意見も加味した評価がトレンドになりつつある。米西海岸の企業などでは、組織の格付けをなくしてしまう「ノーレーティング」という動きもある。そうしたものに比べると、情報の最先端を追いかけるマスコミにしては、朝日新聞の評価制度はだいぶオーソドックスな気がするなあ。

何より気になったのは、職能資格基準だ。何カ月も夜回り取材をして目の覚めるような特ダネをつかんだり、多くの読者をうならせる奥深い記事を書いたり……。現場の感覚からいえば、その辺こそ評価して欲しくなるけど、この基準で果たしてカバーできるのだろうか?

柴谷さんもうなずく。「記者の方から、『こんな画一的な職能資格基準で自分たちの能力が測れるのか』という質問を受けることはあります。コンスタントに記事を出す記者もいれば、年に1~2回、大きな記事を書く人もいる。仕込みの期間もあります。そのような見えない努力や貢献を、どのように評価に反映させるか。所属長には悩みどころのようです」

ただ、柴谷さんはこうもつけ加えた。「評価を行う目的のひとつに、『人材育成』があります。そのためには、部下に求めることを記した画一的な基準が必要です。この基準に満たない場合は、そこを改善することで部下の能力が伸びていく――。職能資格基準には、そういった意義があるのです」

朝日新聞社人事部の柴谷純さん=五十嵐大介撮影

■なめてはいけない上司との面談

朝日新聞では年2回、所属長と部員による面談の機会が公式に設けられている。2~3月に行われる評価面談と、10月に行われるキャリア面談だ。前者は定期昇給・賞与に反映され、後者はどんな働き方がいいのか異動の希望などを伝える場に位置づけられている。かつて、こうした面談は年に1回程度だったが、上司と部下のコミュニケーションの機会をつくるために増やしたという。

だが、この面談というやつが、私は苦手だ。上司は偉大な先輩記者。若い頃は、何か怒られるんじゃないか、小言を言われるんじゃないか、とただでさえ緊張した。面談で何か伝えたいことはないかと問われても、「とくには……」と時間が過ぎるのを待つばかりだった。だが、それではいけない、と柴谷さんは言う。「面談はとても重要です。そこできちんと自分をアピールしないと、公正な評価に結びつきません」

社歴を重ね、評価する側の苦労も分かってきた。入社以来ずっと評価される立場だったのに、所属長になったとたん急に部下の評価をしなくてはならなくなる。私自身、5年前にデスクとして評価に携わったことがあるけれど、人様の能力を測る自信が持てず、ああでもない、こうでもないと悩みながら点数をつけた覚えがある。

「小さな部署なら面談は10人以下で済みますが、社会部のような大所帯になると、所属長は100人以上と面談しなくてはなりません」と柴谷さん。だからこそ、評価者の育成は人事部でも大きな課題の一つで、毎年11~12月に評価者向けの研修を行い、評価とは何かを根本から学ぶ機会を設けているという。

人事部の柴谷さんから会社の評価制度の説明を受ける玉川記者(左)=五十嵐大介撮影

■人間とAI、どっちが公平?

どの企業でも、社員の個人情報を扱う人事部門は、短期間に膨大なデータ処理が求められる。なおかつ、コストを抑えなくてはならない。このため、欧米を中心にAI(人工知能)などテクノロジーを使った人事評価システムが続々と開発され、日本の企業にもその波が押し寄せつつある。朝日新聞の人事部では、AIを入れないんですか?

「費用対効果がまだ見えないところもあって、検討段階です」と柴谷さん。その答えに、なんだかほっとした。深層学習(ディープラーニング)が急進しているとはいえ、自分のデータがAIに読み取られて、人事の判断材料にされるのはあまり気持ちいいものではない。

一方で、柴谷さんは言う。「AIよりもふだん見てくれている上司に評価される方がいい。そう納得できるかどうか。だからこそ、中間管理職がすごく大事だと思います。人事の世界で最も難しいのは、評価する側の教育。そして、される側に評価の仕組みを理解してもらうことです。それがうまくいかないと、互いが不幸になってしまいますから」

柴谷さんの言葉が身にしみた。AIやデータをいくら駆使しようとも、最後に判断するのは人間だ。部下の能力を見極め、情に流されずに人生まで考えて処遇してあげられるか。それを判断する中間管理職の役割が、組織の中でますます重要になってきていると分かった。

今年で48歳。面白いネタを探す努力はしてきたつもりでも、人を見る目を養えてきただろうか? 誰もが「納得感」を持てる評価制度って、何だろう? 「評価」をめぐる悩みは尽きない。順次配信する特集記事を通じて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。