韓国の尹錫悦大統領を内乱容疑で拘束 さらに弾劾審判も 今後の捜査や審判の見通しは

警察などでつくる韓国合同捜査本部は1月15日、前回(1月3日)の拘束失敗に懲りて、万全の体制で臨んだ。
まず、投入した警察要員を前回の30人から約1000人にまで増やした。数百人規模とみられる韓国警護庁の抵抗を許さないためだった。事前に警護庁の幹部らを逮捕し、組織的な抵抗ができないようにした。大統領公邸の周囲を警備する軍や警察の支援部隊とは抵抗しないことで事前に合意した。それでも、抵抗を考える警護庁職員には公務執行妨害に問われる可能性があると通告した。
こうした状況から、尹氏の弁護団は一時、「捜査本部要員を撤収させれば、任意出頭する」と譲歩したが、すでに3度の出頭要請を断った尹氏側だけに、そのような論理が通用するはずもなかった。
韓国大統領府は尹氏が拘束された直後、3分弱の尹氏の談話を発表した。尹氏は拘束手続きを「違法」と断じ、拘束されたのは「違法な手続きに従ったのではなく、不幸な流血事態を避けるためだった」と強弁した。
韓国メディアによれば、取り調べは15日午後9時過ぎまで続いたが、尹氏は証言を拒否した。尹氏はその後、ソウル拘置所に移された。取り調べは16日も続けられる見通しだ。同庁は17日午前までに、長期間の拘束が可能になる逮捕状を裁判所に請求するかどうか判断する。
韓国政府元高官は、「そもそも15日の混乱を招いた責任が尹氏にはある」と語る。元高官は15日の大統領公邸の状況について「戒厳令(非常戒厳)を出した昨年12月3日夜の国会の状況とそっくりだ」と指摘する。そのうえで元高官は、尹氏がここまで拘束を嫌がったのは「本気で憲法裁の審理を経て、大統領職に復帰できると考えていたからだ」と指摘する。
拘束され、内乱罪の捜査が進めば、尹氏に対する世論の風当たりは強くなる。憲法裁の審理にも影響を与え、尹氏が大統領職を罷免される可能性があると計算していたわけだ。逆に、15日に尹氏が拘束されたことで、今後、憲法裁判所の審理で尹氏が罷免される可能性が高まったといえる。
韓国政界の元老で、国会議員を5期務めた金鍾仁(キムジョンイン)氏も、尹政権は、法的な審議を受ける前に、政治的にはすでに「終わっている」との見方を示す。
今回は弾劾理由が単純なので、早ければ2月末にも審理結果が下されるとみられているが、憲法裁が弾劾「妥当」と判断して大統領が罷免された場合、60日以内に大統領選が行われることになる。
韓国の世論調査では最近、保守系与党「国民の力」と進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の支持率が誤差の範囲内で拮抗していると伝えている。しかし、上述の元高官は「保守は団結できていない。保守の支持率上昇も、野党の強引な政治手法を嫌っただけで、保守に対する積極的な支持ではない」と語る。
韓国メディアによれば、15日、大統領公邸にかけつけた「国民の力」の議員は約30人で、全108議員の3割程度しかいなかった。保守系は大統領選に統一候補を出せるかどうかすら危うい状況だ。
これに対し、共に民主党の李在明(イジェミョン)代表は、一審で有罪判決が出た公職選挙法違反事件の高裁(二審)と最高裁の判決を控える。ただ、韓国内では、「大統領選前に二審判決すら出ないかもしれない」という見方が一般的だ。韓国司法も、国民情緒法とも呼ばれる国民世論を無視できないからだ。おそらく、李氏が現時点では、次期大統領の最有力候補とみて間違いないだろう。
一方、もう一つの流れの内乱罪の裁判も今後続けられる。尹氏は内乱罪の首謀者としての嫌疑がかかっている。有罪なら、法定刑は死刑、無期懲役または無期禁錮しかない。他に軍や警察関係者8人の裁判も進むが、尹氏が非常戒厳を主導した事実は動かしがたく、おそらく有罪判決が下るだろう。ただ、過去に有罪判決を受けた大統領経験者らはすべて、後に恩赦・減刑されている。尹氏の場合も、同じ道をたどる可能性が高い。
いずれにしても、今年夏まで、韓国政治は不安定な状況が続くことになる。