「パンダじいじ」は韓国にもいる。ソウル郊外のサムスン系テーマパーク「エバーランド」の飼育員、カン・チョルウォンさんだ。2020年7月、韓国で初めて生まれたパンダの赤ちゃんフーパオ(福宝)との日常を動画で配信したところ、パンダ人気が広がった。
中国のスター誕生物語と似ている。コロナ禍+動画配信+飼育員との物語──。「木登りに奮闘する姿に励まされた」。ファンが書き込むコメントもそっくりだ。カンは言う。「自宅にこもって憂鬱(ゆううつ)な気持ちになっているとき、パンダの動画は気軽に楽しめて、なごめる。かわいい動物としてアップするだけではなく、私は『じいじ』として、ほかの飼育員も家族のような役割で接することで、ファンもその一員のような気持ちになってもらいたかった」
ユーチューブのフォロワーは100万人を超え、アップして数分で50万以上のビューをたたき出すこともあった。フーパオとの日々を描いた映画「さよなら、じいじ」が制作され、著書「パンダじいじと宝ファミリー」は中国語に翻訳されて成都の熊猫書店にも並ぶ。
カンさんは2度目のパンダ担当だ。最初は1994年。中国との国交樹立を記念して、韓国に初めてやって来たつがいだった。だが、アジア通貨危機が襲う。国内は外貨不足に陥り、「パンダにカネをかけている場合じゃない」との批判が巻き起こった。わずか4年で期限前に返した。「別れるとき、似たパンダをいつか連れて来ると誓った」とカンさん。そんな物語もまた、ファンの心に響く。
それから18年が過ぎた2016年3月。韓国にパンダが復活した。フーパオの両親だ。私が初めて訪ねたのは、2年が過ぎたころ。行列はなかった。
ところが、再訪した2024年3月と11月、平日でも1時間近く待った。3歳を過ぎたフーパオが4月に成都へ旅立つ直前は、最長7時間近く待つ列ができたそうだ。成熟期が近づくと、どこで生まれたパンダも、所有権を持つ中国から「召還」される。それが、契約だ。
パンダファンのグループ「フーパオギャラリー」の代表、ナ・ギョンミン(25)さんにソウルで会った。お金を出し合い、フーパオの誕生日を祝う広告をソウルの地下鉄駅に出した。人生、いや「パンダ生」を応援したい。そんな気持ちからだ。
成都で暮らす様子をネットで見て心配している。「元気がないようだ」「健康状況をきちんと公開してほしい」。中国大使館前で何度かデモをした。中国の李強首相の訪韓時を狙ったり、フーパオの好物ニンジンを模した着ぐるみのコスプレで臨んだり。「フーパオを守ろう」「しっかりケアしてほしい」。ニューヨークのタイムズスクエアの電光掲示板でも訴える動きが続く。
その返答かどうか明らかではないが、フーパオを管理する中国ジャイアントパンダ保護研究センター臥竜神樹坪基地は24年12月、こう発表した。「獣医師と飼育員が検査したところ、外見、精神、食欲も異常なし。今後もしっかり検査・観察を続けます」
ファンの手ごわい視線は国境を越えていく。