中韓のパンダブームの背景には似ているところがある。コロナで鬱々としていたときに、かわいい動画が配信されて、一気に身近なペットのような存在になった。家族や友だちみたいな関係でもある。
50年あまり「パンダ熱」が続く日本のファンにとっても、共感できる面はあるのではないか。元祖パンダ「萌(も)え」の日本でも、シャンシャンの登場は一つの画期と言える。パンダ全般に対する関心よりも固有名詞で呼ぶ存在として、より身近なものとなり、ネットを通じて同じファン同士でつながる。
会いたくなれば、動物園に行く。ファンにとって、パンダは会いに行けるアイドル。子供が生まれたり、結婚したり、外国へ行ったり、故郷へ戻ったり。物語にも事欠かない。ホワホワに会いに中国各地から駆けつける。
シャンシャンやフーパオを国境を越えて追っかける。お気に入りのパンダが食事に現れるのをじっと待つ姿は、まさにスターの「出待ち」のようだった。「推し活」は、日中韓でほぼ同時に広がる現象だ。
ただ、こんな調査がある。米ピュー・リサーチ・センターによると、韓国の対中感情は再びパンダが来た2016年以降、好転の兆しはない。中国を好ましく思わない人の比率を見ると、2023年は77%と10年前より27ポイントも悪化した。韓国の世論調査によると「嫌いな国」の筆頭は中国(2023年)。3人に1人が嫌いで、ここ数年で対日感情よりも悪くなった。
日本はどうか。内閣府の調査によれば、日本でも2010年以降、8割前後の人々が中国に親しみを感じていない。
韓国のファングループ代表のナ・ギョンミンさんは言う。「パンダは動物としてとてもかわいい。家族のように愛している。それと中国という国は別。むしろ、愛する動物を外交戦略に使うなんて、あざとい印象も受けます」
中国が「国宝」と呼ぶパンダは、中国の社会や中国と世界との関係を考えるアイコンになりうる。私は北京特派員だった2011年、上野動物園へ出発する直前のリーリー、シンシンを取材したことをきっかけに、13年かけてカタールからメキシコまで21カ国・地域にパンダを訪ね歩いた。
外交を担い、政治と一体のようでありながら、そうとも言い切れない。白黒つけられない、売れっ子グローバルアイドル。彼らが見た世界とは──。後編では、外交特使としてのパンダを追う。