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パンダの「極秘契約」に縛られる動物園 情報管理は徹底、中国側の渡航費用は全額負担

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
米サンディエゴ動物園のオスのパンダ「ユンチュアン」=2024年8月8日、Ariana Drehsler/©The New York Times

ジャイアントパンダの貸与は、厳密な秘密契約のもとで行われる。米首都ワシントンのスミソニアン国立動物園に2024年10月15日に着いた2頭の場合もそうだ。ほとんどの国では、その契約内容が公表されることは決してない。

この動物園を運営するスミソニアン協会の法務関係者は、秘密保持条項があるとして2020年に結ばれた契約内容の開示を拒んだ。非在来種の輸出入を管理している米国魚類野生生物局(訳注=内務省の機関)は、2024年夏にパンダが2頭来た米カリフォルニア州のサンディエゴ動物園に関する契約書を出してはきたが、肝心のところは黒く塗りつぶされていた。

しかし、筆者と取材班は、当局に提出された書類の中から、両動物園などの関連契約書の全文コピーを見つけた。

いずれの動物園のパンダも契約によって縛られている。過去の取り決めと比較すると、数多くのパンダの貸与協定を管轄する中国野生動物保護協会に対して、米国の動物園側がかなりの権限を譲るようになったことが分かる。野生生物保護協会を監督する中国政府の林業当局にコメントを求めたが、返事はなかった。

ここに、契約条項のいくつかをあげてみよう。

■マスコミ対策の徹底

ワシントンとサンディエゴでのパンダの到着は、かなり演出されたメディアイベントだった。一方で、いずれの動物園も記者たちには限られた話しかしないことに同意していた。

米ワシントンのスミソニアン国立動物園に、いずれも3歳のジャイアントパンダ、「バオリー」(オス)と「チンバオ」(メス)を運ぶ車列=2024年10月15日、Eric Lee/©The New York Times

動物園の責任者たちは、パンダの病気や死亡、疾患あるいは「いかなる重要な情報」についても中国側の担当者と協議することなく公表してはならず、中国側の見解は「十分に尊重されなければならない」のだ。

「関連情報を外部に公表する場合やメディアの取材を受ける必要が生じた場合は、当事者間で十分な意思疎通と協議が行われ、双方が合意した場合にのみ実施される」と契約書にはある。「もし合意に達しない場合は、情報を発表してはならない」と続く。

サンディエゴ動物園は声明の中で、動物の幸せを保つために契約当事者同士が話し合い、「最新の情報を公にする前に、相互理解を深める」のは一般的だと述べた。

これより前の契約には、こんな「情報管理」の制限はなかった。

■「お金」の話は禁物

パンダのつがいを中国から借り受けるのに、動物園側は最大で年間110万ドル(1ドル=154円で1億6940万円)を払うことになる。その資金を集めるために、一般の人びとに募金を頼むだけでなく、篤志家から大口の寄付も募っている。

パンダをめぐるこの取り決めは、要するにレンタルだ。中国側がパンダの所有権を保持する。米国側は10年間にわたってそれを展示し、繁殖させる権利のためにお金を支払う。

米ワシントンにあるスミソニアン国立動物園のパンダ用モニター室。2頭が到着するかなり前にできていた=2023年11月2日、Erin Schaff/©The New York Times

しかし、中国野生動物保護協会は、動物園側がこの取引についてそのような形でおおっぴらにすることを禁じている。スミソニアン国立動物園の現行の契約書には、「リースやレンタル、ローン契約もしくは契約といった商業用語を使ってはならない」と定められている。

それ以前、スミソニアン国立動物園はこの契約を「ローン」と呼んでいた。そんな言葉はもうない。今は「共同研究と繁殖のための協定」となっている。

しかし、その「ローン」という用語ですら婉曲(えんきょく)的な表現だった、とロン・ケーガンは指摘する。米デトロイト動物園の元CEOで、在職期間中にパンダの受け入れを見送ったことがある。絶滅の恐れがある動物にお金を払うのは倫理的に問題がある、などの理由だった。

「どんな言葉で呼んでも構わない」とケーガン。「でも、お金を払うなら『ローン』ではない」

■中国側の旅費はすべてこちら持ち

中国のパンダ専門家が助言をしに定期的に渡米するための費用をすべて負担することに、スミソニアンとサンディエゴの両動物園側は同意している。それは、航空運賃や宿泊代、1人あたり100~150ドルの日当にまで及ぶ。「その費用は、米国側から現金などのしかるべき形で中国の専門家に直接支払われる」と契約書にある。

オスのパンダ、ユンチュアンの公開日に米サンディエゴ動物園に集まった報道陣=2024年8月8日、Ariana Drehsler/©The New York Times

さらに、パンダについての研究を実施したりパンダが適応するのを助けたりする場合、あるいは人工授精のような処置について相談する場合も、中国から専門家を呼び寄せることが求められている。

■パンダのライブ映像は制限

米メンフィス動物園のオスのパンダ、ルールーが2023年に死んだ。衰弱していく様子を、パンダ愛好家たちは動物園のライブ配信で見ていた。

この動物園にいたメスのパンダ、ヤーヤーも同じように動物愛護団体や中国のパンダ愛好家が注視する対象になった。やせ過ぎで、毛が抜け落ちていると心配された。

中には、ニューヨークのタイムズスクエアにある広告板に金を払ってその姿を映した人さえいた。

メンフィス動物園によると、ルールーの死因は心臓病だった。ヤーヤーは遺伝的な原因で毛皮にむらのある状態になっていた。

一部の動物園では以前、パンダの映像を24時間態勢でライブ配信していた。しかし、今後はこうした生中継を制限することに同意した。

サンディエゴ動物園は、今は映像を配信するのは日中だけにとどめているという。その契約書にはこうある。「動画などの映像は、動物園がまず検討し、必要があれば編集し、問題がないと確認したうえで公開する」

パンダの公開を翌日に控え、米サンディエゴ動物園ではメディア向け内覧会が開かれた=2024年8月7日、Ariana Drehsler/©The New York Times

スミソニアン協会の保全生物学者の一人、メリッサ・ソンガーが2024年8月に語ったところでは、スミソニアン国立動物園はこの条項の見直しを求め、もっと緩やかな制限になった。それでも、動物園側は時間差を設けて映像を配信することになるだろうとソンガーは明かした。

■決まりを守らねば、即破談

中国野生動物保護協会は、さまざまな理由で契約を破棄し、パンダを中国に呼び戻すことができる。

「許可されていない関連情報の公表」はその一例だ。

「不適切な映像配信」や「死の危険があるパンダの健康問題」も理由となる。

この二つの条項も、メンフィス動物園のルールーが死んでから付け加えられた。(抄訳、敬称略)

(Mara Hvistendahl)©2024 The New York Times

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